039 試し突き
研ぎに入るともうアリシア達は手を出さない。
だが研ぎ場の道具はもとより鍛冶部屋全体の空気がいつもと違い、不思議な青い光明と気配で礼拝堂以上の神聖な気配に満ち、目も体も軽く澄み切ったようだ。
全身の神経が敏感になったようだが心静かで緊張は無く、砥石と穂先の見えない表面の様子まで全て感じ取れる。
ただの気のせいとは思えないほどの感覚、こんな経験は一度もなかった。
どれほど研ごうと疲れないと思えるほどの集中と、鋭い感覚、乱れ無き平静、澄んだ空気とブレない体、これが加護の力なのか。
そして今、「研ぎの終了」と言われたように手が止まる。
これ以上は無駄と全身が止まるほどの感覚、まさに完成の瞬間を教えられたように。
疲れは全くないが、深く息を吸った。
いつもの自分に戻ったように呼吸が変わり、なんだか戸惑ったから。
「完成・ですね」
穂先を両手で掲げるとアリシアがそう静かに言った。
完成ですか、とは言わなかった、彼女も感じ取っているのだろう、歓声の気配を。
「ふあ、出来た・・・ 炎の槍!」
ルアンも感じていたように目を見張り顔を紅潮させて見つめ、高揚しているらしい。
いつもと違って騒ぎはしないが。
鍛冶場の明かりは不思議な青から、白、オレンジといつもの色は変わり、空気も平常へと戻って行き神聖さが薄れていく。
何だか残念な気がするが仕方なくもあり、また経験できるだろう。
「さっそく試しましょうよ~ 、試し斬り・じゃなくて試し突き!」
「そうですね、試してくださいな」
二人に言われるまでもなくぜひ試したい、すぐに。
それも普通の槍としてではなく、付与した火の魔力の方を。
自分が使えるのかもぜひやってみたいし。
穂を柄に付けてすぐに槍として完成し、砂袋などで試す準備ができた。
「では使ってみてくれ、炎の槍として・・・ できるよな」
「私が先でよろしいですか、本当に?」
「私も使いたい~~ 少しは魔力有るし~」
場所は裏庭、人目が少なくそこそこの広さはあり、日差しが眩しい。
ずっと地下にいたせいか日光がありがたく全身を温めるのが心地よい。
こちらにも少し花があるが傷めないよう離れた所、枯れ木に砂袋を縛りつけて的とした、それも低い所から高い所へ4つもだ。
ルアンは小さいので低めのはわかるが、高いのは要るのかと思うが・・・・
「槍というのは相手が大きくても使えるようでないと、その為の長さですよね、魔槍は特に!」
それもそうだが、まあいいかと任せることにする・・ 二人が張り切っているようだから好きにしてもらい、ついでに教わろう。
達人の時間としては別に・だ。
二人が使うには少し長いが槍を渡し、使い心地を見てもらうが二人ともやはりぎこちないのは仕方ないか、シスターでは武器など使っていないだろうしな。
しかし二人とも目を輝かせて槍を取り合い見つめ、握り心地を味わっている。
それはともかく早く使ってくれないかな。
取り合いが収まってアリシアが槍を持って的へ向かう事になり、持ち方を教え構える、が、まだ少し違うが良しとしよう。
「そして腰を落としてひねりつつ突き出すのだけど、いいかな?」
「はい、こうですね」
ルアンが不満そうに見つめているのを横目に動作を教えるが、どうしても体が近くなるので照れ臭いが、何とか耐える。
シスター達は平気そうだ、 自分が慣れていないせいだろう。
そんな自分の戸惑いをよそに、二人が祈り? 呪文なのか?唱え始め目をつぶりアリシアの持つ槍の色が変わり始めた。
柄の部分はより黒く、穂は深い赤に変わっていき、艶の部分は薄い黄色へと、全体に見ると穂が明るく見えるが光っているわけではない。
だが、穂の周りはゆっくりと熱されたように陽炎がゆらゆらと揺れて神々しい、これが魔力の顕現なのか、不思議な体験だ。
そして遂に炎が現れたが、槍を水平に構えているのに炎は上へではなく前へと伸びる、明らかに普通の炎とは違い意志を持っているかのように。
それが徐々に長くなり、穂の根元から包み込み三倍ほどまでになった。
「では、刺しますね」
教えた通り腰を落とし、ひねりつつの中段突きで! ドスっと砂袋へと刺さった。
意外にサマになって根元まで刺さり驚いた。
普通では初心者は根元までいかず、先がブレて止まるのだが魔力の効果か?抜いても槍の炎が消えず、袋から煙が上がるが袋には火が点かず焦げただけだ。
「火をつけるのが目的ではないですから、これは武器の威力を増す為で」
こちらの考えを見透かすようにそう言われたが、確かにその通りだ。
火打石ではないのだから、それにしてもこれで基本程度とは・・上の段階ではどれほどのがあるだろうか、二人にどこまでできるかわからないが期待したい。
達人とは別に、普段の自分も出来るようになりたいと思う。
などと考えている間にルアンが自分もと、槍を持ってグサグサと刺し始めた。
アリシアほどではないがしっかりと刺しているが、それでは駄目とアリシアが持ち、上の的を鋭く深く刺している。
あれ、袋を抜けて木にまで刺さっていないか? 枯れ木ではあるが火が点かないか気になるが煙が出ているだけのようだし、まあいいか。
しかし二人の刺し合いが続き、そのうち他のシスター達が何だ何だとやって来て見つめているのでそろそろ切り上げてもらおう。
念のため木には後で充分の水を掛けておいた・・ 火事は困る。




