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第十七話 ワルツ連合の噂

「おぅ、クロウじゃないか」


 想像以上に気さくな態度で、俺に気が付いたホーンが声をかけてきた。


「スクロールが必要になったのか?」


 俺が口を開くよりも早く、ホーンはそう言葉を続ける。


「まだ大丈夫だ」

「それは残念だ。でも、オレの事を探してたみたいだが?」


 良く見てるじゃないか……


「ああ。聞きたい事があってな」

「聞きたい事、ね……」


 俺の言葉に腕を組み、思案する様に首を傾げるホーン。どうやら続きを促してるつもりみたいだが、何となくムカつく仕草だ。モナカあたりがやったらかなり可愛いと思う。


「情報を買いたい。まさか、アイテムしか売ってないなんて事はないだろう?」


 ホーンが名うてだとは思っていないが、優れた洞察力を持っているのは事実だ。情報が如何に大事で、商品として成り得るかは理解しているだろう。となれば、情報の売買をしていても何らおかしくはない。と言うか、しててくれないと俺の目に狂いがあったって事だし、何よりも現状他に伝手がないから困る。

 ラック商会みたいな組織じゃなく、個人だからこそ知り得る情報が欲しいんだ。頼むぜ、ホーン。


「情報、ね……一体何の情報が欲しいって言うんだ? 言っておくが、オレは塔の事にはそこまで詳しくないぜ?」


 よし。とりあえずホーンが情報の重要性を理解しているって第一段階はクリアだ。


「塔の事じゃない。俺が知りたいのは、ワルツ連合についてだ」

「ワルツ連合って言うと、あのワルツ連合か?」

「他にワルツ連合があるのかは知らないが、多分そのワルツ連合だ」


 何となくノリでそう言葉を返す。いや、分かってるからそんな冷ややかな視線を向けないでくれ……


「今野菜ブースで有名になってるワルツ連動商店についてだ」


 ホーンの視線に負けた訳じゃない。単に伝わらなかっただろうと思い言い直した。


「まあ、そりゃあそうだろうけどな……まあいい。それで、ワルツ連合の何が知りたいって言うんだ?」

「表裏問わずその評判と、今現在どんな商売に着手しているのか。それと、何か表に出せない様な秘密とかがあれば知りたい」

「ワルツ連合と事を構えようって言うなら、オレはお勧めしないぜ。と言うか、せめて一つくらいはスクロールを買ってからにしてくれ」


 返ってきたホーンの言葉は、表情を含め真剣そのものだ。つまり、それだけヤバイ相手って事か……

 俺自身が殺されるって事はないと思うが、組織を相手取る以上俺の周囲の事まで考えないといけない。とは言え、俺はこの街に来たばかりの新参者って立場だし、人付き合いも殆どない。特に心配する要素はないだろう。まあ、その数少ない知り合いに危害が向けられる可能性もゼロじゃないが……


「お前の不安はもっともだ。分かった。とりあえずこの場で一つ買おう」


 そう答えて、俺はマジックボックスへと移しておいた銀貨を5枚取り出してホーンに手渡した。


「情報料込みだ。それに見合うだけの情報はくれよ?」

「分かった。ちょっと待ちな」


 俺の言葉に頷き、ホーンは自身のマジックボックスから箱を取り出した。更に別の小箱を取り出す。

 俺は黙ってホーンの様子を伺う。どうやら、小箱は魔法的な仕掛けが施されているらしい。本来なら鍵穴がありそうな場所には小さな窪みがあり、ホーンはそこに親指の腹を当てる。

 PKからアイテムを守る為のアイテムがあったが、おそらくそれだろう。指紋認証の様なモノで小箱は開き、その中から鍵を取り出す。その鍵で先に出した箱を開け、中身を取り出す。

 そうしてホーンが手にしたのは、帰還のスクロールだった。


「随分入念な保管の仕方だな」

「持ち歩く以上は、これくらいする価値がある。ほら、受け取りな」


 既に自分で保管する必要がなくなったからなのか、今まで厳重に保管していたのが嘘の様に軽々しく放って寄越すホーン。

 文句がない訳じゃないが、まあそれでどうこうなる代物でもないしここは我慢。俺はホーンの放ったスクロールをしっかりとキャッチして、マジックボックスへとしまう。


「おいおい。そんなぞんざいな扱いで良いのか? 何なら、この箱も売るぜ?」


 そう言ってホーンが指したのは普通の鍵を使っている方の箱だ。まあ、小箱の方は貴重そうだし、次の商品を入れる事も考えての言葉だろう。


「必要ないな。誰かに奪われる様なヘマはしないし、したとしてもその時はもう必要なくなるだろう?」


 まあ、殺されて奪われるとは限らない訳だが……どちらにしても、奪われる様なヘマはするつもりはないし、もし奪われても直ぐに奪い返すだけだ。


「あんたが良いなら別に良いんだがな……」


 俺の言葉に、どこか呆れた様に息を漏らすホーン。

 失礼な奴だ。


「そんな事より情報だ。きっちり払った分は教えて貰うぞ」

「分かってるって。そうだな……まずは評判からだな。表向きの評判を言えば、決して悪くはない。客にとっては安く商品を提供してくれる良心的な店を経営してる訳だからな」


 まあ。余程品質が悪くない限りはそうだろうな。


「競合してる店からの評判は悪いが、それに関しては単なる僻みの一種として扱われている。一応、市場全体でのルールで価格崩壊を起こさないって規約があるし、そのギリギリの安値にしているに過ぎないからな」


 ああ、ちゃんとそういった規約もあったんだな。それでも、周囲の店舗――いや、生産者を脅かすには十分だった訳だが。


「裏での評判だが、特にないってのが実情だ。まだ創立から一年にも満たないからな。黒い噂はあるが、それは破竹の勢いで業績を出してるせいで噂の域は出ないものばかりだ。用心棒を雇ったりしてるのは事実みたいだが、それ自体はおかしな事でもないしな」


 大きな業績のある会社なら、ガードマンを雇うのは自然と言える。確かに、それくらいじゃあ問題視はされないだろう。


「その噂って言うのは?」

「よくある話さ。非合法の薬を使って野菜を作っているとか、非合法に奴隷を使って人件費を削減してるとかな。そもそも、この街に奴隷なんて制度はないのにな」


 だからこその非合法だろうに……


「さっきも言ったが、噂の域は出ないし、事実確認は一切されてない事だ」

「分かった。それで、手を伸ばしてる事業は?」

「今のところ、野菜の他には食肉やら飲食関係のみだ。アイテムを売るオレ達には直接的な害はないって訳だ」


 なるほど。だからこそホーンは割りと余裕そうなのか。

 にしても……やはり生産系のスキルを覚えてる誰かがいるとしか思えなくなってきたな。


「で、肝心の情報だ。奴らが表に出せない秘密、何か知らないのか?」


 あったとして、それをホーンが知っている可能性は低い。それでも、少しは期待してしまうのが人の性ってもんだろう。


「……あるにはある」

「あるのか!?」


 驚いた。いや、冗談抜きで……


「だけど、これも噂でしかないんだ。でも、他のアホみたいな噂よりは信憑性が高い」

「それで良い。教えてくれ」


 ここまで言ったんだ。さっき渡した分で足りないとは言わないだろう。


「連合のメンバーが、何もない所から野菜を取り出したってのを見た奴がいるんだ。マジックボックスの類は確かになかった。それなのに、急に空中に野菜が現れたらしい」


 何もない所から野菜を取り出した? どう言う事だ? 生産スキルは、あくまでも生産の補助的なスキルであって、無から有を生み出すスキルではない。なら召喚系のスキルか? いや、野菜を召喚するってのもおかしな話だ……

 だとすると、俺の知る生産スキルとは多少違うと言う事か。

 どちらにせよ、真っ当な手段で野菜やらを作っている訳じゃないのは確かな様だ。今のホーンの情報を信じるならだが…… 


「オレが知ってるのはこんなもんだ。値段にも見合うだけの情報だと思うぜ」

「そう、だな……分かった。後は自分で調べてみるさ」

「おぅ。無事解決したら、またスクロールの購入頼むぜ?」

「ああ」


 俺とホーンはそんな言葉を笑みを浮かべながら交わし、ホーンは自身の商品を広げた場所へ戻り、俺は早速行動に移すべく塔を後にした。

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