第17話 1554年 祝言と初夜
蝦夷島松前郡大館 1554年(天文23年)4月 蠣崎舜広(15歳)
「若殿、この度は安東愛季様の妹君の秋姫様とのご祝言、誠におめでとうございまする!」
「「おめでとうございまする!」」
この祝言を持って私は大殿である安東愛季様の義弟になった。父は蠣崎家が安東家の一門衆となれた事に感極まって涙を流している。母は息子の成長に目を細めている。弟の万五郎や天才丸は、美しい正室を得た私を羨ましそうに見つめている。
うーん、まさか15歳で結婚する事になるとは思っていなかった…。この時代なら普通の話では有るのだが、いざ自分がその立場になると戸惑うばかりだ。硬い表情の私を心配した秋姫が、私の顔を覗き込んで来る。澄んだ瞳に整った顔立ち、艷やかで長い黒髪、年齢の割には豊かな胸元…。正統派美少女過ぎる妻(13歳)は眩し過ぎて、まだ私には直視出来ない…。
何故こんな状況になっているのか、少し思い出してみよう。
出羽国檜山郡檜山城 1553年(天文22年)秋 蠣崎舜広(14歳)
「…以上の経緯により、我らの民を虐殺したハシタインを松前にて処刑致しました。」
父が大殿(安東愛季)に先の戦の顛末を説明している。私と同じ年の主君は、身を乗り出しながら報告に聞き入っている。そして私に顔を向けると、驚きの発言が飛び出した。
「舜広や、わいの義理の弟になってけねが?」
私は予想外の発言に上手く対応出来ず、思わず主君と父の顔を見比べてしまった。父は苦笑いをしながら私の代わりに返事をしてくれた。
「殿、それは殿の妹君の秋姫様を舜広の正室に下さるとの意味でしょうか?」
「あぁ、まさにそん通りだ。言葉足んなぐてすまねな。元々、松前漬けやら玉蜀黍の話で舜広には興味持ってだんだげんど、こんたびセタナイアイヌば制した軍略で、わい、こりゃ間違いねって思ったんだわ。舜広ば安東家の一門さ迎えられれば、安東家はもっと大きゅうなれるってな。」
「愚息に高い評価を頂き誠に忝のうございます。しかし宜しいのですか?確か殿の御姉妹は秋姫様御一人だった筈。てっきり近隣の大名に嫁がせて婚姻同盟を結ぶものとばかり考えておりました。」
「んだ、そん考え、まっこと尤もだわ。わいもな、こん戦さなる前まではそったら風に思ってだんだげんどな。だども南部家当主の晴政殿は36歳でもう歳が合わねし、跡継ぎもいね。他の大名も、これだっ!て思えるとごは無ぇくてな…。正直言や、どうすっぺが〜って頭抱えてだ訳だ。そった中で舜広の活躍聞いで、『あっ、そった手があったが!』って気づいたんだべな。」
「承知致しました。このお申し出、是非共受けさせてください。」
…このような流れで、予想外の時期と方向から嫁が来る事になった。この時代の武士の婚姻は外交の一部というのは分かっていたが、自身がその只中に置かれる事は恥ずかしながら頭から抜けていたようだ。機会が有れば弟達にもこのように決まるのだぞ、と教えてやろう。あれ、将来は私が弟の結婚相手を決める立場になるのか。
そんなこんなであれよあれよと言う間に式の段取りが決まり、私の祝言の日になった訳だ。以上、回想終わり。
蝦夷島松前郡大館 1554年(天文23年)4月 蠣崎舜広(15歳)
回想という名の現実逃避から戻った私は、気付くと寝室に居た。辺りはすっかり暗くなり、広間からはまだ宴会の音が聞こえて来る。
ふと横を見ると、薄い寝間着に着替えた秋姫が正座でこちらを見つめていた。何か言いたそうにもじもじしている姿も相変わらず美し過ぎて眩しい。夜なのに眩しいとはこれいかに。
「舜広様、うちの準備はもうできております。はやぐ、うちに役目ば果たさせでけれな。」
見つめ合うと素直にお喋り出来ないので、息を整える時間をください。手の平に「人」の字を書きながら深呼吸を数回完了した私は秋姫に向かい合った。
「秋姫、そなたの役目とは何を指しているのだろうか…?」
「とぼけねでけれや、舜広様。武家の娘の役目なんて決まってらべ?…跡継ぎばこしぇるごどですよ。」
…ですよね。そんな気はしていたけど。前世基準ではまだ中3の私が、中1の美少女を抱いて子作りを行うと…。事件性が高いなぁ…。勿論秋姫に不満は無いのですよ。手を繋いでデートをして甘酸っぱい思い出を作って、と言うならこれ以上ないくらい大歓迎の超美少女なんだけどさ…。子作りか…。幸い?私の体は去年くらいからその能力が有るようだ。しかし母体の安全を考えると、今手を出すのはまずいよなぁ…。秋姫は小柄でやや細めだし、まずは肉を食べて体作りをしてからにしたい。医療と呪術の境目が曖昧なこの時代、出産は文字通り命がけだ。私に薬は作れないが、蛋白質とカルシウムで体を強く大きくするくらいの事は分かる。幸い蠣崎領は自然に囲まれた豊かな土地だ(婉曲表現)。猪や鹿なら毎日食べられる。近い内に牧畜を始めて、鶏肉と豚肉と牛肉と羊肉で焼肉をするのが目標だったが、秋姫の体作りを考えると計画を前倒しにしなければ。ビール作りは後回しだ、已むを得ない。
「秋姫、よく聴いて欲しい。私はそなたを大切に思うからこそ、暫くはそなたに役目をさせたくない。」
「なんでだっきゃ⁉うちは安東家ど蠣崎家の橋渡しさなれって、兄上から頼まれて海ば越えて来たんだっけよ!うぢではあかんのすか…?」
秋姫の目に涙が浮かぶ。泣き顔も美しいなぁ…、じゃない、ちゃんと説得しないと。
「そうではない!しかし子を成す事は今のそなたの体に負担が大きいのだ。後3年待ってくれないか?そなたが安全に子を産めるように、まずは体を大きく強くして欲しい。惚れた女を跡継ぎと引き換えに失う悲しい思いを、私にさせないでくれ…。」
「…舜広様がそこまで言うんだば…。うぢば大事に思ってくれての言葉だって、ちゃんと分がったがら、今は引ぎ下がるす。3年後、ぜってぇうぢに役目ば果たさせでけれな?兄上にも、ちゃんとそう伝えますがら。」
何とか納得して頂けたようだ。夫婦の不仲が外交問題になるこの時代、夜の営みもまた戦場なのだなぁ…。あれ、秋姫さんや、何をごそごそと探しているのかな?
「…どごさしまったがな…。あっ、あったあった!兄上から、安東家に代々伝わってる秘術の書ば頂いだんだっけ。いよいよ、こいつの出番だべな!」
秘術って一体何の…?ああ、房中術かぁ…。安東家は交易で栄えた家だし、大陸から入手していてもおかしくないよね…。
「心配すんなって〜、房中術ってのは中国4000年の秘伝の術っこだべ?子作り以外にも、いろんな術っこがぎっしり書がってらんし!ああ、うぢは漢文も読めっから、そこも安心してけれな〜。」
心配しているのはそこでは無いんだけど…。中1美少女が中3男子に房中術…。戦国時代すごいなぁ…。
秋姫との子作りが解禁されるまでの3年間、私は松前に居る日は欠かさず中国4000年の秘術を味わわされるのだった。




