第十一話 ドロップアイテム
バベルの塔5階。
モモにマッピングをして貰いながら進んでいると、最初に遭遇したモンスターはドクロワームと呼ばれる大きな芋虫モンスターだった。人の頭蓋骨の様な模様が頭にあるだけで、実際にドクロが付いている訳ではない。大きさは個体差があるものの平均2メートルくらい。強いと言うよりは、ウザイタイプのモンスターだ。
「お兄さん、あいつの吐く糸には気を付けてね」
既に臨戦態勢を取っている俺達だが、ドクロワームも俺達の存在に気付き威嚇なのか身体をうねうねと動かしている。
そんな様子を見て、モモがそんな事を言った。
ゲームの設定と同じなら、ドクロワームが吐く糸はかなりの粘着性があり、大量に吐き出す糸で冒険者をぐるぐる巻きにしてくると言う相手だ。
「分かってる」
多分同じだろうと勝手に判断して、相手が動くよりも速く俺は動き出した。
エルーザナイフを構えながらドクロワームへと素早く接近し、おそらく糸を吐こうとして上半身と思しき部分を反り上がらせたドクロワームの身体を切り裂く。
4階までは全て一撃で倒せてきたが、ここにきて初めてモンスターを一撃で倒せなかった。
とは言え、それくらいで慌てたりはしない。俺の攻撃を受けたドクロワームは糸を吐く行動を阻害された為、次は体当たりでもしようと言うのか身体をよじらせる。
だが遅い。俺は既に再度接近を終え、次の一撃を浴びせるべくナイフを上から振り下ろした。
ナイフの刃が短い為両断する事は出来ないが、それでもドクロワームの皮膚や肉を容易く切り裂いていく。
エフェクトが出た訳ではないが、何となく今の一撃はかなりの手応えを感じた。もしかしたらクリティカルなのかもしれない。
そのおかげかどうかは現段階では分からないが、二度目の攻撃でドクロワームは力尽き、他のモンスター同様にその場で存在が消滅していった。
これまで遭遇したモンスターは4種類。最初に遭遇したスライムもどきに、普通のスライム。そして直立した小さな犬人であるコボルトと、今遭遇したドクロワームだ。コボルトだけは血が流れていて(緑色だったけど)、攻撃した時に多少の忌避感と不快感を覚えたがそれだけだった。本格的に自分がおかしいんじゃないかと思えてきたが、今更それを気にしても仕方ないと割り切る事にした。
「あれは……」
ドクロワームが消えた場所に、突然小さな木製の箱が現れた。どうやらドロップアイテムの様だ。
エフェクト的には完全にゲームだよな、これ……
「初ドロップアイテムか。今まで何も出なかったから。ドロップなんて本当はないんじゃないかと思ったよ」
モモがドロップアイテムの存在を否定しなかった事から、それはないと分かってはいたけど……
こうして目の当たりにするとちょっとだけ嬉しい。例えそれがどんなにちゃちなアイテムでも。
念の為罠がない事をスキルで確認してから箱を開けると、中には棒に巻かれた糸が入っていた。
「ワーム糸だね」
後ろから覗き込んできたモモがそんな言葉を呟いた。
見た目も名前もまんまなワーム糸は、ゲームにも存在しその価値は大した事のないものだった。おそらくここでも同じだろう。そもそも、こんな下層で価値のあるアイテムが出るとは考えられない。
「ま、一応しまっておくかな」
そう言った後にキーワードを紡ぎアイテムボックスを出すと、モモがかなり驚いた様子で声を上げる。
「空間魔法も使えるんだ!?」
「まあね」
と言うか、アイテムボックスが使えない冒険者はどうやってアイテムを持ち帰っているのだろうか? 小さな物や少量なら平気かもしれないが、予備の装備や回復系のアイテムを持ち込んだ上にドロップアイテムや宝箱から見つけたアイテムを持って帰るとするとかなりの荷物になるはずだ。
その疑問を口にすると、モモは自分が背負っていたリュックの様な物を見せてくれた。
「ボクが持ってるのは箱じゃないけど、コレはマジックボックスって呼ばれるアイテムさ。空間魔法を利用して作られた物で、質量に関係なく決められた数だけアイテムを収納出来る上、品質の保持まで出来る優れ物さ!」
なるほどね。そんな物が流通してるなら、アイテムボックスが使えなくても問題ない。
「これは安物だからあんまり沢山は入らないけどね」
と付け加え、モモは苦笑を浮かべた。
戦闘中に使うアイテムは設定しておけば瞬時に取り出す事が出来るから、俺には必要のない物だ。とは言え、アイテムボックスを使える事自体が珍しいみたいだから、小さめのマジックボックスを持っておいても良いかもしれない。
そんな風に考えながらもワーム糸をアイテムボックスに放り込み、そのまま閉じる。
「さて、それじゃあ行こうか」
「うん」
俺の言葉にモモが頷き、再び移動を開始する。
その後も何度かモンスターとの戦闘があったものの、殆ど一撃で倒せる相手しか出なかった。一撃じゃなくても二撃目で倒せたので苦労の一つもない。
戦闘行為自体にも簡単に慣れ、余程の事がない限りは下層でやられる事はない様に感じた。
「あ! お兄さんあれ!」
二匹のスライムを倒したところで、モモがはしゃいだ声を上げた。
俺は一度モモの方を見て、指差す方へと視線を向ける。
「階段……?」
通路の先に小部屋っぽい空間があり、その中に階段らしきものが見える。しかし通路はそれなりの距離があり、はっきりと階段だと判別は出来ない。
「うん! これで6階に行けるね!」
だがモモはあれが階段だと確信した様子で喜んでいる。思い込みなのか、それとも本当に階段だと判別出来る程に視力が良いのかは分からないが……
「ま、行ってみれば分かるか」
そんな結論を出し、俺達は直線に伸びる通路の先へと進んだ。