第二十三話 遭遇
前回、次回は長くなる予定と書きましたが結局いつも通り…戦闘突入前で切ることにしました。
森エリアの踏破は思った以上に楽だった。ライムの能力は便利の一言に尽きる。既に森エリアを踏破していたライムは、一切迷う事なく13階は勿論14階も真っ直ぐに階段へと案内してくれた。そして訪れた15階。俺の苦手な森エリアは終了した。
「寒っ!」
15階に入った瞬間、俺は思わずそんな言葉を発した。
「ここからは通称氷結洞窟。見ての通りの寒さに、モンスターも氷属性のものが現れる」
いつの間にか暖かそうなマントを取り出し羽織っているライムが、淡々とそう告げた。
出来る事なら、下の階で教えておいて欲しかった……
とは言え、俺はライムみたいに防寒具なんて持っていない。となればあれだ。火山洞窟の時と同じ様にスキルで何とかするしかない。
「フレイムアーマー」
ウォーターアーマーの火属性版であるスキル、フレイムアーマーを発動した事で、俺の予想通り冷気を遮断する事が出来た。但し、今の俺は炎そのものを纏っている様な見た目になっている。本来攻撃性の一切ないスキルだが、おそらくスキル対象者である俺以外にはきちんと炎としての役割も果たすだろう。その分、耐性値は早くなくなりそうだが。
「便利なスキルを使えるんだな?」
「まあな。ライムにもかけようか?」
フレイムアーマーに関心を示したライムに、俺はそんな言葉を返した。
「いや、遠慮しておこう。その状態でどうやって動いて良いのか分からないしな」
「普通に動けば良いと思うんだけどな……まあ、無理にとは言わないけど」
使用回数もあるしな。
「それじゃあ進むとしようか?」
「そうだな」
ライムの言葉に頷き、俺達は氷結洞窟を攻略するべく歩き始めた。
「と……そう言えば、ライムは実際のところ何階まで進んでるんだ?」
今まではっきりとは聞いてなかった事を思い出し、俺はライムにそう尋ねた。
ライムが氷結洞窟も踏破してるなら、道に迷う心配もなさそうだしな。
「25階だ」
俺の問いかけに、ライムは悔しそうな表情を浮かべながら答えた。
25階と言うと、もしかして……
「ボスで足止めされてるのか?」
ゲームの時と同じ設定なら、25階には塔における最初のボスが待ち構えている。当然、その強さは普通のモンスターとは比べ物にならない。もっとも、上層に行けばその強さも雑魚扱いされるレベルだが。
「そう言う事だ。何度か挑戦はしているんだが……」
そう答えるライムの表情は、さっきにも増して悔しそうだ。その様子からすると、ある程度良いところまではいったのかもしれない。
「25階のボスって、ミスリルナイトであってるか?」
俺がそう尋ねるとライムは一瞬驚いた表情を浮かべ、直ぐに怪訝そうな目を向けてきた。
「何故それを知っている? ボスの情報は出回っていないはずだが……」
どうやらボスの存在――少なくとも25階のボスはゲームと同じらしい。
「流石に俺の情報源までは教えられないな。とは言え、ガセじゃなくて良かったと言っておくかな」
実際には誰かに聞いた訳じゃないが、この街に来て間もない事になっている俺が塔についてそこまで知っていたらおかしいからな。腕の良い情報屋を知っているくらいに思わせておいた方が良いだろう。
「ふむ……今となっては25階のボス情報なら出回っていてもおかしくはないか……まあ、詮索はしないでおくとしよう」
「助かるよ」
50階以上まで攻略されてるなら、そこまでの情報がどこかしらに出回っているのはおかしくない。とは言え、ライムの言葉から察するに25階よりも上の情報は殆ど出回っていなさそうだ。
塔は財を成すのに適した場だ。モンスターやアイテムは尽きないとしても、人が増えればその分その階層で手に入れた物が増え、当然価値も下がる。となれば、上に行けば行く程その情報が共有されなくなるのも不思議ではない。それが、下層と呼ばれる25階とそこから上の中層を隔てるボスの情報ともなれば尚更だろう。中層に上がれば危険は増すが、その分手に入る物も良質の物になる訳だしな。
「それで、ライムはソロでしか挑んでないのか?」
「ああ」
ライムの返答は意外なものだった。誰かとパーティを組んでるのを見た事はないが、そもそも塔で出会った回数を考えればどうって事はない。それよりも、ライムくらいの腕があるなら引く手数多だろうに……
「正直、あまり他人を信用してないのさ」
俺の疑問が表情に出てたのか、ライムはそう続けた。まあ、気持ちは分からなくはない。ゲームでさえそうだったんだ。現実ともなれば信用に足る人物以外とはなかなかパーティを組めないだろう。
ん? 待てよ――
「と言う事は、ライムは俺を信用してくれてるのか?」
「私よりも強いソロの冒険者なんだ。私を嵌める必要などないだろうし、そうするつもりならもっと早くに嵌める事も出来たろう?」
「それはそうかもしれないけど……」
ライムの返答に釈然としなかったものの、その表情を窺うと何となく頬が赤い。
これはあれだ! 照れ隠しって奴だな!
と言うか、ライムは俺の方が強いって思ってるんだな。同行時にそこまで無茶な事はしてないはずだけど……
「それよりも! 早く進もう。身体を動かしていないと寒くて敵わない」
俺はフレイムアーマーのおかげで大丈夫だが、まあライムはそうだよな。
「そうだな。それじゃあ道案内頼むぜ」
「あまりそこまで頼りにされても困るんだがな……まあ、行くとしよう」
俺の言葉にやや呆れ混じりに頷き、ライムは先行して歩き出した。俺もその後に続く。
その後出てきたモンスターも難なく倒しながら進んでいく。25階までソロで進んでいるのは伊達じゃないと言ったところか。
そして16階に昇って直ぐに、俺達は強敵に出会ってしまった。いや、俺一人なら戦えない相手じゃないが、どうやらライムにとってはかなり厳しい相手の様だ。エルダートレントの様に遭遇率の低いレアモンスター。強さ的にはおそらく25階のボスであるミスリルナイトと同程度だろうか。ゲームと同じならば……
「クリスタルゴーレム……」
このエリアで出てくるアイスゴーレムの上位種。上層を除けばゴーレムの中では最強と言っても過言ではない相手だ。
「ライム、やれるか?」
クリスタルゴーレムは既に俺達に気が付いている。俺もライムも武器を構えてはいるが、まだ距離がある為に戦闘は開始されてはいない。逃げるなら、今しかないだろう。
「戦おう。アレに勝てる様じゃないと、25階は突破出来ない」
どうやら、ゲームでの認識と変わらない様だ。その強さが全く同じかどうかは分からないが。
「分かった。それじゃあ、行くぜ!」
先手必勝。俺の言葉を合図に、俺とライムはクリスタルゴーレムへと向かって駆け出した。
皆様よいお年をm(_ _)m