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未完成悪魔機械化事典 最強の男

作者: 蔦葛
掲載日:2026/05/03

挿絵(By みてみん)


俺は強い。


はっきり言って強い。どう考えても強い。


まだ高校生だが、世界一強い人間だと断言できる。


「おうおうおうお前か中曽根一郎ってのは」


金髪パンチパーマの学生服の男が絡んでくる。


「誰だお前は」


振り向く。学校の帰り。こういう輩によく絡まれる。


「おめぇが病院送りにしたカワイソーな男の兄貴分だよ!!」


「何の用だ」


「テメェも病院送りに…」


有無を言わさず殴り掛かってくる不良。


それを、ほんの軽く、手のひらで押す。


すると、不良は、10メートルほど、吹っ飛んで、道路を飛び越え、向かいのコンビニのガラスを突き破る。


俺は何もなかったかのように、再び歩き出す。


「いやぁ、新記録だねぇ」


幼馴染の井上が興味深そうに話しかけてくる。


「ずいぶん、手加減したつもりだがな。」


「ねぇねぇ、そんなに強いのに、どーして大会とか出ないの?」


「俺が人間の競争の中に入るのは、明らかにフェアじゃない。」


そう、俺は自分を人間だと思っていない。


「こーいうと、思い上がりだとか、子供故の万能感だとか、思われるかもしれないが、


そうじゃない。一度、自分が全力を出したらどうなるか、山で試したことがある。


木を思いっきり殴ってみた。60メートルはある杉の木だ。


その結果、どうなったと思う?」


「折れた?」


「爆発した。粉々に砕け散った。」


「はぁ?なんでそうなるのよ。」


「こんな人間が居るか?どー考えても人間じゃねぇだろ。」


「じゃあ、なんなのさ?」


「・・・わからん。」


「教えてあげるわ」


突然、知らない人が声を掛けて来た。


その女は、身長が2メートル、頭に蝙蝠の羽が生え、異様なピンクの貴族のような服。


あずき色の髪の毛が、くるくると渦巻きの形を作って、明らかに異様な空気を放っていた。


「井上、先帰ってろ。」


「はぁ?」


「いいから。帰れ。」


「わかっ…」


井上が答え終わる前に、中曽根一郎はその場から消えた。


同時に、怪しい巨大な女も消えていた。


「なによ。もう。」



中曽根一郎は走る。音速を超えないように。アスファルトやコンクリートを壊さないように、優しく。


街中で音速を超えるとどうなるか。衝撃波が発生し、ガラスは割れ、人は吹っ飛び、気圧差で鼓膜は破れる。


そうならないよう、亜音速でビルの上を移動し、街から離れ、誰もいな山の上に移動する。地元にある、標高1800mの山


今は冬。閑散期で誰もいない。街を一望できる。


中曽根一郎は息を切らすことも無く、息を白くすることも無く、平然とそこに立っていた。


そして、あの女も。


「お前、何者だ。」


中曽根一郎が質問する。


俺の同類?同じ存在?いや、違う。この感覚は、俺より、強い。


「私の名はアスタロト、今日は仕事で来ているわ。」


「仕事・・・?」


「あなたを勧誘しに来たのよ。あなたは悪魔になる素質があるわ。」


「あ、悪魔?」


「そう、私は悪魔。魔界において最強の一人。魔王アスタロト。」


普通の人間なら信じないだろうが、


俺は、そのまま信じた。なぜなら俺という存在を説明するなら、確かに悪魔という存在が当てはまると思ったからだ。


「一寸待て、その男は私の仲間になるのだ。」


突然、知らない声がした。


振り返ると、緑色のロングコート、オレンジ色の長髪、鉢巻き、身長2メートルはある男が立っていた。


この冬の雪山の頂上で、どこにも足跡が無い。


「お前も悪魔なのか?」


中曽根一郎は謎の男に質問する。


「私は天使だ。四大天使の一人。ミカエル。お前を迎えに来た。」







「あら~四大天使の中でも最も融通の利かない、頭がタングステンよりも固いミカエルじゃないですかぁ。」


アスタロトが、煽るように、ミカエルの前に立つ。


「・・・」


ミカエルは無視。


「あなたが来るってことはぁ、やっぱりそれだけの意味があるってことですよねぇ?」


アスタロトがこっちを見る。


「俺は・・・俺は何なんだ?」


二人に質問する。俺が今まで17年生きてきて、ずっと抱えていた疑問だ。


その答えが知れるかもしれない。ならば、悪魔と天使と名乗るよくわからない存在にも聞くしかない。


それに対し、アスタロトが答える。


「貴方は、そうねぇ…天使の幼体、種、雛、幼虫、名前は付いてないわ。


天界の杜撰な管理体制の結果、天使となるべき存在が人間の中に混じって産まれてしまったのよ。」


ミカエルが答える。


「30年前、天使が裏切り、天宮を爆破する事件があった。その時に天使の種が地上に落ちてしまった。管理体制の不備ではない。」



真実を知り、衝撃を受けるかと思っていたが、逆に、腑に落ちた。やはり人間ではなかった。


天使になる存在。そういわれれば、そうだったのかと納得する自分が居た。


いや、天使・・・?天使になるってどういうことやねん。


「お前の力は人間の世界では大きすぎる。天界に連れてゆく。」


ミカエルが俺の方へ一歩前に出る。異議を許さぬ過去たる圧力がある。


「いやぁ~、別に天使になる必要はないわよぉ~」


そこにアスタロトが割って入る。


「なにもめんどくさい天使になる必要なんてないわよ。悪魔の方が自由で良いわよ~」


アスタロトが俺の体を手のひらで優しく撫でまわす。ぞくっとする。


「もし、俺が、今ここで、天使になると選べば、どうなる。」


アスタロトが答える。


「そうねぇ、厄介な天使が一人、一匹かしら?増えるなら、天使になる前に、今ここで殺しちゃうわ。」


「悪魔を選んだらどうなる。」


ミカエルが答える。


「今ここで消滅させる。」


・・・本気だ。本気でこいつら殺すつもりだ。いや、じゃあどっち選んでも俺は消されるのでは・・・?


悪魔がやってきて、俺の人生終わりかと思ったが、その後、天使がやってきて、助かったと思ったが、


全然助かってねぇ。やべぇ。





逃げる。


全力で、


山を飛び越え、海を越え、走る。走る。景色が色のついた線状に流れていく。


遂には北海道最北端。宗谷岬に来る。


一時間ほど走ったか。 全力で。これで、


「遅かったじゃない」


アスタロトがそこにいた。テーブルを用意し、椅子を三つ。


ミカエルも座っていた。三段になっている紅茶を飲むときにお菓子を置く奴まである。


ポットがひとりでに動き出し、カップに紅茶を注ぐ。魔法なのかなんなのか。


俺は観念し、椅子に座る。


「ミルクを。角砂糖は三つ。」


テーブルの上の食器が動き、俺の前に置かれたカップにミルクを、砂糖が入っていく。


「アッサムか、俺は包種茶の方が好きなんだがな。」


「それを言うなら、私はブランデーの方が好きよ。あんたに合わせてやってんのよ。」


つまり、俺は未成年だから、酒ではなく紅茶を用意したというのだ。


それならばと遠慮なくクッキーを食べる。流石に走り疲れた。腹が減った。悪魔の食い物を食う抵抗はあったが、


天使も居るし大丈夫だろう。たぶん。しかし旨いなこのクッキー。悪魔が用意したにしては腹立つほど上品で旨い。



「わかった。選ぼう。悪魔か、天使か、」


走りながら考えていた。どうすればいいのか。途中考えながら走ったせいで山にぶつかり、ちょっと地形を変えてしまった。


アスタロトとミカエルがほんの少し、驚いたような気がした。


「へぇ、殺されるの分かっててそう言うんだ。面白いじゃない。聞いてあげるわ。」


椅子に背を持たれ、紅茶を口に運ぶアスタロト。


「・・・」


ミカエルは相変わらず無言だ。


「あと少し待ってくれ。」


「少し?」


「俺が寿命で死ぬまで、あと50年か80年か、未来永劫を生きるあんたらには、一瞬だろう?」


「そうだな。」


ミカエルが答える。喋ると思っていなかったから、びっくりした。


「ただ引き伸ばすだけなら、面白くないわねぇ。なら今ここで殺して帰った方が仕事が早く終わるわよ。」


アスタロトはニコニコ微笑みながら恐ろしいことを言う。しかし、本気だ。本気で、俺を今ここで殺すつもりだ。


「俺が死ぬとき、この世界は生きるに値する。と思えれば、天使になろう。

 俺が死ぬとき、この世界は守るに値しない。と思えば、悪魔になろう。」



ミカエルの顔色が変わる。ギっとこちらをにらみつける。


「つまり、こういうことか。悪魔を選ぶのは、天使が不甲斐なく世を良くできなかったから。」


アスタロトも続く。


「天使になるのは、悪魔が不甲斐なく、世を悪くできなかったから。」


「そうだ。」


両者が考える。


「・・・」


「・・・そういわれちゃぁねぇ。」



紅茶のカップを持つ手が震える。口先三寸でどこまでやれるか。もはや俺にできることはもう無い。


あとは流れに身を任せるだけだ。


長い沈黙の後、ミカエルが先に答える。


「良いだろう。お前の言葉を認めよう。お前が死ぬ時まで、選択を待とう。」


アスタロトも答える。


「良いわ。あなたが死ぬ時まで、待ってあげましょう。」


やった!なんとかなったぞ。


アスタロトが立ち上がる。


「でもねぇ、ただ帰るのもねぇ」


歩いてこちらに近づいてくる。何をするつもりだ。


背後に立った。悪寒がする。


アスタロトが背後から俺の肩に手を乗せる。


その手が、ゆっくりと、俺の肩に食い込んでいく。


ずぶり、ずぶりと、俺の体に入っていく。


「なっ・・・」


なんだ、何をしている。動けない。力が入らない。


「これは、半分もらっていくわ。」


アスタロトの手が、俺の体の中心にある何かを引きちぎる感覚。超絶な激痛。


アスタロトが手を引き抜くと、何か喪失したような感覚に陥る。


「じゃ、これはあんたが死んだときに返してあげるわ。これは賭けの人質よ。」


そう言うと、アスタロトは消えた。


「なら、俺は残りの半分を持って行こう。」


ミカエルが同じように俺の胸に手を突っ込み、何かを引きちぎっていく。


体から骨を直接引きはがされるような痛み。


文句を言う前に、ミカエルも消えていた。


「はーっ、はーっ、あいつら・・・」


虚脱感。体に力が入らない。


いや、まさか、と思い、思いっきり地面を殴ってみる。


痛い。 地面にヒビ一つ入らない。


歓喜の感情がこみあげてくる。


つまり、あいつらが力を奪ったことで、俺は今。人間になったのだ。ただの人間に。


日本の最北端で、痛みに悶えながら、喜びが止まらない。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!!」


海に向かって叫ぶ。


やった。やったぞ。俺は普通になった。俺は人間だ。俺は人間だ!!


人生で一番の喜び。感動。うれしさ。


俺はクリスマスの小学生みたいに、そこらじゅうを走り回った。


飛び跳ねて、笑って、両手を上げ。


そして、気づいた。


「こっからどうやって家に帰るんだ。」

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