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第十六話 ライムとの邂逅

 塔を登る時はエトルアンを探す様にする。

 そう言った俺にモモはいつかきちんとしたお礼をすると答えた。そんなモモに俺は曖昧に笑って頷いて見せた。

 とまあそんな約束を交わしてモモの家を出た後、今度は桜市場へと向かった。

 目的地はワルツ連合商店。昨日のあの男を退かせた事でどうなったのかを確かめる必要がある。

 市場に辿り着くと、他の通りと比べるとかなり活気があった。やはりまだ人ゴミが溢れ返るなんて事はないが、それでも十分に人波がある。

 喧噪に包まれる市場を進み、真っ直ぐに目的地へ向かう。

 そう時間をかけずに辿り着いた店先で、一度足を止めて目の前の店を見回す。

 店は普通に営業しているし、周りの他の店も開いてる。一見すると昨日と何ら変化はない。


「入ってみるしかないか」


 昨日の男との戦闘や塔での戦闘である程度自信もついた。前持ってスキルを発動しておく必要はないだろう。

 店内に入って一通り見て回ったが、昨日と変わった様子はない。ただ、店員が昨日の男とは別の人間だ。


「すみません」


 思い切って店員に声をかける。


「なんでしょう?」


 特におかしな雰囲気はない。店員は至ってまともに返してきた。


「昨日午前中ここにいた店員さんはいますか?」

「昨日の午前って言うと……店長ですか?」


 いや、それは知らないんだが。まあ、昨日戦った男と話をしてた事を考えると、店長と言われて納得出来る。


「多分」

「店長は、今出かけてるんですよ」

「いつ帰って来るか分かりますか?」

「すみません。ちょっと分からないですね」

「そうですか……分かりました。ありがとうございました」


 俺は店員に頭を下げ、踵を返して店を出た。

 おそらく、店長とやらはあの男の元に行っているんだろう。予定では今日仕入れがあったはずだ。その時間が早朝とは限らないが、出かけていると言う事は一度店に顔は出しているはず。その上で、店に戻る時間が不明瞭になる様な出来事となればその可能性は高いはずだ。

 今いる店員が店長に連絡を取る可能性も考え、盗聴のスキルを使用して店内の様子を窺ったがその様子はない。どうやら、あの店員は本当に売り子として働いているだけの様だ。

 となると、現状では手詰まりか? いや、そもそも俺の考えが根本から間違ってる可能性だってゼロじゃない訳で……

 うーん……悩んでたって仕方ない。

 出来る事と言えば、ワルツ連合について調べる事くらいか。とは言え、今の考えが正しいとするならワルツ連合は美味い話に乗っただけの立場だ。もしかしたら、この店の店長の独断である可能性すらある。

 あー、また悩んでるよ。

 こうしてたって仕方ないんだ。それならモモの為にエトルアンを探した方がまだ建設的だろう。

 俺は再び塔へと向かう事にした……



 そんな決意から数時間。

 昼時も近くなっている今、俺は塔の12階をうろうろとしていた。

 いや、はっきり言おう。迷っている。

 10階からは本当の森の中の様なダンジョンだった訳で、エトルアンを探しながらも上を目指し辿り着いた12階。11階は勿論森。12階も森。むしろ良くここまで来たと自分を誉めたい。

 大したドロップアイテムはなく、エトルアンとも遭遇していない為、帰るだけなら別段困りはしない。が、帰還アイテムを使わないに越した事はない。

 ならどうするか。進むか、戻るか……

 1階で確認したんだが、20階は休憩所の様な空間となっていて、1階へと転移する事が可能だそうだ。それどころか、一度転移の魔方陣を使うと、その階には1階から転移する事が出来る。これはゲームの時にもあったシステムで、このシステムが生きていると知って内心では大喜びした。

 とは言え、これだけ迷ってる以上、20階まで昇るのは遠い。なら戻った方が早いだろう。そろそろ感じてきた空腹で更にどうすべきか迷う。

 うーん……


「あ」


 腕を組んで悩んでいると、視線の先に見知った人物を見つけた。

 それ程大きな声を出した訳じゃないが、俺の声が聞こえたのかその人物は足を止めてこちらに視線を向けた。


「何故貴様がここにいる……?」

「いたら何か問題でもあるのかい? ライム嬢」


 どうやら、顔は覚えて貰えたらしい。


「気安く名を呼ぶなと言ったはずだが?」


 そう言うライム嬢の目は相変わらず冷たく鋭い。直ぐにでも剣を抜きそうな気配すらある。


「会話をするのに呼び名は必要だろう? あんたとか、お前とか呼ばれたいなら別だけど」

「……分かった。なら、その嬢はいらない」

「あ、やっぱりちゃんの方が良かったのかな?」

「どうやら斬られたいらしいな」


 そう言って腰に提げた剣に手をかけるライム嬢。

 俺は肩を竦めて見せる。


「なら、呼び捨てで構わないのか?」


 プライドも高そうだから、あまり呼び捨てにされるのも好きそうじゃないんだが……


「ああ。それで、貴様の名前は?」

「俺はクロウだ。改めてよろしくな、ライム」


 そう言って右手を出すが、ライムはそれには応えず言葉だけ「ああ」と返してきた。

 ふむふむ。まあいいさ。


「それで、ライムこそどうしたんだ? ライムの実力ならもっと上の階層にいてもおかしくないはずだろう?」


 実際のレベルや強さは分からないが、少なくとも纏っている雰囲気から察するにライムはかなりの実力者だ。勿論、NPCの中ではだが。


「……どうやら、クロウも見た目とは違う様だな」


 俺がライムの実力を見抜いたからか、それとも12階を一人でうろついているからかは分からないが、少しは見直してくれた様だ。


「どう見てたのかは分からないけど、少なくとも12階くらいは余裕だな」

「余裕、ね……しかし、困ってる様子だったが?」


 どうやら、俺が気付くよりも早くに俺に気付いていたらしい。

 やるな、ライム……


「俺にとっての敵は、どうやらこの森そのものの様だ」

「ふっ。迷った訳だ」

「はっきり言ってくれるじゃないか。まあ、その通りなんだが」

「面白い奴だ。さっきの質問に答えよう。私は今塔を下っているところだ。案内してやっても良い」

「それはありがたい」


 ライムなら20階以上進んでると思ったんだが、間違いか……?

 まあ、俺としては助かるからどっちでも良いんだが。


「なら、ついて来ると良い」

「ああ」


 早速歩き出したライムの後に続いて森を進む。

 特に目印がある訳でもなさそうだが、ライムは全く迷う素振りがない。


「何かスキルでも使ってるのか?」


 俺の知る限り、階段の位置を特定する様なスキルはなかったハズだ。しかしこの世界にないとは限らない。


「いいや。言ってしまえば、私が生まれ持った才能だ。方向感覚には自信がある」


 その言葉だけ聞くと何の説得力もないが、事実ライムは何度も塔を上り下りしているはずだから、その自信は確かなものだろう。

 どちらにしろ迷っている俺からすれば、信じるしかない訳だが……

 それから多少の戦闘があったものの、俺とライムの敵はなく、ライムの方向感覚も実際に正しく、一時間もかからず1階まで降りる事が出来た。


「ありがとう。助かったよ」

「気にするな。良いものを見せて貰ったしな」


 どうやら、俺の戦闘をえらく気に入ってくれた様だ。

 ライムの中で俺の株は急上昇間違いない。


「まあ、その内お礼させてくれ」

「期待しないで待っておこう。それじゃあな」

「ああ」


 塔の中でライムと別れ、俺はホーンを探す事にした。

 同じ商売人だ。もしかしたら、ワルツ連合に関して何か知ってるかもしれない。そう思ったからだ。

 周囲を見回し、ホーンを探す。その姿は、意外に簡単に見つかった。

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