002 異界への到着
着いたところは明るく立派な建物の中で、荘厳とさえいえよう。
静かで、窓からは柔らかな光が差し込み暖かい。
「ここは・・・どこだ?」
「ここはカサンドラ王国の教会、つまり神の家です」
そう話しかけて来たのは白い服に赤い帯や飾りを付けた細い美人で、良い声だ。
「あなたは、巫女? それとも天女かな?」
「てんにょ? 私は神に使える身、シスターです、アリシアと申します」
「御使い様ですか? 天使というのは聞いたことがある、天へ飛べるとか」
「いえ、私は人間ですので飛べません、ここで仕えております」
微笑みながらお辞儀するのがとても優雅だ。
そうか、じゃあ巫女の事なのか。
「私は神に招かれてきた異国の者なのだが・・」
「はい、存じております、司祭様がすぐ来られますので」
言ってすぐ扉が開いて赤く銀糸をちりばめた長い服で恰幅の良い男性が入ってきた。
「お目覚めですか? ようこそ我が王国へ、歓迎いたしますぞ 鍛冶師殿!
私はここの司祭で、グレイといいます」
鍛冶師と言うのはもう神から伝わっているようだ、話が早くて良い。
「私はタケシ、ムライ・タケシだ、 では、どこで私は剣を打てばよいのかな?」
「おお、すぐに打ってくださいますか? それはありがたいが、まずご案内を」
二人に連れられて教会内や庭を案内される。
神社と違ってずいぶん屋根が高く、敷地がかなり広い。
そして巫女達も多い、皆優雅で美しく天使と言われても信じそうだ。
教会の裏手に別棟があり、それが鍛冶場と言われるが地上部分は屋敷であり、地下に
工房があって音が漏れず涼しく、水は川のように流れている。
これは地下水であろうか、ずいぶん恵まれた所だ。
鍛冶の道具はほとんど揃っているので問題ないだろう。
「なにせ勇者の為の剣ですからな、この程度は当然です!」
司祭が胸を張り笑う。
「足りない物があればすぐ御用意しますゆえ、食事ももちろん私どもで」
目の前のテ-ブルに袋が置かれ、ガシャっと音を立てた。
「これは当面の報酬ですのでご自由に」
金貨と銀貨がぎっしりである・・異国の金だがずいぶんありそうだ。
「なにせこの国には10年以上良い鍛冶が居りませんで、困っていたところですから
天啓を受けたときは驚きましたぞ」
「うむ、私も神から言われて驚いたが、これほど良い仕事場とは・・実に助かる」
「慌てて用意いたしましたが、気に入っていただけて良かった」
恰幅の良い体を揺するように笑う。
腹黒い所の無さそうな人で良かった。
仕事の邪魔になりそうなことは無い方が良いからな。
「後日国王の元へご案内いたしますが、今日はこれにて」
司祭が戻って行った後自分の部屋でくつろいでいると、巫女(シスター?)がお茶を持って来た。
「すまないな」
「身の回りのお世話は当然です、後3人ほど付きますが今選考中で、お好みはございますか?」
「好み? 好みか・・・」
考えているとドアの向こうに妙な気配がある。
シスターがそろそろとドアに近寄って行くと一気に開けた。
きゃー と声が響いてドタドタと音がする。
20人以上が将棋倒しになっていた。
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「あなた達は・・・・何をしてるんですか!」
全員が部屋に整列させられて、赤くなって俯いている。
どこかで見たような光景だが、女子がこれほど並ぶとこちらが気恥ずかしい。
「申し訳ございません、とんだご無礼を」
アリシアが恭しく頭を下げるが恐縮してしまう。
「まあまあ、私がいきなり来たので物珍しいのでしょう」
こちらもシスターたちの目や髪の色と服は物珍しく、見入ってしまう。
好みと言われても決められないので交代でしてもらう事に決めたが、皆喜んでいる。
問題があれば外すとアリシアから言われていたが。
その夜、寝ようとしていると勇者の力の事を思い出した。
1日5分だけ使えると言われたが、どんなふうになるか聞いていなかったな?
誰に聞けばいいのか?
布団に座って考えたがわからないので、明日司祭に聞こうと思い、今日は寝ることにした。
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すると・・・ いつの間にか、外に・いる?
あたりは薄暗く、よく見えない。
迷ったのか? しかしいつ表に出たのだろうか? 起きた覚えもないが。
見回すが建物が無く、誰もいない。
「ここはどこだ?」
つい声に出した、が、誰も答えるわけが・・・
『ここは影の道、あなただけの通路となっています』
急に女性の声がした、 アリシアの声ではなくもっと年上のようだ。
「誰だ?」
『神の使い、いわゆる天使です』
天使! これは本物の天使か、もしや勇者の力についての説明が有るのか?
『はい、その為に参りました、タケシ様』
「名前まで知っているとは、さすがは天使 御使い様だ」
『どうぞこれをお使いください』
そう言うとすぐ目の前に鎧と剣が現れた。
鎧は全体が金属で重そうなうえに、剣は幅が広く厚手の物だ。
自分がこれを使って戦えるのか?!
『大丈夫、あなたの為の物ですから、支障ありません』
そう言われ半信半疑で付けると体の一部のようになじんだ。
持った時の重さが嘘のように軽く感じる・・・剣もだ。
『そしてこれが・・・』
目の前、宙に浮いた砂時計が現れた。
『勇者となれる時間を示します、あなたが使う時に動き、途中で停止も出来ます』
「なるほど、節約しながらだと時間を延ばせるのだな?」
『その通りです』
それは便利、さっそく使ってみるか? 軽く試す程度なら問題ないだろう。
「あ~~ 天使様、これから街に出ることができるかな?」
『アンジーとお呼びください、少し離れた所なら夜中でも賑やかですがよろしいですか?』
「うん、そこにしよう!」
彼女の指示に従い真っすぐに少し歩くと先が明るくなってきた。
もう着いたのだろうか?
『影の道は普通に歩くよりずっと早く着きます』
「そうか、これも神の力か? 至れりつくせりだな」
本当に賑やかで、夜なのに通りは明るく道に人々が出ている。
これは楽しみだ。




