第二十一話 エルダートレント
前回のラストで街の中を散策すると言ってますが、そのシーンは飛ばしてます。特にイベントもなく、本当にただの時間潰しである散歩と言う事で。
ミルクちゃんの依頼を達成した翌日、俺は早朝から塔へとやってきていた。
持ち物や資金に余裕がある内に、塔内部で資金稼ぎをする為だ。勿論、塔を攻略する目的もあるし、モモと約束したエトルアンの涙が手に入れば言う事なしだ。
そんなこんなで塔を登り始め、地図を片手にまずは10階まで一気に進む。ライムのおかげで次の階段がある方向だけは覚えているから、そっちに向かって歩き出す。
エトルアンがいないかどうか探しながらではあるものの、以前みたいにしっかりと探している訳じゃない為歩調もそれなりだ。途中で見かけたモンスターも、向こうから襲って来ない限りは無視して進んだ。
資金稼ぎだけならとにかく戦闘を繰り返すべきなのかもしれないが、塔の攻略を考えればそうもいかない。それに、少しでも上の階層で戦った方が集金効率も良い。
そうして再び訪れた12階。俺はエルダートレントと対峙していた。木のモンスターであるトレントの上位種で、その能力は普通のトレントの数倍は高い。ゲームの時でさえ滅多に遭遇する事のなかったレアモンスターだ。ウッドモンキーと似た様に、枝を鞭の様にしならせて攻撃してくる。問題は、その枝が何本もあると言う事だ。
単純な強さで言えば、エルダートレントは俺の敵じゃない。その気になれば一撃で倒す事も可能だろう。だが、そんな事をすれば悪目立ちしてしまう。戦闘を始めた時は周囲に誰かがいる気配はなかったが、偶然誰かに見られる可能性がない訳じゃない。警戒し過ぎかもしれないが、真っ当に戦っても勝てる相手なんだから、わざわざ強力なスキルを使う必要もないだろう。それに、こうした戦闘経験を積んでおきたいと言う思いもある。
エルダートレントの連続攻撃をかわし、振りぬかれた枝を斬りつける。奴が攻撃に使っている枝は6本。他にも枝はあるが長さ的におそらく攻撃には使えないのだろう。こうして対峙して十数分が経つが、事実ある程度長さのある6本以外の枝では攻撃してきていない。更に言えば、その6本を連続して振る事は出来るが、一度振るった後にもう一度振るう為にはそれなりのインターバルが必要な様だ。つまり、6連続攻撃をしてきた後には隙が出来る。それ以下の場合は反撃に合わせたカウンターもあり得る為積極的には反撃に出れない。こっちもダメージを受ける覚悟があれば話は別だが。
とは言え、このままじゃ時間がかかる。昼までには20階まで登りたいと思っているから、こいつ相手にそこまで時間をかけたくないのが本音だ。
ならばどうするか。少しくらいなら、有用そうなスキルを使っても問題ないんじゃないかと頭に浮かぶ。使うとして、どの程度のスキルを使うべきか……
俺がそんな風に考えていると、エルダートレントの周囲が淡い光に包まれた。俺のスキルじゃない。エルダートレントがダメージを受けている様子でもない。となるとこれは――
俺は反射的にその場から跳び退いた。正確に言えば右に跳んだ。刹那、エルダートレントから放たれた光が俺のいた場所を通過していった。
通称ソーラービーム。植物系モンスターの上位種が持つ高威力の攻撃方法。ゲームならレベル差や装備的にも大したダメージは受けないだろうが、実際に直撃すればただでは済まないだろう。直接ダメージは大した事ないかもしれないが、少なくとも衝撃はあるだろうし、顔や手など素肌に当たれば間違いなく大変な事になる。
まあ、あれだけ分かりやすい溜めモーションがあるんだ。そう当たる事もないだろう。
それに――
「フレイムシュート」
炎属性の弾丸を放つスキルを使用し、エルダートレントへと放つ。フレイムシュートはそんなに威力の高いスキルじゃないが、炎属性が弱点である植物系モンスターには十分通じるスキルだろう。何よりも、相手へと迫るスピードが速い。そもそも移動速度的には遅い部類に入るエルダートレントでは、決してかわす事は出来ない。しかし反応はしっかりとする。一本の枝を振るい、フレイムシュートを迎撃して見せた。しかしその枝は燃え上がり、もう使えないだろう。燃えた枝は途中で折れて地面に落ちたが、その時には炎は消え周囲に広がる事はなかった。
「オートヒール」
念には念を入れてオートヒールを使用する。まだ攻撃用の枝は5本あるが、接近戦に持ち込む事にしたからだ。
フレイムシュートによって警戒心を強めたのか、エルダートレントはこちらの様子を窺っている。隙がある訳じゃないが、俺はその間に攻勢に出る。地面を蹴って跳躍する様にエルダートレントとの距離を詰める。
そんな俺を迎え撃つ様にエルダートレントは枝を振るう。2本の枝を左右から同時に振るってきたが、俺はそれが届く寸前にスキルを発動させる。
「ファンブルシャドウ!」
目に入ってきた腕を見る限り、おそらく今の俺は自身の残像を纏った様な姿をしている。もしくは、身体がぶれて見えていると言ったところか。
ファンブルシャドウは、5秒間相手の物理攻撃を無効化するスキルだ。エルダートレントはソーラービーム以外にもスキル攻撃があったハズだが、基本的には中距離以上の距離で使えるスキルだったハズ。つまり近距離である今はファンブルシャドウによって俺がダメージを受ける事はない。仮にゲームの知識とは別の攻撃方法があったとしても、オートヒールによって俺のダメージは緩和される。
「喰らえ!」
ファンブルシャドウが枝による攻撃を全て防ぎ、俺はエルダートレントの本体にナイフを突き刺した。そして一撃で倒すべく直接攻撃系のスキルを発動させる。
「斬刑乱舞」
武器が刃のある物である事。その刃が相手に触れている事。この二つの条件を満たした時に発動出来るスキル、斬刑乱舞。対象を無数の斬撃が襲うそのスキルは、ゲーム中では攻撃の瞬間にのみコマンドを受け付けるタイミングのシビアなスキルだった。だが、今は刃を突き刺した状態であれば簡単に発動出来る。エフェクトは地味目だが、その威力だけなら最高クラスのスキル。パッと見では何度も斬りつけている様にも見えるだろうから、見られても変な目立ち方はしないだろうと踏んでのスキル選択だ。
斬刑乱舞を受けたエルダートレントはその体力が尽き、その場で消えていった。
そして現れたのは銀色の宝箱。ドロップアイテムだ。ゲームの時もそうだったが、現れた箱の豪華さによって中身のレアリティも変わる。ドクロワームの時に出た木箱なんかは最低ランクだ。銀色の宝箱は最高ランクではないものの、かなりのレアリティが期待出来る箱だ。一応罠がない事をスキルで確認してから、俺はその箱を開けた。
「エルダートレントの実……?」
ゲームでは見なかったアイテムだ。と言うか、見た目はリンゴだ。調べてみると、どうやら食べると器用さが上がるらしい。
まあ、とりあえずマジックボックスにしまっておくとしよう。
「さて。先に進むかな」
20階まではまだ長い。気を引き締め、俺は階段を探して再び森の中を彷徨った。
それから1時間くらいかけて、ようやく13階に上がる階段を見つけるのだった。
相変わらず短いですが、元々そういうスタンスだったので勘弁して下さい(汗)
にしても、モンスター名タイトル3回目です。安易ですが、楽なんですよね……