第4話
魔法、魔術、魔導。前世では架空のものとされ目にすることはなかった男の浪漫。今世では親(主にエリス)に禁止されいまだ実践したことのない世界の深淵。
「さて、お楽しみの時間だ」
なんでこんなにはしゃいでるかって?だって男の子なんだもの、仕方がないじゃない。
「ふむふむ、なるほどなるほど」
というわけでこの本読み進めていくと、いくつか興味深いことがわかった。
一つ目、この本の時代と現代では魔法の技術体系がかなり違うらしいということ。
まず現代ではほとんどの人が魔法を使うときに詠唱をしている。
たとえば火を焚べるときは
「大いなる魔法の神マギアマグスに願う、小さき火を今ここに、ファイア」
氷を生成するときは
「大いなる魔法の神マギアマグスに願う、冷々たる氷を今ここに、アイス」
このように最初に魔法神マギアマグスへと祈りを捧げる常套句、魔法の能力を表す言葉、最後に魔法名の順で詠唱する。本当にそうであるかは定かではないが、アイラ達メイドはこのように魔法を使っていた。
対してこの本では魔法は詠唱はせずに魔法陣を使うとしており、詠唱については必要ないらしく大部分が趣味の領域であるらしい。さらには魔法はとても難解で火を灯すこともほとんどの人間にはできないというのだ。
本の内容を引用すると「魔法とは性質を表す魔法陣を核に発動する、我ら魔法使いが創る小さき世界そのものである。我ら神ではあらず、されど只人でもあらず」だ。
おそらく小さき世界を創るという部分が鬼門なのだろう。世界を創ると聞けば確かに一般人には難しそうだ。
二つ目、この本に載っている魔法の種類はとても少なく、ほとんどがそれらの解説でうまっているということ。
現代で換算すると初級魔法や低級魔法に分類されるような魔法。
火の玉を撃ち出す魔法。
水を集める魔法。
空気を固める魔法。
地面に凹凸を作る魔法。
これら4つの魔法しか書かれていない。この本の薄さも納得のラインナップだ。
あとは発動するための魔法陣と、それに組み込まれている記号や図形の意味、効果に加えて注意すべきことが書かれている。最後の方には他の様々な記号が載っており前世の教科書を彷彿とさせる。
火の玉を撃ち出す魔法ではこういう並びで火を生成し固定している、こういう組み合わせで形を整える、これによって魔法が動く、などなど。
魔法陣といえば聞こえは良いが、実際には化学と数学の複合みたいなことが解説に載っているのだ。
「これは確かに面倒くさそうだな」
ちなみにこの魔法の面白いところは、魔法陣から火の玉が撃たれるのではなく魔法陣を核に火の玉が動くことだ。火の玉より魔法陣が大きい場合は非常にシュールな光景が広がることになると思う。
そして三つ目、肝心の魔法陣の出し方が書かれていないということ。
「クソゲーか」
送られた側の俺のご先祖さまもこれでは困っただろう、いやエリヤさんは魔法陣を出せたのか?わからんが少なくとも今俺がとても困っている。餌を前に待ての状態のまま飼い主がどこかに行ってしまった犬の気分だ。上げてから下げてきやがった。
「なんだ、テンプレを考えるとやっぱり魔力か…?」
前世の創作では魔法を使うには魔力が必要というのがテンプレだったし、事実としてこの世界でもそうだ。
しかし魔力の存在を意識して制御することで魔法が発動するとかそんなことはなく、ある程度の才能さえあれば詠唱によって魔力を消費して簡単に発動できる。
才能がなくてもずっと唱え続ければ発動することもあるし、魔法を使いすぎれば魔力は枯渇し命の危険はあるものの、倦怠感などの予兆があるので死は滅多にない。
第何級魔法まで使えるかの限界はあってもそれ以下の魔法は時間をかけるだけで誰もが習得し得るのだ。
そんなこんなで魔力制御や魔力操作だとかはほとんど意識されない現代だが、この仮称魔法陣魔法は別なのではないかと思う。
この本を読む限り詠唱するだけで良い現代魔法とは全く形態も難易度も異なるのだし、前世の創作とも通ずるものもあるはずだ。
「定番だと体の中心部の心臓や丹田あたり、もしくは血流のように体を駆け巡ってる手のが多いよな。とりあえず瞑想でもしてみるか。」
目を瞑って腹のあたりを意識する。集中、集中。腹から温かくて何か圧力のようなものを感じ段々と下の方へ下降していって、あ、これおならだ。
「んん、気を取り直して…」
集中。暗闇の中で目を凝らして魔力を探す。体を流れる血液とは別の熱く、力強い、命の根源でもある魔力を……。
光の道があった。細いそれを辿れば少しずつ太くなっていく。辿って、辿って、辿って…見つけた!
知覚した瞬間感じたのは大きく燃え盛るような、燦々と光輝くようなの魔力。これを使えばなんだってできるような気がする。
これが魔力……見つけることはできたが、これからどうすれば魔法陣を出せるんだ?
……全能感とかやっぱり気のせいかもしれん。