017 二人の身の振り方?
娘の一人が帰ることを望んだ。
他の二人は・・・ 黙って首を振った。
予想したことだったが、さてどうすべきか。
『どうして帰ることを望まないのでしょう』
アンジーが不思議がるのも尤もだが、貧しいとはこんなこともある。
食べる物が無く家族が生活できないほどだったりで、帰っても生きられないから。
邪魔者扱いだったり、誘拐でなく実際は売られていたりとそれは悲惨なのだ。
おそらく貧民街の子なのだろう。
帰宅を望んだ子は少しマシなのだろうが、どれほどの違いがあろうか。
帰っても未来は無いのかもしれない。
しかし望むなら帰してやろう、送って行くのは問題ない。
後の二人の方をどうするか。
教会に連れて行くとしても、二人ならともかくいくらでも受け入れられるわけではないだろう。
これからあんな子等が出るとなると・・あの二人だけ特別というわけにもいくまいし、勇者としての活動は明かせない。
悩んでいると、あの偉そうな奴が言ったことを思い出した。
「おまけ」だと、確かそう言っていた。
・・・・・・・・・・・
「あいつらが欲しいならさっさと連れて行けよ!」
不貞腐れながらも、相変わらず偉そうな奴だ・・ 殴ってやろうか。
「二人は残していくから、お前達で養え!! 断れば皆殺しだ」
思い切りドスを効かせたつもりで睨みつけた・ 鎧越しだが。
「・・・・・・・・・・・・」
呆れているのか、硬直しているのか、まあ無理もないが・・非常識だしな。
懐から金貨を6枚取り出し投げてやる。
「あの3人は俺が買ったと思え、どうせおまけなんだろ・そしてここに預けておく」
ポカーンとしているあいつに続ける。
「手を出すのは厳禁だ、丁重に扱えよ、従わなければ・・わかるな?」
「あ、ああ、わかっ・た」
言葉を絞り出すように精一杯で、そう言った。
「当面あの薬の方には手を出さん、お前達の首はかろうじてつながった」
う~~ん、これだけでは危ないかな? 逃げるやもしれんか・・・・
なにか方法は ?
『それでしたら呪いはどうでしょう、定期的に弱めないと体が溶ける呪いとか』
アンジーから名案が出た。
「そんなのがあるのか、勇者の技だよな」
『ええ、呪いや毒の得意な方もいましたから』
なにやら自分の想像と違う勇者だが、天使が言うにはそんな人もいたのだろう。
ならばそれにしようか、少し気が引けるが。
呪いの事を村人や偉そうな頭目に話すと、この世の終わりのような顔になった。
信じないかなと思ったが、ある程度呪いの事は知っているのだろう。
それなら効果は有るに違いない。
「定期的に見に来るから逆らわない限り大丈夫だ、娘達は村人と同じに扱えよ!」
皆、黙って頷き今の所問題ないようだ。
後は薬の件だが・・・それはしばらく考えねばならないだろう。
一人の娘は家に送る為、村から連れ出すと、ほっとしたような顔をする。
徐々に生気が戻っているようで何よりだが、帰宅後の事をどうすべきか・・・
そもそもこの国の貧しさが原因だし、少々の事では解決せんかと思う。
戦でも仕掛けて他国の金を奪っても、他が貧しくなっては同じ事だな。
国が豊かにならんとどうもならん。
う~~~~~~む
『よろしいですか? その子を眠らせて影の道を開きます』
アンジーの声がして我に返ったら、すぐに娘がふらついたので抱きとめる。
「おっと」
抱き上げて少し歩いただけで道が開き小さな村が見えて来た。
盗賊達の村より小さく暗い。
見張りもいないようだ。
「この子の家がどこかわかるかな」
それも勇者の技で有った・・・ 本当に色々な勇者がいる。
勇者とは剣術ばかりだと思っていたが、認識を改めねば。
この世では自分がいかに世間知らずかという事なのだろう。
その家を訪ねると鍵が無く、黙って上がりこむと両親がすぐに起き上がった。
夜中とはいえ、よく眠れていなかったのかふらついてはいるが・・・
娘を渡すと二人とも泣いて喜んでいた。
おそらくほぼ諦めていたのだろう。
そして金貨を数枚渡すと二人は泣き止み、今度は茫然とした。
「それを当面の生活費にしろ、いずれまた訪ねる」
二人は訳が分からないといった顔だが、まあいいだろう。
色々聞かれるより面倒が無くて助かる。
「ではな」
さっさと退散だ、覚えられて噂になるのも困る。
夢を見たと思ってくれる方が良い。
「それではアンジー、 帰るとするか?」
・・・・・・・・・・・・・・
帰路も影の道だが、今度はもう少しかかる。
『あの~~~ 、残した二人なんですが・・ あの娘達、囲うのですか?』
かこ・う ?! 、 ぎょっとした。
「囲いませんよ!!」
誤解があるようだ。
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