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第5章

宇宙船「ハヌシュ」のコックピットは、計器の淡い光と、窓の向こうに広がる漆黒の宇宙以外、ほとんど光の届かない場所だった。ヤクブは、わずかな光の中で、顔を歪めていた。彼の耳には、妻レンカの声ではなく、全く知らない声が響いている。それは男の声だった。


「もしもし」ヤクブは混乱し、マイクに向かって問いかける。

「誰だ」

返事はない。ただ、空間の向こうから聞こえるざわめきと、奇妙なノイズだけがヤクブの耳に届く。

「誰が話してる?」彼はさらに声を荒げる。不審と恐怖が彼の顔に浮かび上がる。

「助けになろうか?」

その声は、再び彼の頭に直接語りかけるように響いた。


「まさか」ヤクブは目を見開き、信じられないといった表情で呟いた。彼の心臓が、鼓動を早める。これは一体何なのだ?

「ハッキングの可能性は?」彼は、地球の管制室に向かって問いかけた。彼の顔には、疑心と同時に、微かな希望のようなものが宿っていた。もしこれがハッキングなら、もしかしたらレンカからの連絡も、何かの間違いや妨害だったのかもしれない。


地球の管制室では、ピーターがヘッドセットをつけ、真剣な表情でモニターに向かっていた。彼の背後には、忙しく働くスタッフたちの姿が見える。


「韓国でした?」ピーターが誰かに確認するように問いかける。通信の混線、あるいは、予期せぬ交信がどこかの国の宇宙機関と繋がっているのか?


ヤクブは、未知の声に、縋るように呼びかける。「ピーター、いるか?」

だが、その呼びかけに答える者は、ピーターではなかった。

「混信が起きた」

モニターの向こうから、管制室の女性責任者の冷静な声が聞こえた。しかし、その声には、どこか動揺の色が滲んでいた。


ヤクブは、自分の置かれた状況が、さらに理解不能なものになっていることを悟った。妻との連絡が途絶えた原因は、単純な通信不良ではなかったのかもしれない。そして、今、彼の耳元で囁くこの謎の声の正体は? 孤独な宇宙空間で、彼の精神は極限まで追い詰められていた。現実と幻覚の境界線が曖昧になっていく中で、彼は自身の正気を保つことに必死だった。



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