第2話
月曜日更新だって言ったな?あれは嘘だ
転生してからおよそ半年程経った。
そんだけ時間が経てば少しは言語が分かってくる。
母が『エリス』、父が『ライル』、俺が『レンハルト』などとメイドさんも含む身近な人の名前であったり、簡単な会話程度ならもう聞き取れる。
良く使われる言葉はその前後に動作や出来事がありその意味を推測しやすいからだ。
「レンハルト様、ペトラ、ご飯の時間ですよ〜」
そうそう、生まれてからしばらくは母から乳を貰っていたが、ちょうどアイラというメイドが娘、すなわち先ほど名前が挙がったペトラを産んでからは一緒にお世話されている。要するにアイラは俺の乳母さんで、ペトラは義理の妹…になると思う。
「けぷ」
「はーいよしよし、お腹いっぱいですね〜」
…赤ちゃんプレイはなかなかキツい。授乳時はもちろん、自分の排泄物を処理されるのは眺めるしかないし、年相応のフリして遊ぶのだ。純粋な赤ん坊であるペトラが羨ましく感じる。
ご飯を食べたあとはいろいろと体を動かす。この世界、というか家について調べたいがまだ座ったりずり這いしかできないからハイハイの練習だ。ちなみにペトラはまだ首もすわっていないので基本ベビーベッドにいる。
「レンハルト様、またハイハイの練習ですか。レンハルト様は元気がいっぱいでいいですね〜」
「あぶー、あばぶ」
「はいはい、そうですね〜」
…まだ俺は喃語しか喋れない。練習自体はしているが成長は今ひとつである。俺の沽券に関わるので早めに言葉を話せるようになりたいが、これに関しては成長を待つしかないと諦めている。
ちなみに、両親が俺に会いに来る頻度は少ない。しばらくは母に世話されてたし父もよく会いに来ていたが、俺の世話の全てを安心してメイドに任せられるようになったからか、仕事が忙しくなったのかは知らないが、周りの状況を確認できるようになりペトラが生まれてからわりとすぐに会わないようになった。
やっぱりこの家は貴族かもしれない。偏見にはなるが、こうやって子どもの世話を自分でしないのは貴族がしそうなことである。個人的には親が子どもの世話をした方がいい気もするが、家が力を持ってそうでよかった。言い方は悪いが、家ガチャに成功してそうだからだ。将来の行動の幅が広がる。
そういえば、アイラから授乳されるときもあまり興奮はしなかった。体に随分と引っ張られているらしい。
...精神は成熟しているのに体は赤ん坊だとどうにも違和感ばかりでもどかしい。
◇
俺は3歳になった。まだ舌足らずなところもあるがもう十分に会話できて二足歩行もできる年齢だ。
そこでこの3年間家族やメイドに教えてもらったり、読み聞かせてもらったりして集めた情報を整理していこうと思う。
まず身の周りのことから。俺の名前はレンハルト、家族からは愛称でレンと呼ばれている。この国の高位貴族、フェルームレジス侯爵家の嫡孫であり大分恵まれた生まれだ。ああ、ミドルネームなどもあるが全部含めると長いので割愛していく。
父の名前はライオネルで愛称はライル。フェルームレジス侯爵家の嫡男、後継だ。歳は22歳で前世だったらまだ学生くらい若い。ガタイがよく寡黙であり普段は執務室に篭っている。
母の名前はエリスレスで愛称はエリス。フェルームレジス領と領地が接しているポルクラ伯爵家出身。21歳の若奥様であり俺にめっぽう甘い美人さんだ。子どものように振る舞う必要はあるけれどそれでも大変気分がいい。
…やっぱり体に精神が引っ張られているな。
家族といったらあとは王都には当主である祖父と祖母が住んでいること、乳母のエリアは分家の子爵家出身であり乳姉妹のペトラは可愛らしく育ってきていることくらいか。
次はこの国について。この国はフォルティス王国といい、建国してから500年近く経つ大陸の国々の盟主的立ち位置の大国だそうだ。つい数十年前の戦争で大勝しており強さは健在、その立場はより強固になったという。
そんなフォルティス王国には王家の他に筆頭三家と八将家と呼ばれる有力貴族が存在している。
筆頭三家とは建国に大きく貢献した古豪である。
“王国の智“ヴェーバレジス侯爵家
“王国の盾“パリュームレジス侯爵家
“王国の剣“フェルームレジス侯爵家
その名声は国内外に轟き、それぞれが広大な領地と権威を保有しているフォルティス王国の守護者たちとのことだ。
…まあ、家の人に教わっているから多少の誇張はあるのかもしれないが。
八将家はその名から察せられるように武に優れる家群の総称だ。古い家もあれば戦争で活躍して叙爵された新興貴族もり、強い軍事力を保有しフォルティス王国軍部の中枢を担っている。
八将家の当主は国王に将軍として任命されているが、万兵を指揮するタイプもいれば文字通り一騎当千の働きをする個人、少数精鋭タイプもいたりと将軍としての在り方はそれぞれ違うらしい。
随分とファンタジックな話だ。ワクワクするが、正直言って長生きできるのか不安になる世界だと思う。
そうそう、ファンタジーといえばこの世界にも魔物や魔王と言われる類の生物がいるらしい。
ただ前世の創作物でよくあるパターンと違い、彼らは約100年周期で現れ人類を脅かすという。
前回現れたのはもう随分と昔、国王でいうと三代も前のことらしく今では魔物のほとんどは狩られて森の奥地などにしか生息していない。ごく稀に魔物が生まれることもあるが年に数件程度らしい。
…つまり魔王や大量の魔物が俺の代に現れるという認識なのだが。
……“彼女”はこの世界は滅びに向かっていると言っていたが魔王のことなのだろうか。
きっと違うと思うが、とりあえず魔王打倒を目標に動くようにしよう。
「レンー、なにしてるの?」
「教えてもらったことを復習してるんだよ、ペトラ」
「わたしそんなのわかんない!そんなのよりも向こうでクッキー食べようよ」
そう言ってペトラが手を引っ張ってくる。
「分かった分かった。今行くから手を離してよ」
母親譲りのブルネットの髪を肩のあたりで切り揃え、元気に走り回るペトラの姿はまさに幼女。その可愛らしい傍若無人振りは子どもとして順調に育っている証拠だろう。
そんな彼女に振り回される生活もなかなか楽しいものだ。
正直今は語学を勉強する以外にやることがないし、ペトラと行動を共にするときはわざとらしく子どもの演技をせずとも妹と遊んでいる兄でいられる。
「もう、早くしないとクッキーぜんぶ食べちゃうよ!」
「はいはい、すぐ行くよ」
ストックは(ほぼ)ないです