第3話
「子どもができたわ」
そんな衝撃的な話をされたのは朝食を食べ終わったあと、家族で紅茶を飲んでいたときだった。
「本当か!」
「本当なの母様!」
「ええ、最近月のものが来ないからお医者様に診てもらったの。そしたらおめでただって」
どうやら新しい家族が増えるようだ。たしかにここ半年くらい2人の距離は近かったし、朝食のときもエリスは肌艶がよくてライルは疲れ気味だった。
弟か妹かはまだわからないけど頼れるかっこいい兄でいたいし、もっと勉強をがんばらないといけないなあ。
あとはもう少し経ったらとお預けをくらっている剣術や魔法も一番になるくらい極めよう。
「よくやったエリス!いや、最近第二子はまだかと父上に急かされてな。これで会うたびに言われる小言も減るよ」
「そうね、実は私もお義母様に子どもを産むのが貴族の娘の義務だって改めて教えられてね。子どもは三人は産むべきだって。私たちの好きにしたいわよねえ」
ライル、俺とこの家の次代次々代の男児は揃っているがやっぱり予備が生まれた方が嬉しいのだろうか。
「生まれてくる子どもはやっぱり男の子の方がいいんですか?」
「む、まあ貴族としては男児のほうがありがたいがな、父親としては母子ともに無事だったら生まれてくる子どもの性にこだわりはないさ」
「あら、ライルったら嬉しいこと言っちゃって。普段からもっとそう言ってくれたらいいのに」
「勘弁してくれ」
普段は寡黙なライルが珍しいことを言ったのを皮切りにいちゃいちゃタイムが始まった。
正直目の前でやられるのは堪らないので急いで紅茶を飲み干してそそくさと退散することにした。
夫婦としては至って健全なことだし2人の仲が深いのは息子としてはありがたい事だが、少々特殊な事情を持つ身からしたら色々と複雑に感じるのだ。具体的には恥ずかしいし悶々とする。
「紅茶飲み終わったので勉強してきますね」
「よく励めよ」
「ええ、行ってらっしゃい」
◇
ずっとアイラに勉強を教えてもらっていたが腐っても元は高校生、地理や歴史はともかく今ではほとんど1人でやっている。
計算は前世の貯金があるし、本を読むときに知らない単語があっても前後の文や綴りで推測しあとでアイラやエリスに聞きに行けば何とかなる。
本来ならこの時間は自由時間なので遊んでもいいのだが、ここ最近書庫への入室許可が降りたのでもっぱら本を読み漁っている。
城とも言えるような我が家とはいえ遊び相手や手段が限られている中、読書こそ現代人である俺が満足できる行為なのだ。
遊びと勉強が両立できる、なんと素晴らしいことか。
「ふ、やはり天才」
管理人がたまに来るくらいなのでニヤニヤしていても人に見られないというのも書庫の利点だ。
「ん、これは…?」
そんなこんなで今日読む本を探していると奥の方に随分とボロい本を見つけた。この家の歴史書の第一巻も古かったが、それよりも遥かに古そうに見える。頁数は精々20と薄く1頁目には短い文が書かれている。
「ボロいし、知らない言葉ばっかりでなんて書いてあるかわからないな。いや、でもこの単語は見覚えがある。これも綴りが少し違うけど…んー、確か初代か2代目くらいの国王が言語の統一に尽力していたはずだから、建国よりも前のものかな」
読めないこともないな。えーと、これはたぶん訪れるみたいな意味で、こっちは並列の意味で、ここも一派じゃなくて仲間とか同士のほうが筋が通るから…。
『我が友エリヤに生まれる新しい家族にこれを送る。君に世界を創造し編纂する力があり、新しい同士になる事を願う マギ』か?
…なんか胡散臭い文章になったな。『世界を創造し編纂する力』ってなんだ、魔法のことを言っているのか?
確かに魔法は浪漫があるけどそんな大層なものじゃなさそうだったけどな。魔物への対抗手段として重宝してたってところか。
まあ、つまりはマギって人が友人の子どもにプレゼントした魔法書?だな、ここにあるってことはこのエリヤって人は俺のご先祖さまなのだろうか。
「魔法かあ」
実は何度も魔法を見たことがある。暖炉に火を焚べる火種だったり、飲み物を冷やす氷だったり、そういった日常生活において魔法はよく利用される。
危険はあまりなさそうだし、みんな簡単そうにぽんぽんと使っていたから教えてくれとせがんでるがまだ早いと言われるのだ。
確かに普通の3歳児なら危ないかもしれないが俺なら大丈夫なのにとずっと残念に思っていた。
「こっそりやればばれないかな…」
よし、やるか。何かに興味がある子どもなんてこんなもんだろう、ばれなきゃ犯罪じゃないし。
そうと決まれば書庫で魔法が失敗したり暴発したら危ないからな、ここから離れて違う場所で試してみよう。
見られてもいいように何冊かダミーの本も選んでから自分の部屋に向かうことにした。