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松前の斗星  作者: 和府


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第12話 1552年 帰還と予感

蝦夷島松前郡大館 1552年(天文21年)秋 南条広継(23歳)


「殿、若殿、早速ご報告の機会を頂き有難く存じます。南条広継以下松前両島開拓団は、1名も失う事無く任務を達成致しました。」


 到着早々殿の自室に呼ばれた私は、殿と若殿に開拓の説明を始めた。「1名も失わなかった」所で御二人のほっとした顔を見て、私の家臣や志願して参加した農民の命も心配して下さる、優しい殿と若殿だと改めて感じた。


「羽毛やぐあの、塩漬けの鳥肉等、採取した資源の一部をこちらにお持ちしました。残りは既に蔵に納めてあります。」


 御二人はまず塩漬けの鳥肉を召し上がり、塩気が適度に利いていて旨いと仰った。保存が効くので保存食や戦の携帯食に採用して頂けるかも知れない。次に羽毛の柔らかさと軽さを堪能した若殿が、これで温かい服や布団が作れる、大手柄だと褒めてくださった。正直そこまでこれに価値が有るとは思っていなかったが、若殿は私の手を握ってこう仰った。


「温かい服や布団は、いずれは領民全員に行き渡らせるのが目標だ。これが有ればまだ体の弱い赤子や童、更には病人が冬を越し易くなる。健康な領民が増える事は国力向上に直結する。羽毛を得る事は新しい領土を得るのと等しいと言っても過言では無いのだ。」


 若殿は我々武士だけではなく、民の健康にまで気を遣ってくださっているのだ。珍しくも有難いお方だ。


「民でも買える廉価版と、贈答品等に使える高級版に作り分けるのが良かろう。高級版を最優先で送る相手は檜山の大殿や京の天皇と五摂家、足利将軍だろうか。ああ、チコモタイン殿のようなアイヌの有力者にも送らねばな。ハシタイン殿や周りの有力者に送り、反和人感情を抑え込めれば有難いな。」


「ハシタイン殿にもですか…?彼は我らの民を虐殺した最大の敵では有りませんか…!」


 私の目の前で行われた虐殺を思い出し、思わず握り拳に力が入ってしまった。そして若殿の考える外交に批判をしてしまった事に気付き、慌てて頭を下げた。


「広継がそう考えるのも理解出来る。確かにハシタイン殿は我らの最大の敵だ。しかし現状では大殿が定めた法度に従わねばならず、こちらから攻め込む事は出来ない。しかし戦場で戦うだけが戦ではない。我らが作った快適な道具で敵対的なアイヌを骨抜きにしたり、ハシタイン殿の周囲の有力者が和人と敵対したくないと思うようにしたり…。敵を弱め、減らすための調略の道具の材料として、この羽毛はとても役立つのだ。」


 若殿はこの羽毛を使ってそこまで大きな事を考えていたのか…。己の考えの至らなさに顔が赤くなるのを感じた。


「まずは私の研究所の裁縫が得意な者に羽毛を渡し、防寒具や布団を試作させるとしよう。製造方法が確立したら、大量生産のために人手が必要になるな。武家の女性や手の空いた民にも手伝ってもらい、十分な給金を与えて蠣崎家の特産品に加えようと考えている。広継の周りで裁縫が得意な者が居れば、是非推薦してくれ。優秀ならば取り纏め役を頼んで給金を増やそう。」


「若殿、人手が必要になるのは分かるのですが、作った者に給金を払うのですか?命じれば普請と同じで給金を払わずにやらせられると思うのですが…。」


「広継、それでは産業として長続きしないぞ。武力で脅してただ働きさせるのでは、どうしてもやる気は出ないだろう。監視の目を盗んでどう手を抜くかを考えるだろう。私は良い製品を作る人には敬意を持って接したい。広継が先日まで乗っていた船を作った船大工もそうだが、私の考えを実際の形に作り上げる事の出来る職人は、本当に有難い存在なのだ。特に防寒具や布団作りが上手い者は、将来私が作る工房の職人としてずっと働いて欲しいものだ。」


「広継、私も舜広の考えを聞いて目から鱗が落ちる思いだ。民に給金を払ってやる気を出させ、そこから職人候補を探すというのは面白いな。」


 殿にとっても考えつかない内容だったのか。やはり若殿の発想は面白い。


「ぐあのは肥料として使うので、まずは研究所の農地で試してみよう。良い結果が出れば、希望する農民から順に試させよう。」


 若殿が満足げに目を細めた。どうやら私は若殿の期待に応える事が出来たようだ。殿が咳払いをし、私と目を合わせた。


「広継、危険な任務を達成した事、誠に大義であった。広継達のお陰で、蠣崎家は離島を2つ獲得し、そこで少人数が一定期間生活する方法を学べた。更には外交・内政の両方で有用な資源を継続的に獲得する目途が付いた。これは相応の褒美で報われるべき成果だ。何か欲しい褒美が有れば言うが良い。」


 褒美か…。任務に必死で何が欲しいか全く考えていなかったな。文字通り何度も死を覚悟する船旅だったからな…。殿の長女を正室に迎えた事で一門衆の立場はもう得ているので、南条家を更に大きくするために欲しい褒美は…。


「殿、ありがとうございます。褒美として、私の長男の松丸を若殿の小姓にして頂けないでしょうか。」


「ふむ、随分謙虚な望みだな。確か松丸は5歳だったか。元々数年後には舜広の小姓として呼び寄せるつもりだったが、それが褒美で良いのか?」


「はい、私は若殿の優れた発想に最も触れられる場所で、我が嫡男を育てたいのです。いずれは若殿の右腕として活躍してくれれば、父親としてこれ以上の喜びは有りません。」


「成程、舜広にとっても理解者が増えるのは有難い事だな。舜広の奇抜な発想に抵抗を覚える家臣も残念ながら多い中、深く理解してくれる家臣が出来るのは素晴らしい事だ。よし、それを褒美として認めよう。舜広も問題無いな?」


「はい、松丸は私にとっては可愛い甥っ子ですし、理解者になってくれるならとても嬉しいです。若い程新しい発想を受け入れ易いですし、良き右腕になってくれると思います。」


 良かった、これで南条家は次の世代も蠣崎家にとって重要な家で在り続けられる。妻は以前「松丸に蠣崎家の家督が欲しい」と言っていたが、流石にこの場でその冗談を言える筈が無い。あれは酔った私の空耳や幻聴であったと考えたい。いや、考えよう。


「父上、この度領有した松前両島の管理なのですが、誰に任せましょうか。私は引き続き広継に頼みたいのですが…。」


「ふむ、現状では広継が最もその任に適しているな…。広継、島の管理も任せられるか?松前両島は広継に与え、そこから得られる資源を蠣崎家で買い取る形にしよう。島には年貢を取る領民が居ないので、管理を任せるだけでは広継が赤字になってしまうからな。」


 これは驚いた、僻地とは言え領地を新たに得る事が出来るとは…。


「かたじけのう存じます!この広継、島を適切に管理し、安定的に資源を納める事を約束致します!」


「ありがとう広継、この島は重要な場所だから信用出来る者に任せたかったんだ。これからも宜しく頼むよ。」


 私は信頼を得た喜びと、松前両島を管理する重責、そして松丸が小姓をちゃんと務められるかの不安を胸に、家路を急ぐのだった。早く妻に報告して喜ばせてやりたい。



蝦夷島松前郡大館 1552年(天文21年)秋 蠣崎舜広(13歳)


 これで9年後の1561年に、私が広継に嫁いだ姉に暗殺される未来は回避出来ただろうか。史実における暗殺の理由は分からない。しかし、私が暗殺された翌年には、明石家に養子に行った弟の元広も暗殺されたらしい。その結果三男で現在4歳の慶広が嫡男となり、1582年に34歳で家督を継ぐ事になった。この機に改めて、暗殺理由を推測してみよう。

 1つ目は、姉上自身が当主になりたかった説だ。しかし女性は基本的に家督を継げないのだから、それは厳しいだろう。父上の息子(総勢13人)を皆殺しにしたとしても、姉上が当主になれるわけではない。せいぜい姉上が嫁いだ広継が父上の娘婿として後を継ぐくらいか。

 2つ目は、姉の息子の松丸を父上の次の蠣崎家当主にしたかった説だ。しかし、姉の嫡男は蠣崎家の嫡流ではないので、私と元広を暗殺しても慶広が、慶広を暗殺しても更にその下の弟が家督を継いだだろう。父上の息子を皆殺しにしたとしても、父上の13人の娘の夫の誰かが後継者になるだけだ。これも流石に現実的では無いな。

 3つ目は、慶広を当主にしたかった説だ。それなら私と元広を暗殺する理由になる。自然に考えるなら、姉上と慶広が共謀して、慶広が家督を継げたら広継を筆頭家老にする等の約束をしたのだろうか。暗殺後に姉上が犯人である事が発覚したため、慶広が姉上を切り捨てて処刑したと考えれば辻褄が合う。広継がこの密約を知っていたかは不明だが、利益を得る立場である以上無罪放免とはいかず、実質的に自害に追い込まれたのも納得だ。

 4つ目は慶広を当主にしたかったという所までは3つ目と同じだが、こちらは慶広との密約ではなく姉上が勝手に行ったという説だ。しかしお気に入りの弟を当主にするために、自身と夫が死なざるを得なくなるような暗殺を行うとは思えない。愛する嫡男の松丸も良くて幼くして出家、悪ければ巻き込まれて処刑だ。

 色々考えたが、3つ目の姉上と慶広の共謀説が一番有りそうだな。その場合は私が幾ら広継や松丸を厚遇したとしても、結局私と元広が邪魔になる事は変わらない。1561年までに私が当主になれば回避出来るかも知れないが、確実ではないだろう。結局早い段階で姉を私と元広から遠ざける必要が有るな。姉を処刑するのが最も手っ取り早いが、正当な理由も無くそれをすれば周囲から私への信頼がガタ落ちになる。私か元広への暗殺未遂が起きてからで無ければ周りは納得しないだろう。そんな囮捜査みたいな事はしたくないな…。慶広を処分するのも論外だ。慶広は史実では、1591年に蠣崎家を安東家の家臣から豊臣家の家臣にする事に成功し、父上から伏して拝まれたと伝わっている。その後の関ヶ原の戦いや大阪の陣も乗り越え、幕末まで続く松前藩の土台を作った優秀な弟だ。難しい場面で活躍させ、私の理想実現に大きく貢献して欲しい弟だ。

 よし、決めた。1561年より前に、南条家を蠣崎家の本拠地から遠ざけよう。上ノ国に移住させても良いし、蠣崎家が領土を増やして本拠地を移すという手も有るな。どちらにも進めるように、準備だけはしておこう。私の国造りを邪魔するようなら、姉であろうと決して容赦はしない。

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