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松前の斗星  作者: 和府


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第15話 1553年 第二次ハシタインの戦い(2)

蝦夷島セタナイアイヌ領カミノクニ近海 1553年(天文22年)6月 南条広継(24歳)


「さて、殿に頼み込んで援軍の対象に任命して頂いたまでは良かったが、この大軍をどう打ち破るかな。」


 眼前ではアイヌの大軍が勝山館を攻めている。正確には天の川南岸に築かれた何重もの柵に阻まれ、殆ど進めなくなっている。


「こちらも天の川南岸に上陸して、勝山館の守兵とアイヌを挟み撃ちにして根切りにするか?」


 副官であり、共に松前両島の開拓で苦労した弟に問いかけてみた。こいつはあの任務で驚く程逞しくなった。


「兄上、それで南岸のアイヌは討ち取れるでしょう。しかしアイヌが更に渡河した場合、我々はアイヌと柵の間で磨り潰されますぞ。」


 確かにその通りだ。立派に副官を務めてくれて兄上は嬉しいぞ。


「それでは北岸に上陸して、アイヌの横っ腹を突くか?人数的にはかなり不利になりそうだが。」


「それも宜しくないでしょう。上陸直後は奇襲が上手く行くかも知れませんが、最終的には囲まれて終わりです。船を沈められたら撤退も出来ずに確実に全滅ですね。」


 想定通りの答えに私は頭を抱えた。そうなのだ、援軍と言えば聞こえは良いが、この大軍を倒すには中途半端な兵力しか連れて来られなかったのだ。多少は松前の守りを残す必要が有るのも分かるが、戦になると蠣崎家の小ささを痛感させられるな…。おっと、不遜な考えに至ってしまった、別の事を考えねば…。


「そう言えば出港の直前に若殿から何か書き付けを受け取っていたな。あれは何だったのだ?」


「ああ、これの事ですか?何か書いて有りますね…。えーと、これは今回使える作戦ですね。困ったら使えと有ります。」


 書き付けを受け取り読み始めた私は衝撃に襲われた。そこには我々の兵力でも出来る敵の倒し方が詳細に書いてあったのだ。若殿は軍師としても活躍出来そうだな。


「皆のもの、よく聞け。これから我らは若殿考案の作戦に基づき敵対するアイヌを倒す。」


「兄上、それは奴らを全員討ち取るという事ですか?」


 弟の無邪気な瞳に私は思わず苦笑した。こいつは若殿を神の使いのように崇めているからな、妖術の使い方でも書いてあると考えたのだろうか。だがこの方法は…、考え方によっては妖術よりも恐ろしいかも知れないな。若殿は優し過ぎると少し心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。これ程悪辣な策を作れるなら、我が命を預けるに足る殿になるだろう。


「いや、基本的には我らは敵を討ち取らない。その上でこの大軍を追い払い、上ノ国と江差を取り戻すと書いてある。」


 弟が呆けた顔で聞いているのがとてもおかしかった。私もそんな顔をしている気がするから、人の事は言えないが。


「まずはアイヌの船を全て焼き払って沈めるぞ。奴らは遠くから来ている者も多いからな、徒歩で帰らざるを得なくなれば食料が不安になるだろう。」


 船を沈める作業は大した妨害も受けずに成功した。アイヌに見つからないように、沖合から一気にアイヌの船を襲い沈めた。敵もまさか後ろから船を狙われるとは思わず、殆ど警備兵を置いていなかったのが幸いした。若殿から火矢を大量に持たされたのはこのためだったのか。敵が船を沈められた事に気付いて浮足だった時には、我らは既に沖合に向かって漕ぎ出していた。いかにアイヌが弓の名人でも、2町(約218m)離れれば怖くない。こちらの弓も届かないが、今回はそれでも構わない。


「兄上、次は何をすれば宜しいのですか!」


 弟の目が先程よりきらきらしていて少し怖い。若殿の策を己の手で遂行出来るのが嬉しくて仕方が無いのだろう。


「うむ、次は江差に向かうぞ。若殿がアイヌの有力者に贈り物を度々送っていたのは知っているな?その中でエサシアイヌの長を調略したそうだ。」


「調略ですか、アイヌ相手でも出来るものなのですね。そのエサシアイヌというのは、我らが船を沈める前に北に撤退した一団でしょうか?」


「そのようだな、我らはその長に接触するぞ。もうすぐアイヌの大軍が江差を通って北に撤退するので、道を塞ぐか食料を隠すように提案すれば良い。能力と自尊心が高い男らしいから丁重にな。」


「う…、アイヌを丁重に扱うのは気分が悪いですが、若殿の作戦ならば従うしか有りませんね…。」


 感情が顔に出易いのがこいつの可愛い所であり、未熟な所でもあるな。この戦が終わったらそこを鍛えてやるとするか。


「若殿は他の武士と異なりアイヌを見下していないし、敵とも考えていないからな。和人でもアイヌでも、味方になる者もいれば敵になる者もいるとのお考えだ。アイヌであろうと出来るだけ殺さずに、領民にしたいと仰っていた。」


「アイヌを領民にする、ですか…。今は夢物語にも聞こえますが、いずれそうなれば蠣崎家は大きくなりますね。」


 私は無言で頷くと、エサシアイヌを追った。我らの船が近付くと撤退中のエサシアイヌは武器を構えたが、蠣崎家の旗を見ると長が武器を下ろさせた。長はよく通る声で我らに呼び掛けた。


「カキザキ家の武将よ、我らエサシアイヌに何用か?我らは今回1人も和人を殺していないが、エサシに戻るのを妨げるようならば血を流す事になるぞ。」


 警戒するのも当然だ。撤退する敵を追撃して戦果を広げるのは常識だからな。しかし今回は違うぞ。


「長よ、安心して頂きたい。我らは貴方がたエサシアイヌに危害を加えるつもりは全く無い。我が主からも、エサシアイヌは敵ではなく友であると言われている。我らは貴方がたに提案をしに来たのだ!」


 エサシアイヌに動揺が広がる。贈り物を受け取っている上層部はまだしも、一般兵からすれば和人はまだ遠い存在なので仕方無い。


「どのような提案か?我らに利は有るのか?」


「勿論貴方がたに利は有るぞ!これから上ノ国で戦っているアイヌ達が、北に向けて撤退していく。我らが先程船を全て沈めたから、陸路しか無いな。さて、彼らはどこを通って帰るだろうか?」


「船を沈めただと!?武士らしくない卑怯な戦い方だな…。まあ良い、卑怯なんてのは負け犬の遠吠えに過ぎないからな。戦は勝ってなんぼだ。さて、奴らがどこを通るかだったな。素直に考えるなら、我らエサシの村を通って帰るだろうな。山道は大軍には過酷過ぎる。」


「そうだ、我らもそう考えた。彼らの遠征用の食料も船とまとめて沈めたからな、彼らは大層腹を空かしているだろう。」


「ああ、成る程…。このままでは我らエサシアイヌの食料が奪われ、戦線離脱の腹いせに略奪される事もあり得ると…。全く、爽やかな顔をしながら、あんたは随分と腹黒い策を考えつくものだな。」


「はは、褒め言葉と受け取っておこう。ちなみにこの策を考えたのは私ではなく若殿だ。貴方が着ている美しい衣を考案した方でもある。」


「怖いねぇ、まだ子供なのにこんな怖い事を思い付くのか。調略に乗っておいて正解だったな。で、我らに求めるのは何だ?食料を隠して道を塞ぐ事か?」


「食料を隠すだけで良いぞ。道を塞いだらアイヌ同士で殺し合いになるからな。若殿は友好的なアイヌに死人が出るのはお嫌いだ。どうだ、優しい方だろう?」


「味方でいる内は、だな。まあ良い、その策に乗ってやるよ。若殿には今後の貿易で色を付けてくれるよう頼んでおいてくれよ。」


「了解した。若殿からもその条件で進めるよう指示されている。江差は良い港になるから、開発するのが楽しみだと言っていたぞ。」


「うーむ、エサシは俺達の土地なんだが…。まあ、俺達に利益が出るなら港の開発くらいは任せるさ。和人の商人用の家と倉庫も作って良いぞ。マツマエから届く商品を気に入っている村人も多いから、沢山供給してくれよ。」


「ご協力感謝する!若殿にはエサシアイヌは蠣崎家と共に繁栄する事を望んでいると伝えておく。」


 さて、これで若殿の策の2段階目は完了だ。次は…、海上で待機後に上ノ国のアイヌに矢文を打ち、そして上陸と。これが一番危なさそうだな。まあ、戦いらしい事をまだしてないから丁度良いか。

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