第二十五話 休憩所
クリスタルゴーレムを倒した俺達が休憩を終え、再び動き出したのは30分くらい経ってからだ。その間モンスターが接近してきたりしたが、俺一人で倒した。あまり余裕を見せず、それでも危なげなく。
その成果もあてか、ライムは大人しく休んでくれていた。そうして移動を再開し、当然の様に道を覚えているライムの案内の元氷結洞窟を進んで行く。
水属性のブルースライムや、全身氷で出来た蝙蝠型モンスターのアイスバットなんかはこのエリアでは雑魚モンスター。厄介なのはスノウサーベルと呼ばれる白い体毛の虎型モンスターだ。上顎から見える二本の牙が特徴的なモンスターであまり群れる習性はないが、その動きがとにかく素早い。俺もライムも対応しきれる速度ではあるが、あまりスキルを使わずに戦うとなると面倒な相手である事に変わりはなかった。それでも危なげなく対処はしていたし、問題なく攻略も進んで行く。
そうして訪れた19階では、このエリアでレアモンスターを除く一番の強敵と遭遇した。
アイスメイジ。魔法スキルを使うゴブリンであるゴムリンメイジの突然変異種であるそいつは、何よりも危険を察知する能力に長けている。このエリアには他のゴブリン種はいないらしく、それでも絶対に1匹では活動しない。必ず他のモンスターの影に隠れ、遠くから氷属性の魔法スキルを放ってくるのだ。魔法の強さで言えば大した事はないが、それでも現実に襲いかかる魔法スキルはそれだけで脅威となる。例えば氷の刃を作るアイスエッジと言うスキルがある訳だが、スキルのランクとしては最底辺と呼べる代物だ。おそらくダメージとしては殆どくらわないのだろうが、それが直撃すれば傷は負う。フレイムアーマーがある為俺に直撃する事はないが、ライムにとっては十分危険な相手である。
そこで改めて言おう。こいつは必ず他のモンスターと一緒に現れる。それは、本来群れるはずのない別種族のモンスターともだ。最悪なのがスノウサーベルとの組み合わせが。本来スノウサーベル同士でさえ滅多に群れないのに、アイスメイジがいると数匹で群れている事が多いと言う。かと言って、アイスメイジが統率している訳ではないらしい。謎の共生関係だ。
長々と説明してしまったが、ようは今目の前にいる5匹のスノウサーベルと、1匹のアイスメイジはかなり面倒な相手であると言う事だ。
俺が3匹のスノウサーベルを相手にし、ライムが2匹のスノウサーベルを相手にしている。そこに上手い事魔法スキルを打ち込んでくるアイスメイジの存在が邪魔で仕方ない。多少の危険を冒しとっととスノウサーベルを倒してアイスメイジを倒すか、アイスメイジを先に倒してスノウサーベルを安全に倒すか。そんな二択が俺の脳裏を過ぎる。
いや待てよ。こんな時に使えるスキルがあるじゃないか!
「ライム! 俺が合図をしたら一瞬で良いから目を瞑ってくれ!」
「何か手があるのか?」
お互いスノウサーベルの攻撃をいなしながらそんなやりとりをする。
「ああ。それと、最悪少しだけ5匹の相手をする事になるかもしれないが……その時は少しだけ頑張ってくれよ」
「……分かった」
俺の軽い口調から、その可能性が低いと理解してくれたのだろう。ライムは一瞬だけ不安そうな表情をしたが直ぐに俺の言葉に頷いた。
「三秒カウントダウンするから、ゼロで目を瞑るんだ。良いな?」
「ああ!」
「よし。三、二、一……エクスプロージョン!」
カウントダウンに合わせ、俺はそのスキルを発動させた。俺の中での文字は目くらまし大爆発。良く聞く爆発魔法ではなく、俺のは見た目だけ派手な爆発を起こすダメージの殆どないネタスキルだ。
勿論発動の瞬間俺も目を瞑る。
爆発によって生まれた閃光によって視力を一時的に奪われたモンスター達が、その動きを一瞬止める。その隙を突いて俺はアイスメイジへと向かって跳躍。俺の意図を理解したライムも近くにいたスノウサーベルへと剣を振るった。
運が良かった事に、エクスプロージョンによってアイスメイジも動きを止めていた。防御力が殆ど紙同然のアイスメイジを一撃で倒して振り返ると、ライムがスノウサーベルを1匹倒していた。残りは4匹。どうやら直ぐに視力を取り戻しそうらしく、頭を左右に振っている。因みに今更だが、俺のエクスプロージョンは音は殆どしない。武器を手に持ったまま耳を塞ぐのは難しく、自分達にとってもマイナスだからだ。
そこからは楽な戦いだった。いや、2匹ずつを対処する為厄介である事に変わりはないが、良い所で攻撃を邪魔される心配もなく、それから大して時間をかけずに残りのスノウサーベルを倒す事が出来た。
どうやら20階への階段は近かったらしく、その戦闘を最後に俺達は20階に上がる事が出来た。
「へぇ。ここでも商売してる奴とかいるんだな」
塔の20階は休憩所だ。1階と似た様な空間だが、そう広くはない。とは言え、ダンジョンで比べればってだけでそれなりにスペースはある訳だが。
そのスペースを利用して、1階の様に商売をする者が散見出来る。流石に1階程賑わってはいないが。 一度ここまで来た者なら1階と行き来出来るのだから、そんなに簡単に儲けが出るとは思えない。そんな疑問を口にすると、休憩階と1階を繋ぐワープポータルを利用すると、かなり体力を消耗するらしい。使わないでも済むならそれに越した事はなく、消耗品等の需要は案外高いそうだ。
「で、そのワープポータルを利用する為にしなきゃいけない事とかはないのか?」
塔そのものの設備である以上、そこに金銭が発生するとは考え難い。もしそうなら、そもそも塔に入るのに入場料とか取るだろう。
とは言え、例えば一度使用していなければならないとか、何かしらを登録しなければならないとか、面倒な手順が必要な可能性もある。ゲームでは魔法陣に乗ればそれで済んだが。
「特にないな。あそこにある魔法陣に乗れば、数秒で自然に発動する」
その辺は殆どゲームと同じなんだな。
「どこの階層まで踏破しているかは、塔が自然と判断しているらしい。帰りは必ず1階に向かう様だが、聞いたところによると1階の魔法陣に乗った時に行きたい階を思い浮かべると、踏破していれば指定した階の魔法陣に跳べるそうだ」
「それって、何も考えなかったらどうなるんだ?」
「踏破している一番上の階に跳ぶそうだ。まあ、私はどちらにしてもここにしか来れないが」
「なるほどね」
体力を消耗するって部分以外は、やっぱりゲームの仕様と大差ない様だ。
「一応聞いておきたいんだけど、ここから上はどんなエリアなんだ?」
ゲームでは21階から24階は鉱山洞窟の様なダンジョンだった。基本的には大きく変わらない造りみたいだし、似た様なダンジョンだと思うんだが……
「普通の洞窟タイプのダンジョンだな。特別必要な道具はないが、稀に希少な鉱石が掘れる所もある」
ふむ、やっぱり変わらないか。なら、出てくるモンスターも似た様なものっぽいな。
「24階までは洞窟が続き、25階はボス部屋のみとなっている。見た目はダンジョン内にある大部屋と言った感じだが、通常の階層と違って特殊な空間で、誰かが足を踏み入れると数分後には誰も入れなくなる。次にボス部屋に入れる様になるのは、先に入った者がボスとの決着を着けた後だ」
その辺もゲームと同じか。システムと魔法的な要素の違いはあるみたいだが。
「分かった。ライムは何か買い足す物はあるのか?」
「特にないな。そう言うクロウは? 一応言っておくが、ここから先は雑魚の強さも変わるぞ?」
「おいおい。ライムは俺を自分以上だと思ってるんだろ? ライムが平気なら俺も平気だって」
「対処は出来るが、決して油断して良い訳じゃない。場合によっては命に関わるんだぞ?」
ん? 命に関わるって事は、自動的に塔の外に飛ばされる訳じゃないのか?
となると、モナカと最初に会った時の反応は緊急脱出玉の効果を知っていたからか。そして、やはりHPの消失はそのまま死に繋がる可能性が高いと……
気をつけないとな。マジで。
「分かってるよ。別に油断するつもりはないさ。ま、お互い特に買う物はないみたいだし……軽く休んだら先に進むとするか?」
「そうだな」
俺達は空いてるスペースを利用して、少しばかり休憩を挟む事にした。