少しだけ前進した世界
エピローグアップするの忘れてました
帝都の枢密院では、また別の問題が議論されていた。
「自治領からの税収が、予想を下回っています」財務大臣が報告した。「このままでは帝国財政が破綻します」
「軍事費を削減すべきです」ルーカスが提案した。
彼は今も枢密院の一員だったが、その立場は以前とは全く違った。公爵位は剥奪されていないものの、発言力は大きく低下している。そして何より、彼の提案は必ずティムの事前承認を得なければならなかった。
「しかし国防は—」軍事大臣が反対した。
「もはや植民地支配に軍隊は不要です」ルーカスが説明した。「自治領は事実上独立しているのですから」
議論は平行線をたどった。帝国は変革の途上にあったが、その道のりは平坦ではなかった。
会議が終わると、ルーカスは一人で廊下を歩いていた。
「ルーカス卿」
声をかけられて振り返ると、ジュリアン司教が立っていた。
「お久しぶりです」司教が微笑んだ。
「司教」ルーカスが一礼した。以前なら考えられなかった、敬意を込めた礼だった。
「順調のようですね」司教が言った。
「順調?」ルーカスが苦笑いした。「私は全てを失いました」
「しかし生きています」司教が指摘した。「そして、まだ影響力も残している」
ルーカスは窓の外を見た。春の陽射しが帝都を照らしている。
「ティムという男は」ルーカスが呟いた。「私を完全には潰さなかった」
「彼はあなたを必要としているのです」司教が説明した。「敵としてではなく、協力者として」
「屈辱的な協力関係ですが」
「それでも、協力です」司教が答えた。「そして時間が経てば、関係も変わるかもしれません」
ルーカスは何も答えなかった。しかし心の奥底で、司教の言葉が真実だと感じていた。
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ヒョッテル&タイイス・ファイナンスの最上階では、ティムとルカが報告書を検討していた。
「各地の識字率は七割を超えました」ルカが報告した。「しかし—」
「問題も山積している」ティムが続きを引き取った。
彼は報告書のページをめくった。そこには、様々な問題が列挙されていた。
「ベルナーゾ自治領で、元奴隷と地主の間で土地紛争が発生」
「フェルゼンで、労働者ストライキが暴動に発展」
「アルカディアで、新税制度への反対運動」
「完璧からは程遠いですね」ルカが溜息をついた。
「完璧など存在しません」ティムが答えた。「重要なのは、前に進んでいるかどうかです」
「前に進んでいると?」
「見てください」ティムが別のページを示した。「幼児死亡率は二割減少。平均寿命は三年延びた。犯罪率は半減しています」
「しかし紛争は増えている」
「当然です」ティムが答えた。「人々が自分の権利を主張し始めたのですから。以前は黙って耐えていただけです」
ルカは考え込んだ。
「つまり、これが正常な社会だと?」
「少なくとも、より健全な社会です」ティムが答えた。
窓の外から、教会の鐘が響いてきた。午後三時を告げる音だ。どこかで、また新しい教室が始まっているだろう。
「ローランドは?」ルカが尋ねた。
「南部自治領で、巡回教師をしています」ティムが答えた。「剣ではなく、教科書を持って」
「彼は満足しているのでしょうか?」
「分かりません」ティムが正直に答えた。「しかし、彼は自分の道を見つけたようです」
遠く南部の小さな村で、ローランドは黒板の前に立っていた。
三十人ほどの子供たちが、真剣な眼差しで彼を見つめている。かつて彼が率いた解放軍の戦士たちの子供もいた。
「今日は歴史を学びます」ローランドが言った。「解放戦争についてです」
子供たちの目が輝いた。
「でも」ローランドが続けた。「戦争の英雄譚ではありません。戦争の愚かさについてです」
教室が静まり返った。
「私は多くの過ちを犯しました」ローランドが告白した。「正義のためと信じて、多くの命を奪った。そして気づいたのです—本当の変革は、剣ではなく教育からしか生まれないと」
一人の少年が手を挙げた。
「でも先生、戦わなければ自由は得られなかったのでは?」
ローランドは長い間考えた。
「半分正しく、半分間違っています」彼が答えた。「戦いは変化のきっかけを作った。しかし、本当の自由を築いたのは、教育でした」
授業が終わると、ローランドは一人で村の丘に登った。
眼下には、かつて戦場だった平原が広がっている。しかし今は、麦畑が風に揺れているだけだった。
「私は正しかったのだろうか」彼が誰に言うでもなく呟いた。
答えは返ってこなかった。しかし風が吹き、麦の穂が金色の波を作る。その光景に、わずかな希望を感じた。
完璧ではない。多くの問題がある。しかし、少しずつ前に進んでいる。
それで十分だと、ローランドは思った。
その夜、ティムは一人で自室にいた。
帝都の灯りが、星のように瞬いている。それぞれの灯りの下で、人々が生活している。笑い、泣き、愛し、憎み、働き、休む。
「完璧な世界など作れない」ティムが呟いた。「しかし、より良い世界なら作れるかもしれない」
彼の手には、一通の手紙があった。ローランドからの報告書だった。
『南部自治領の教育は順調に進んでいます。しかし問題も多いです。それでも、子供たちの目には希望が宿っています』
ティムは微笑んだ。
遠く、ナイトハルト邸では、ルーカスが書斎で経済報告書を読んでいた。彼の立場は以前とは比べものにならないほど低下した。しかし、まだ影響力は残っている。そして何より、生き延びていた。
「敗北は終わりではない」彼が呟いた。「始まりだ」
机の上には、新しい投資計画書が置かれていた。今度は土地投機ではなく、自治領の産業発展への投資だった。ティムの承認を得た、正当な事業計画。
利益は以前ほど大きくない。しかし、持続可能だった。
各地の教会では、今夜も夜間教室が開かれていた。仕事を終えた大人たちが、疲れた体に鞭打って学んでいる。
農民たちは、より良い農法を学び、
職人たちは、新しい技術を学び、
商人たちは、公正な取引を学んでいた。
完璧ではない。多くの対立があり、不公正も残っている。しかし、確実に前進していた。
帝国は変わった。しかしその変化は革命ではなく、進化だった。血を流すのではなく、知識を積み重ねる変化。
それは遅く、時に後退もした。しかし確実に、世界は前に進んでいた。
そして空の上では、星が静かに瞬いていた。何千年も前から、何千年も後まで、変わらずに。
人間の営みを見守りながら。
世界は簡単には変わらない。
しかし、それでも世界は回る。
そして、少しずつ前に進んでいく。
完璧な世界ではないが、昨日よりは少しマシな世界。
ティムの別の世界線
偽造スキルで荒稼ぎしようとしてたら、治安監督官にいいように使われています
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