第6章 目覚める異能
悠真は、自分の目の奥が熱を持つような感覚を覚えた。
先ほどの鍛錬の最中、確かに“何か”を見た。
それは、レノンの周りに漂う黒い靄のようなもの――この世界には存在しないはずの、異質な気配。
(……もう一度、見えるのか?)
自分の力を確かめるため、悠真は静かに目を閉じ、集中した。
――視ろ。お前は世界の虚無を映す眼を持つ――
再び、あの声が脳内に響く。
悠真はハッと目を開いた。
そして、視界が一変した。
すべてが色あせ、世界はまるで古びた絵画のように朧げになる。
建物は朽ち、地面には薄く霧のようなものがたちこめ、何より、人の周りには“影”のようなものが漂っていた。
(これは……何だ……?)
視線を動かすと、遠くに立つレノンの輪郭が揺らぎ、その背後には黒い靄がゆらめいていた。
それだけではない。
地面に滲むように流れる"何か"、そして空間に微かに走る歪み――まるで、この世界の表層ではない、奥深くに隠された“別の何か”が存在しているかのようだった。
「……見える。けど、何が……?」
悠真は混乱しながらも、手を前に伸ばしてみた。
すると、まるで霧の中に手を入れたかのように、視界の靄が揺れ動く。
その瞬間――。
「ッ!」
突如、視界の歪みが収縮し、一気に集中したかと思うと、目の前の空間が“裂けた”。
そこには、黒く淀んだ闇がぽっかりと開き、悠真は思わずのけぞった。
(何だ……今の……!?)
一瞬の異変だった。
だが、悠真は確信した。
この眼は、“ただ視る”だけではない。
世界に干渉する何かを持っている。
だが――。
「……っ、ぐ……!!」
耐えきれない痛みが頭を突き刺した。
視界が揺れ、激しい眩暈が悠真を襲う。
次の瞬間、膝から崩れ落ち、そのまま意識を手放しかけた。
「おい! 大丈夫か!」
レノンが駆け寄ってきた。
悠真は必死に意識をつなぎとめながら、歯を食いしばる。
「……今の……俺の力……なのか……」
レノンが険しい顔で悠真を見つめる。
「何をした?」
「……分からない。ただ……何かが……視えた……」
レノンは深く息を吐いた。
「お前、何か異能を持っているのか?」
悠真は答えられなかった。
確かに、自分の中で何かが覚醒しつつあることは分かる。
だが、それをどう使えばいいのかも、何のための力なのかも分からない。