第二十話 クエストクリア
今回も短いです。
俺がラック商会へと戻ると、さっきはいなかったラックも戻ってきていた。
事のあらましを伝え、市場の関係者にその旨を伝えて貰う様に頼んだ。
今度こそ、これで今回の市場での問題は解決したはずだ。
さてさて。それじゃあミルクちゃんの所に向かうとしようかな。
記憶の中にある街の地図を思い浮かべ、脇道などを通って農村街へと向かった。それ程時間をかける事なくミルクちゃんの家に着き、俺はその扉をノックした。
「はーい」
ミルクちゃんの依頼を受けたのは一昨日の事なのに、その声が随分と懐かしく聞こえた。
「あ、クロウさん!」
どことなくミルクちゃんが嬉しそうに俺を出迎えてくれる。まだ市場の件が解決した事は知らないはずだから、単純に俺が来たのを嬉しく思ってくれているのかもしれない。そう考えるとこっちの気分も良くなるってものだ。
「今日はどうしたんですか? また何か確認したい事でも出てきましたか?」
以前と同じ様にリビングに通され、お茶を出しながらミルクちゃんはそう尋ねてきた。
「いや。今日は報告したい事があってね」
流石にもう解決したとは思っていないのだろう。ミルクちゃんはただ進展があったとでも思ったのか、控え目ながら喜びの表情を浮かべる。
「な、何でしょうか?」
「市場の一件、解決したよ」
「え!?」
俺の言葉に、ミルクちゃんは驚きを隠せずに声をあげた。まあ当然の反応だろう。
「ほ、本当ですか?」
「ああ。信じられないかもしれないけど、低価格販売をしていたワルツ連合は、直ぐにでも適当な価格販売に戻すはずだ。場合によっては撤退するかもね」
スキルによるスピード生産が出来なくなった以上、安定した供給も出来なくなる。更に一度下げた価格を元に戻す事になる以上、ワルツ連合への客足は遠のくだろう。そうすれば、自然と他の店への客入りは戻ってくるはずだ。直ぐに今まで通りになると言う訳じゃないだろうけど、本当に良い物が適正価格で販売されていればきちんと売れる様になるはずだ。しばらく味よりも価格で選んでいた分、余計に。
「いえ! 信じますよ! クロウさんがそんな嘘をつく必要なんてありませんし!」
「そう言って貰えると助かるよ。まあ、直ぐに元通りって訳にはいかないと思うけど、しばらくすればミルクちゃんのところも売れ行きが戻ってくると思うよ」
「はい! 本当にありがとうございました!」
満面の笑顔を浮かべた後、深々と頭を下げるミルクちゃん。
「気にしないで良いんだよ。俺は報酬の為に動いたんだからね」
「いえ! こんなに速く解決していただけるなんて、きっと無茶もしてくれたんだと思います。それに、そうじゃなくても見合った報酬を用意出来てるとは思えないですから……」
本当に気にしなくても良いんだけどな……
悲しげに俯くミルクちゃんを見て、俺はどうしたものかと思案する。
「……そうだ!」
俺はある事を思いつき、思わず声をあげてしまった。ちょっと恥ずかしい。
そんな俺を、ミルクちゃんは不思議そうな目で見つめてきた。
「えっと……報酬の畑だけど、ミルクちゃんとこの売れ行きが戻ってからで良い」
「え? でも……」
「その代わり、落ち着いたらその畑の管理をミルクちゃんにお願いしたいんだけどどうかな?」
どちらにせよ、俺がスキルで畑を管理するのは色々と問題が起きそうだし。塔を攻略する事を考えれば、畑仕事に時間を割く訳にもいかない。
「でも、それじゃあ報酬にならないじゃないですか」
「そんな事はないよ。正直、塔の攻略をしながら畑仕事をするのは厳しいって分かったしね」
「でも……」
ただ助けて貰っただけとでも思っているのか、ミルクちゃんはまだ納得のいかない様子だ。
「畑を貰っただけだと、現状俺には利点がない。だからミルクちゃんも気が引けるんだよね?」
「はい」
「とは言え、実際に報酬は畑を貰うって事だったからミルクちゃんが気にする必要はないんだけど……さっきのは、俺にも利点があってミルクちゃんも納得いく方法だと思うんだ」
「どう言う事ですか?」
「管理をお願いしたいって言ったけど、何しかしらを育てたりもして貰いたいんだ。その利益が出れば、俺にも利点が生まれる。勿論、ミルクちゃんにも管理費とか労働費としていくらかは渡そうと思ってる。どうかな?」
家の手伝いもあるだろうし、どれだけ時間があるのかは分からない。後はミルクちゃん次第ってところかな。
「……分かりました。一生懸命頑張ります!」
良かった。これで納得してくれたみたいだ。となると、何か育てる物を見繕う必要があるな。
「ミルクちゃんは、元々野菜を作ろうと思ってたんだよね?」
「はい。果物と野菜くらいしか育てた事ないので……」
となると、種類としてはその系統で探した方が良いのかもしれない。果物なら、ステータスアップ系のアイテムにあったはずだし有用性はありそうだ。
「分かった。それじゃあ、何か探しておくよ。その時はよろしくね?」
「はい!」
俺の言葉に、ミルクちゃんは再び満面の笑みを浮かべて答えてくれた。
ぐぅ~。
「あ」
急に腹の虫が鳴いた。そう言えば、結局昼飯食ってなかったな……
「クロウさん、お昼まだなんですか?」
時間は2時半くらい。昼頃に塔を降りてからそれなりの時間が経っている。
「ああ。食べ損ねたのを、今まで忘れてたよ」
そう答えながら苦笑する。ミルクちゃんには、なんだか恥ずかしい姿を見せてる気がする。
「それじゃあ、少し待ってて下さい」
「え?」
「今からわたしが作ります! 料理はそれなりに自信あるんですよ!」
「いいの?」
「はい!」
「それじゃあ、せっかくだからお願いするよ」
「はい。任せて下さい!」
それからミルクちゃんの手料理を御馳走になった俺は、一度燕尾荘に戻る事にした。
日が落ちるまではまだもう少しある。もう一度塔に登ってみても良いけど……やっぱり少し疲れたし、今日のところは少し早めに休もう。とは言っても寝るに早いし、夕食の時間まで街の中を散策してみるのも良いかもしれない。
そんな風に考えながら、ゆっくりと歩を進めた。