041 貴族の来客
「名刀が欲しい!」
やってきたお客からいきなりそう言われてしまった。
相手は20代前半だろうか、銀髪の男で同じ髪色の10代の女の子を連れていて二人とも貴族らしく兄妹だろうか、親しそうだ。
「こちらは先ほど話したお客様でムライ殿の剣を買いたいとおっしゃっていましてな、ぜひ実物を拝見したいとのことでお見えになりまして」
司祭が愛想良く相手をしているのは教会への寄付をはずんでいる家とのことだし、こちらもそれなりの対応をせねばならない。
剣とは良い物は高価になるしお客もそれに見合った上客でなければならないのだ。
美術品の様で抵抗もあるが致し方ない事だ。
「これは恐れ入ります、私のような無名の者にご足労戴き感謝いたします」
「挨拶より剣を早く見せてもらいたい、有るのだろう? ここに!」
「お兄様、失礼ですよそんな言い方」
隣の子はやはり妹で、男の袖を掴んでつんつんと引っ張りながら身を寄せている。
長めのカールした髪が揺れて青い大きな目の愛嬌のある雰囲気だ。
「すみません、兄は剣や武具が大好きで、特に名刀に夢中で」
「好きなだけではないぞ、鍛錬もしている! 一流の武人になる為にな」
「そうですね、一応は、 一流にはまだ遠いですけど」
妹は苦笑しながら同意している。
努力はしているが、微笑ましい段階? のようだ。 それはまあいい。
こちらも無名の段階なのでお客が来るだけでありがたい。
「しかし申し訳ないですがまだ試作の段階でして、今は槍を造ったところで、剣の方はまだでして、この後を予定しております」
「え?! 剣は無いのですか・・・・」
当人、愕然と言った顔で大変申し訳ないが、待ってもらわないとな。
取りあえず槍を見せておこうと思うが。
「それでしたら私のをお見せしますか、見本程度という事で・・ 以前いただいたのがありますでな」
司祭がそんな事を言い出したが、以前? そう言えば試作品を贈ったのだったか、すっかり忘れていたな、確か小刀だと思った。
「おお、そうですか! あるならぜひ拝見したい、すぐに!ぜひ」
「もうお兄様、落ち着いてください、お父様に叱られますよ」
何だかやはり仲良くて微笑ましい兄弟だ。
貴族にしては気さくな感じがするし、いいお客になりそうだ。
司祭がすぐに剣を持って戻って来て二人に差し出すと兄は吸い寄せられるように手に取り、ごくりとのどを鳴らしながらゆっくりと鞘から抜くのを妹がそばで見つめている。
シュルリと抜けた剣が教会の窓から差し込む光を受けて鋭く光る。
思い出した、これは実用より美術品に近く仕上げた物だったが、落胆させないだろうか・ 実戦用を求める人からすれば意にそわない剣だ。
「おおお、これは何と! 見事な品ですね、素晴らしい!!」
「本当、何て綺麗な剣でしょう、キラキラと鏡のような」
女性が言うのはわかるが剣士にとってはこの見た目は不満のはずだが、そこは貴族か美術品としての欲求もあるらしく助かった。
二人は食い入るように掲げた剣を見つめている。
「試作品で、実戦用ではありませんがお気に召したようで何よりです、 もしお望みでしたらご注文通りに打ちますので、長さや重さを指定いただければ」
二人とも無言で見つめていたが妹の方が先に我に返って、剣から目を離して言った。
「これなら私も欲しいです、お父様に頼んで買ってもらいますわ」
「え、ちょっと待て、 僕が先だぞお前は付いてきただけだろうが」
「お兄様はたくさん持ってますよね、私はありませんもの、ですよね?」
「待て待て、それとこれとは別だぞ、これは別格だ・今まで見たうちで一番の出来だからなぜひこれを買いたい、何をおいてもだ!」
仲がいいと思っていたら言い合いを始めてしまったな、これはどうすればいいのか?
ちらりと司祭の方を見ると察してくれたらしく、間に入ってもらえた。
「まあまあお二人とも、何でしたら私の物をお譲りしましょうか? これでよろしければですが」
「あ、いえいえ、それには及びませんわ司祭様の物を、そんな」
「そうですよ、私とてそこまで図太くはございませんので、お気遣いなく!」
二人は慌てて手を振り言い合いは一応収まったが、まだ剣から目が離せず自分が先にと目が語っているのがわかる。
そこまで望んでくれるのは鍛冶師としての冥利に尽きるが、いかがすべきなのか。
「もう、お兄様ったら、じゃああのことを・・・・・・ ・・ ですわよ」
「なにい? ならお前だって・・・・・ を、・・・・じゃないか? 」
「ま! それなら・・・・・はどうなんですか、・・・・・だってありますよ」
何だろう、二人で内緒話を始めたが脅迫し合っているようにも見える。
仲がいいのか悪いのか? わからん兄妹だな、まったく。
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