046 街の巡回
「そういやぁ、お前って名前なんてんだ?」
兵士の一人から唐突にそう聞かれたが名前を言ってなかったか? 考えたがまるで名乗った覚えがない・・な、何にしようか。
「言ってなかったか、ムラー だ。 ムラー・テイク 」
「俺はシーズだ、 うちのボスはおおざっぱだからな、名前なんかどうでもいいって考えでよ、生き残れば覚えられる・なんてな」
「俺はビショップだ、 すぐ死ぬ奴もいるしな、そんな名前を憶えてもしょうがないって言ってんだ、生き残るのが先決だって」
辺境部隊は荒くれの集まりとは聞いたが生き残るにはそうならざるを得ないか、よほど厳しい環境らしい、だからこその大国なのか。
あと3人も強面たちだ。
「おりゃあゲイリー、そっちの二人はムザックとロンドだ、無口コンビだからめったに喋らないが嫌な奴等ではないぞ」
「おれはこいつよりは話す、同じじゃないぞ」
無口と言われた一人が隣を指さして言う、が、隣の男は不満そうに睨む。
「我は必要な事は言う、無駄口無いだけ」
外国人なのか発音が少し違うし顔のタイプも違うか? 異民族のようだ。
だから話が少なくなりがちなのかと思う。
自分もそうだから似た者同士かと親近感がわくな。
「そうか、みんなよろしくな、まだ信用されてないだろうが」
「役に立てばいいんだ、強ければ部隊の役に立つ、皆がその分長生きできる」
最初に話したゲイリー・だったか? が言う。
中肉の短い銀髪、顔が細く長身で気さくな態度、腰には細めの剣と長めのナイフ数本、厚手の皮服の上下と、手袋にブーツで他の兵は甲冑を付けてるのもいるが、頭や胸、腕など一部であり軽装でスピード重視のようだ。
「それにしてもお前良い物着てるな、フル甲冑なんて元貴族なのかよ」
「ああ、田舎の没落貴族ってやつでな、こいつは貰い物だ・古いがまだ使えるからな」
「どうりで剣筋がまっとうだと思った、俺達なんぞたいてい我流だからな、ボスは違うけどよ半分は正統派でな」
隊長の動きは確かに見事だった、流れるような無駄のない動きで瞬時に間合いを詰めて仕留めていたしあれは我流とは思えないが、半分? なぜ半分なんだ。
「隊長殿は実戦であと半分を自分で考えたそうだ、正統流派を補う為にな、乱戦や妙な武器に対応するためには御綺麗な技だけでは駄目だとさ」
なるほど、盗賊のおかしな戦い方や自作の武器の事も有るし、あんなものを使うやつらとやり合うには違う考え方が必要になるか、尤もである。
あの場面で隊長の助けが無いと危なかったしな。
「さてと、んじゃどこから案内するかな、 おうお前ら、どこから行く?」
馬は表通りを進んでいて両側には石造りの大きな建物、道は広く石畳で平ら、出店や屋台が並んでいて人通りが多く大国の街は賑わっている。
昼間に見られるのはありがたい良い景色だし、一応治安は良さそうだ。
「じゃあこのさき右の屋台通りはどうだ、最近揉め事が起きてるってよ」
「ああ、場所代上げるだのナワバリ争いだの、場所を広げるとかなんとか、顔役が変わったせいだってな」
「そいつらを捕まえるのか?」
「場合によってはな、だが俺達は何でも手を出すわけじゃないんだ、騒ぎが大きくなったらでな」
馬はゆっくりと通りを進み、角を曲がると屋台の数が増して少し道が狭くなり客が道路にも大勢いる。
兵士の馬と見て皆道を開けるとその先に言い争っているらしき数人が見えた。
「おお、やってるやってる、早速だな」
「暇つぶしにはなるかな?」
シーズとビショップだったか? が、ニヤニヤとしながら先に行き揉めている数人を挟むように止まるとその者たちは二人を見上げて驚いている。
「ようお前達、何盛り上がってるんだ・俺達も混ぜてくれよ」
「へ、辺境部隊! 、なんでここに」
「いま、新人の研修中でな、街を案内してるんだが、何の騒ぎだ? ん?」
騒いでいた男達が顔を見合わせて戸惑っているが、敵同士の様にも見えたがどんな関係なのか状況がつかめない。
「ちょっと聞いとくれよ、こいつらが場所代を上げるとか両方によこせとか好き勝手言い出して嫌なら締め出すだの、しまいにゃこいつらが揉めだして商売の邪魔だよ、まったく!」
屋台のおかみさんらしき気丈なのが隊員に叫ぶと、男達の顔色が変わった。
「ほう、そうか・・・ 」
馬上からシーズが睨みつけながら、馬をゆっくりと更にそいつらに近づけた。
「お前ら、グエン一家とワイデン商会の手下だな、前にも言ったはずだがな、お前達のボスに伝えておけ、調子に乗ってると両方潰すぞってな、わかったか?」
剣を抜いて男達の顔を撫でるように動かすと顔色をますます変えて離れていき、走り出してすぐに姿が客達に紛れて見えなくなった。
「やれやれ、助かったよ兵隊さんちょうどいい所に来てくれた」
「ああ、どうも最近行儀が悪いと聞いたんでな、あいつ等少し締めとかないとならんかな、しょうがねえなぁ」
「お礼に果物でもどうだい、持って行っとくれよ」
おかみさんが大きな袋に手早く数種の果物を入れて手渡すと、シーズはそれをこちらに差し出した。
「お前にやるよ、入隊祝いだ! 美味いぞ」
「お、俺にもくれ、これ好きなんだ」
「こっちにも」
袋を受け取ると横から手が出てくる。
強面のごつい男たちなのに、まるで子供のようだと内心おかしくなり笑いをこらえた。




