016 尋問
「その貴族を俺が始末してやろうか」
「・・・! 正気か?」
言ってみただけだが、よほどあくどい貴族のようだな。
「お前たちのしているのは誘拐か、奴隷にするための」
「・・・・ああ、そうだ」
やっぱりねえ、貧しい国から誘拐なら騒がれないよな? 追うほどの金は無いし、口減らしの意味にもなるから探さない親もいるか。
国は警備を増やす金は無いし、賄賂を貰って見逃す兵士もいる。
昔からどこの国も似たようなもんだ。
異世界でもそうなのかと、呆れてしまう。
「攫って来たのは今どこだ」
まだ強情を張って黙っているので、輪をさらに締めた。
「森の奥だ、皆そこにいる!!」
他の者達には勝手に動いたら皆殺しと言い捨てて、案内させることにした。
頭に輪を付けたまま不貞腐れつ森へと進んで行く。
森は草が伸び細い道は曲がりくねり、見通しが悪い。
草むらにはあちこちに罠が仕掛けられているのに気付いた。
少し歩いていくと奥に小屋が見えて来た。
小屋の後ろは岩の急な斜面になっていて高さ30mほどで、登るのは無理そうだ。
逃がさないための場所か。
見張りが二人立っていたが逆らえないと悟ったのか、黙って脇へ寄った。
顔を見合わせているだけだ。
更に奥へ行くと丈夫そうな扉があり、開けると洞窟へと続いている。
そこに娘達が囚われていた・・が、3人? 3人だけか?!
いくつもの檻があるが、他はカラだ。
もう運ばれてしまったか?
「他はどこだ、まだ隠してあるのか?! 言わなければ締め上げるぞ」
「もういねえよ、これで全部だ、 最近はこんなもんだ」
「最近は・・・・?」
この国の村人が減ったわけではあるまいし、妙な言い方だな。
と、そいつがしまったというふうな顔をした。
場所を変え、あらためてそいつを追及する。
「まだ何か隠しているな、全部話せ! 頭を輪切りにされたいか」
「わかったよ」
あきらめたようにむくれて、そいつが話し始めた。
「誘拐より金になることがあるんだよ、こいつらはオマケ程度だ・ついでだよ」
もっと金になる? そんなのがあるのか、それは想像もしなかった。
何だ? 鉱脈か、金、ミスリル・だとか、なのか?
それには人手がかなり要るはずだな、道具だって・・・。
その割には人が少ない。
「鉱脈ではないのか」
「鉱脈? そんなんじゃねえよ、・・ 薬だ」
薬? 麻薬・・か。
薬は洞窟の更に奥、倉庫に隠してあった。
こちらの倉庫は檻の10倍はある。
これが本命だとは・・・・・・・・。
「こいつに手を出せばお前だってやばいぞ、強いのはわかったがそんなもんじゃねえ、一人で何とかなる相手じゃないんだよ・・一族皆殺しになるぞ!!」
「ほう、それはそれは ♪」
「けっ、 わからねえか、後悔するからな」
苦々しく吐き出すように言うのはとてつもなく本心だろう。
こちらもあっさり勝てるとは思ってないがな、1日5分の技だし・・ 考えないとね。
それにしても、薬とは意外だったが、どうすべきか。
待てよ、それより娘達を何とかせんとな。
『あの~~、あの子達は親元に返してあげればよろしいのでは‥』
アンジーが言うのはもっともなのだ、だがね・・・
「それで済まないことがあるんだよ、貧しい場合はね」
『済まないのですか? ?? ???』
天使様にはわかりにくいだろうな。
・・・・・・・・・・・・・・・
檻に閉じ込められていた娘達を出して話を聞くことにするが、さて、どう始めるか、
「あ~、何と言ったらいいかな」
3人の娘は無気力に見つめ返しているだけで何も言わない。
そうなんだよ、この目がな・・ 絶望した目なんだよな・・・ 。
「俺はキミらを助けに来たんだけどな、家に帰りたくはないか」
そう言うと一人は少し反応があった。
幾らか目に光があるように思えるが、他の二人はぼうっと見ているだけだ。
頭を撫でるとびくっとしたが、逃げはしない。
「自分の家に帰りたくないか?」
目の焦点が合って来て更に反応をしている。
「帰れる・の?」
「ああ、君が望むなら・・・」




