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天から降ってきた太陽神

エピソード0


「絶対に上手くいくはずがない」とジュリアン司教補がティムに言った。彼らはグレイストン家の豪邸の向かいにある、廃墟となった教会の屋根裏部屋に身を潜めていた。


「いつも君はそう言うね」とティムは答えた。前世で詐欺師だった彼は、この世界に転生してからも相変わらずの軽薄な笑みを浮かべていた。「でも結局、誰が正しいかと言えば…」


「まだ成功したわけじゃない」とジュリアンは天窓から外を眺めながら苦々しく言った。「あの黄金像は、少なくとも500kgはある。我々二人だけでどうやって持ち出すつもりだ?」


「想像力が足りないね、神父さん」


ティムは机の上に広げられた図面を指さした。グレイストン卿が最近購入した黄金像は、明日の夜会で初お披露目される予定だった。それは彼が新しく騙し取った土地で発掘された金で作られたもので、グレイストン家の「幸運」を象徴するものだった。


「我々は像を『盗む』のではない」とティムは意味ありげに言った。「我々は像に『動いてもらう』んだ」


「神は無謀な者を罰する」ジュリアンは呟いた。


「君の神様は、ユーモアのセンスがないみたいだね」


---


翌日の夜会は、グレイストン家の広大な庭園で開かれた。招待客は主に貴族と金持ちの商人たちで、彼らは新たに設置された噴水の周りを取り囲んでいた。噴水の中央には、太陽神アポロニアを模した黄金像が鎮座していた。


「あれが目標だ」とティムは言った。彼は給仕の制服を着て、ワインを配っていた。


「いや、あれは破滅だ」とジュリアンは答えた。彼は聖職者としての立場を利用して招待状を手に入れていた。「あの周りには少なくとも20人の衛兵がいる」


「見えるところに20人、見えないところに20人」とティムはウインクした。「計算済みさ」


ジュリアンは、不安と諦めの入り混じった表情でため息をついた。「で、私は何をすればいい?」


「まずは、グレイストン卿を祝福の儀式に誘導してくれ。それから…」ティムは耳打ちした。「20時になったら像の真下に転移魔法を発動するんだ」

「発動すれば何が起こるんだ?」

「見てのお楽しみさ」


20時、グレイストン卿は黄金像の前に立ち、集まった客人たちに向かって演説を始めた。

「皆様、この像は我が家の繁栄の象徴です。代々受け継がれる家宝となるでしょう」

ジュリアンは会場の隅で、ティムが指示した通りに魔法陣を起動した。突然、近くの海からの海水が魔法陣に流れ込み始めた。

最初は小さな波動だった。しかし、次第に黄金像が動き始めた。グレイストン卿は演説の途中で立ち止まり、像を不思議そうに見つめた。

「何が…」

その時だった。転移された海水は魔法陣の枠の中で行き場を失い、黄金像を持ち上げた。像の内部に仕込まれていたティムの特製魔法スピーカーが反応し「我は語る!」と精霊が乗り移ったかのように像から声が響いた。「グレイストン、汝の罪を告発する!」

パニックが広がった。客人たちは叫び声を上げ、衛兵たちは混乱した。その混乱の中、ティムは給仕の制服を脱ぎ捨て、用意していた別の衣装に着替えた。

「あれは呪われている!」誰かが叫んだ。

海水の勢いはさらに強まり、像はまるで生命を得たかのように揺れ動いていた。

「グレイストン、民から不当に奪った金で作られた私を見よ!」と像から声が響く。

グレイストン卿は青ざめた顔で後ずさりした。「そ、そんなことはない!あれは正当な契約だった!」

そのとき、ティムの魔法式の計算ミスが露呈した。転移魔法からの海水が予想以上に流入し、黄金像は噴水から飛び出した。まるで本当に天から舞い降りるかのように、高く舞い上がった後、重力に従って落下し始めたのだ。


「逃げろ!」ジュリアンが叫んだ。


客人たちは悲鳴を上げて四散した。衛兵たちも身の危険を感じて逃げ出した。黄金像は重力加速度という物理の法則に従い、まっすぐグレイストン卿に向かって落下していった。


「おおっと」とティムは呟いた。これは計画にはなかった展開だ。


幸いなことに、黄金像はグレイストン卿を直撃することはなかった。代わりに、卿の目の前にある豪華なデザートテーブルに激突した。クリームケーキ、プディング、ワインが飛び散り、勿論黄金像も粉々に砕けた。グレイストン卿は頭からつま先まで食べ物まみれになった。


「私の像が!私のパーティーが!」卿は叫んだが、その声は笑い声にかき消された。客人たちは突然の出来事に恐怖を感じつつも、卿の滑稽な姿に大笑いしていたのだ。


混乱の中、ティムはさり気なく像の破片を回収し、偽物の黄金のメッキ像の破片とすり替えた。この数日後、王国の金相場がちょっとだけ下がったのは言うまでもない。グレイストンの領地にある金鉱山で近年稀にみる500kgを超える純金が発見されたとかされないとか。もちろん今度は強制徴収などされるはずもなく。


---


後日、教会の屋根裏部屋。


「信じられない、実際に上手くいったとは」とジュリアンは頭を振りながら言った。「まあ、計画通りではなかったが」


「即興こそ芸術さ」とティムは肩をすくめた。「それに証拠は手に入れたし、グレイストン卿の評判も地に落ちた。あのデザートにまみれた姿の版画が町中で売れているらしいよ」


「君は危険な男だ、ティム」

「危険じゃない、創造的なだけさ」ティムはニヤリと笑った。「ところで次の標的は決まったよ。噂によると、ファンデルビルト男爵が特別な宝石のコレクションを手に入れたらしい…」


「やめてくれ」とジュリアンは顔を覆った。「次の計画を聞く前に、まず私の心臓を回復させてくれ」

「人生は短いんだ、神父さん」ティムは言った。「特に我々のような生き方をしていればね」


窓の外では、グレイストン家の黄金像事件は既に町の伝説となりつつあった。「天から降ってきた太陽神」という噂も広まり始めていた。それは、不正に対する天罰の象徴として、庶民たちの間で人気の話題となっていた。


ティムとジュリアンの冒険は続く。次はもっと派手に、もっと滑稽に。ただし、飛んでくる像の着地点には十分注意して。

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