011 初めての勇者の剣
雷鳴剣、活人斬、粉砕突など、色々な技の名が頭の中で踊っている。
まだ胸が鳴り、収まらない。
いまは寝床で話の余韻に浸りながら目覚めかけている。
そして徐々に頭がはっきりして来た。
布団を跳ね飛ばすように起きる。
朝から気分が良く、力がみなぎる。
勇者とはあんな凄い技が使えるのだなと感動する。
本当なら一種でも会得するには相当の鍛錬が必要だろうが、すぐに使えるとは。
一日中でも試したいが仕事をせねばならない。
神から預かった名刀を何度も見たから、かなり参考になった。
買った剣も有るしな、今日から鍛冶をしよう。
庭に出るとシスター・アリシアが花に水を撒いている。
「おはようございます、すぐ食事をお持ちしますね」
「いいんだ、こちらから行くよ、台所で構わないよな?」
「あら、すみません」
みな食事を終えているそうだ。
いまは6時なので遅くはないはずだが、シスター達は5時に起きるという。
実に早起きだ。
食べ終わって一服。
「美味しかったよ、誰が作っているのかな? アリシアが?」
「順番なんですよ、今日は他の娘がですが2人ずつで」
「みんな料理上手いんだろうな、昨日のも良かったし」
「昨日のはわたしですよ~~、 えへへ~」
ルアンがにやけながらやって来てスカートを両手でつまみながらお辞儀をする。
「おお、丁度よい所に・・ 今日から鍛冶を始めるからよろしくな」
「あ、は~~い 着替えてすぐ行きま~す!」
「手が空いてからでいいよ」
「いえいえ、すぐ行きますから~~~」
言うとすぐ走り出て消えてしまった。
「あの子掃除が嫌いだから逃げる為ですよ、まったく」
アリシアが渋い顔をして言う。
「それは間が悪かったか? すまないな」
「あ、いえいえ、鍛冶ができるのはあの子だけなので・・仕方ないです」
自分が来たせいで人手を取られるか、う~~ん ハチミツなどで埋め合わせよう。
サトウキビの件も早急にだな。
考えながら地下の鍛冶場へむかい、炭の用意をして火をつけた。
何だかずいぶん久しぶりな気がした。
玉鋼、鉄材料のの塊を棚から取り出し、質を確認するが問題なし。
まず小さい物、小刀程度にしておくか? 初めての素材も有るしな。
炭が良く燃えてきたのでふいごで更に熱し、玉鋼を乗せて真っ赤になるまで熱した。
階段を駆け下りる音が聞こえルアンが入って来る。
「あ~~ もう始めてる~~ 早いです~~~」
「おー、先にやってるよ、気にするな!」
「最初からやりたいです~~、 置いていかないでください~~っ」
置いて行くって・・・ 買い物じゃないんだから。
背中を向けて話していたが、ふと見るとずいぶん軽装? だ。
短いシャツに、短いズボンでへそと太ももが出ているほどだし。
「あ~~ この格好ですか? 熱くなるのでなるべく涼しい服と思って~~」
「ここは涼しい方だと思うぞ、地下だし換気もいい」
「でも故郷でもいつもこの服でしたから、平気でっす~~」
小さいとはいえシスターがこんな服でいいのかと思うが、まあいいか。
ルアンが慣れた手つきでふいごを使い、炭を加熱していく。
赤い鉄が白に近くなっていく。
「さてと、打つぞ!」
金床に乗せてヤットコで抑えながらハンマーで叩いて伸ばす。
徐々に伸びてくるとルアンも剣の端をヤットコで挟んでいる。
経験あるだけに手際が良く、これなら教える必要無いかな?
もう少し伸ばしたところで金床から上げて見つめると、ルアンが不思議そうに見る。
「短くないですか?」
もう気づいたか、これは試作品なので短刀程度にするつもりだ。
なんせ高価な材料があるせいで、慎重にせねばならん。
「いきなり勇者用の剣で失敗したら怒られそうだからな?」
片刃の短刀だが、材料は遠慮せず良い物を使い、これも試し打ちのつもりで出来たらアリシアにあげようかと思っている。
焼きを入れては折り返し打っては更に熱する。
だんだん調子が出て来た。
「これ、魔力は付けるんですか?」
「魔力は次からだな、今日は材料に慣れることが目的だ」
ルアンは紅潮し汗をかいて来ている。
自分は平気だが、やはり子供には少しきついだろう? 頑張ってくれ。
アリシアより先にこの子に剣を上げようか?
他の材料も使い重ねながら叩いていき、最後の焼き入れだ。
ふう、これでいいかな?
研ぎに入ると、剣の色と深みが変わった。
これが異界の剣なのか。
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