005 鍛冶屋での勝負?
環境良し◎ 道具良し◎ 材料良し◎ 助手まあ良し〇(小さいけど)
しかし、日本刀で良いのか?
場所が違えば流派、戦い方が違うだろう。
日本刀は細く、薄く、片刃で反りがあるが、異国の剣は真っすぐな物、両刃、それに
針のように細いのもあると聞いた。
ここには剣が無いな、う~む、見に行くか、ここの街には鍛冶屋があるのか?
勇者の剣を打てるのはいないそうだが、普通の鍛冶師なら・・・
ここには水筒や菓子が無いし、いちいち頼むのも気が引けるからついでに買うか。
うむ、出かけよう、街を少しは覚えとかんとな道に迷いそうだし。
財布を持って出かけようとするとシスター・アリシアが案内してくれるという。
「鍛冶屋なら私も行きまっすう! いい鍛冶屋さん知ってますから」
ルアンといったか? 小さな助手さんも来た。
アリシアは少し渋い顔だが、鍛冶助手なので許すようだ。
「おとなしくしていないとダメですよ」
「は~~~い ♪」
出かけるのが嬉しいのか飛び跳ねるように歩いている。
まだ子供だから教会に篭りきりで仕事ばかりではつまらないのだろう。
自分だってたまには気晴らしに出かけたいしな、酒はあまり飲まないが。
他の子達も出かけたがったが仕事をしてなさいとアリシアに追い払われた。
「ついて来てはいけませんよ」
他の子達は影から見つめている・・ 自分が来たので物珍しいんだろう。
街はなかなか大きく、人通りが多い。
地面は敷石で堅く、平らで歩きやすく道路が広いし石造りの大きな家が並ぶ。
露店も多く賑わっていて焼肉や菓子のいい匂いも漂い、子供もいて元気だ。
ルアンがやはり匂いにつられて店に寄っていくがアリシアに引っ張られて戻される。
「鍛冶屋へ行くのが先です、しっかり案内しなさい!」
未練があるように振り返っているから帰りに寄るとするか。
鍛冶屋も大きい方で、武器以外に防具や調度類もあるが、武器等は別の区画となって
専門の担当がいるようだ。
その辺は実戦用の物なので当然だろうし、良い物がある。
剣はやはり日本刀より幅広く厚く丈夫な物で、鎧も厚手なのでそれ相応だろう。
手に取ってよく見ると、名刀とはいかないが丁寧な出来でしっかりしている。
材料や時間を掛ければもっと良くなると思う。
「どうだい、いい品だろう? お客さんは目が効きそうだね」
若い店員が声を掛けてくる、 20代だろうか、これを打ったにしては・・若いが。
「俺のオヤジが造ってるんだ、この辺じゃ一番の名工だよ どうだい一本!」
「いい出来だね、剣の種類としてはこれが一般的かな?」
「そうだな、少し軽いから初級から中級程度で、この上だとやや太いこれが中級、
こっちの少し長いのが上級、このごついのは上級以上で剛力用だねえ」
「ばかたれ! おかしな説明をするな!!」
いきなり脇から野太い声が聞こえた、誰だ? 見るとドアが開いて初老の男がいる。
「剣は力で振るもんじゃねえ、技でだ! お前はまだわからんのか?」
これがオヤジだろうか? 手が厚くタコがあり指が太い、鍛冶士の手だ。
「何だよ! 現に、でかい筋肉野郎が買っていくだろ?」
「あれは力任せの技無しだ、本物の剣士じゃねえ!! 客だから売りはするがな」
そうだ、自分も生活の為の剣を打った、苦い記憶だが。
「こちらの刀工さんですか? 私が使うとしたらどの剣が良いですかね」
「ん?」
値踏みするかのように睨まれた。
客相手の態度とは思えないが、匠とはこんなもんだ。
「手を見せてみな」
黙って手を出す、この反応も思った通りだからだ。
訝し気な顔だ、これも予想通りだが黙っている。
「こりゃ剣士じゃねえが・・・あんたも刀工か?」
「こちらの方は神が招いた名工なんですよ!」
今まで黙っていた小さいシスターが大声を出した。
「こら、ルアン! 黙っていなさい!! 余計な事を!」
口を塞いで苦笑しながら脇に引っ張っていく。
「失礼しました、お話し中に」
「「神が招いた・・・?!」」
鍛冶屋の二人がポカンと見つめているが、なんと説明すればいいのか?
大体自分のような例は、よくあるのか、珍しいのか、それさえ知らないが、もしかすると極秘事項なのだろうか?
「シスターが付き添っているから妙な客とは思ったが、この手は嘘とは思えんし、相当な経験があるのはわかる・・・ う~~ん」
眉間にしわを寄せて手を離し、棚を見つめ上の方から一本を下ろした。
「これを見てどう思う? 遠慮なく言え!」
顔の前に剣を突きつけられ、両手で受け取りよく見る。
それまで見ていた剣とは一味違うのはすぐわかった。
「これは・・・地金が違うか? 研ぎも違うし切れ味より丈夫さを求めたのかな?」
自分の知る金属ではない、鉄では無い物が使われている。
「ほう・・ わかるか! なるほどな」
「そんなのがあったのか? 俺、聞いてないけどこれが、か・・?」
「お前は黙っとれ! お前とは目が違う、これが本物の目利きだ!」
自分の鑑定で合っていたようだ
「これは幾らかな? それと他に少し太い上級用の剣を2振り欲しい、剣を打つ手本用にしたいんでね、自分が打っていた剣と違うので」
「おう、手本と来たか、これは金貨・・5枚、と2本はタダにしとく、持ってけ!」
「え! オヤジ、それは金貨12枚だろ、いいのかよ!大赤字だぞ」
「お前は口出すな! 客人、その代わり剣を打ったら見せてくれ、すぐにだ!」
「わかった、打ったらすぐ持ってくる・・感想を聞きたいしな、よろしく頼む」
「おう、それまでわしも、もっといいのを用意するぞ!」
何だか勝負を挑まれたようだがまあいいだろう、良い知り合いができそうだ。