第4章
宇宙船「ハヌシュ」の船内は、ヤクブの深い絶望を映し出すかのように、薄暗く沈黙に包まれていた。彼は無重力の中で、宙に浮きながら、ぼんやりと一点を見つめている。レンカからの離婚宣言。その衝撃は、宇宙の闇よりも深く、彼の心を凍てつかせた。
地球の管制室では、ミッション責任者の女性が、疲労の色を隠せない顔でデスクに座っていた。彼女の眉間には深い皺が刻まれ、その眼差しは重苦しい。
「船長は重圧からか、眠れてません」
彼女はそう報告し、続けて口を開いた。
「彼には見せない」
ヤクブにレンカの状況を隠蔽することを決断したのだ。
その言葉に、若いスタッフの一人が問い返す。「隠す、と?」
彼は困惑と不信の入り混じった表情で、責任者を見つめる。
責任者は毅然とした態度で答えた。「私が彼女を説得する」
しかし、地球の事情を知らないヤクブは、睡眠薬なしには眠れない日々を送っていた。彼の心は常にレンカのことで占められていた。彼は再び、宙に漂いながら、遠い地球に向けて語りかける。
「ピーター、どうだ? 俺の家の様子は?」
彼はかつてピーターとドライブした、木々に囲まれた美しい田舎道を思い浮かべていた。しかし、ピーターからの返答はなかった。
「妻と話せてない」ヤクブは、抑えきれない焦燥感に駆られていた。彼の声は次第に切迫したものになっていく。
「レンカが応答しません。伝言を…」
彼は言葉を絞り出すように頼み込む。しかし、通信は途絶え、宇宙は再び冷たい沈黙に包まれた。
ヤクブは、孤独な船内でレンカの名前を呟いた。「レンカ?」
その声は、広大な宇宙に虚しく響くだけだった。彼に残されたのは、チョプラ雲への旅路と、心に深く刻まれた妻への思慕だけだった。地球の家族という錨を失った宇宙船は、ただ漂い続けるしかない。彼の心は、宇宙の果てよりも深い孤独の中に沈んでいくのだった。