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第2章

宇宙船「ハヌシュ」は、チョプラ雲へと向かう旅の最終局面に入っていた。窓の外には、まさに息をのむような光景が広がっていた。紫と赤の混じり合った、巨大な宇宙のカーテン。それはまるで、遠い銀河が織りなす神秘のベールのように、無限の広がりを見せていた。「チョプラ雲は想像を超える美しさです」——地球で会見を開いたあの女性の言葉が、ヤクブの脳裏にこだまする。目の前の壮大な景色は、彼女の言葉が真実であることを物語っていた。


地球との通信が繋がる。モニターに映し出されたのは、あの責任者の女性の顔だった。彼女は穏やかな表情でヤクブに語りかける。「1週間以内には、雲の粒子を採取して分析します。それが宇宙の謎を解き明かすかもしれません」。その言葉には、未来への希望が満ち溢れていた。ヤクブは、自分に課せられた使命の重大さを改めて噛みしめる。人類の知識のフロンティアを押し広げる、その最前線にいるのだ。


しかし、その希望とは裏腹に、ヤクブの心には最近、新しい悩みができていた。彼は腕を組み、考え込む。その表情は、宇宙の広がりと同じくらい深い孤独をたたえていた。


「時間をみつけて、体を休めてください」と、地球からのアドバイスが続く。だが、休むことすら彼には重労働のように感じられた。モニターに映る「チェコ・コネクト量子」というロゴが、まるで彼の精神状態を映し出すかのように、白く冷たい光を放っていた。


彼の妻、レンカからの連絡は途絶えたままだった。「レンカから連絡は?」ヤクブは思わず尋ねる。しかし、返ってくるのは無言の沈黙、あるいは、はぐらかすような言葉ばかり。彼を宇宙へと送り出す際、彼女は決して賛成していなかった。その不安が、この孤独な宇宙での日々に、さらに重くのしかかっていた。


身体は疲弊し、精神も擦り切れていた。眠れない夜が増え、彼は睡眠薬に頼るようになっていた。「睡眠薬の服用時刻は? 8時半だが?」彼は自問自答する。しかし、この果てしない闇の中で、時間の感覚すら曖昧になっていく。


目の前には、宇宙の神秘が広がるチョプラ雲。しかし、彼の心には、地球に残してきた妻への思慕と、いつ終わるともしれない孤独な旅への不安が、暗い影を落としていた。


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