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TS強化兵のファンタジーロボット戦記  作者: 相竹 空区


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26/31

第二十五話 誕生日おめでとう

更新が遅れてしまいました。

現在体調が悪く、次の更新も3〜4日掛かるかもしれません。


「私はもう嫌になってしまいましたの。親友が私の為に命を賭して戦って、傷付くのが」


 とはラウラの言。

 彼女の動機とは自分の為に危険に身を投じるアリナの為……という訳でもなかった。


「私に自由なんてない。レジスタンスに加わったとて、私は今と変わらずお飾りでしかなく、そうなればアリナもレジスタンスに加わるでしょう」


 エルフの下では支配の道具、レジスタンスの下では再興の旗印。

 どちらも求められているのは彼女の人格ではなく、その血だろう。


「何よりも嫌なのが私が誰かの行動を制限している事。私はただ私の為に戦い、彼女にもそうあって欲しい」


 ラウラの動機は自分本位で、そして自立したものだ。

 他人に命も選択も委ねずに、自らの手で選び取りたいと願う強さがラウラにはある。


「昔は彼女も己の内側から湧き上がる衝動に準じていましたのに……環境と私が彼女を変えてしまった」


 だからこそ、同じ強さを持っていたアリナを弱くしてしまった自分が許せないのだろう。

 オレが自らの弱さ故に負け、その代償が他人の命で支払われた事を悔いたように。


「ならその変化に私はこれ以上関与しない。ただ私が変わり、環境を変えれば良いだけの事ですもの」


 でもこの人は他人を変えようとする傲慢さは持たず、ただ自分を改める事で良い結果を得ようとしている。

 気高いと思った。

 凛として、確固たる自分を持った人だ。


「貴女はどうですか?私が求めているのは共犯者であり、配下ではありません。私は命令をせず、ただ選択肢を提示します」


 ならばオレは迷う必要などないだろう。

 これこそが待っていた機なのだから。


「やりますか?エルフの顔に泥を塗る……些細な悪戯を」

「アー」

「敵は大樹の如く強大であり、私達が落とすのは枝葉の一つでしかありません。それでも、やりますか?」

アー(当然だ)

「ええ、ありがとうございます。私達が落とすのは全体から見れば些細なものですが、それは確実にエルフの歴史に恥辱として記される反逆です。もはや敵ではないと判断した飼い犬に手を噛まれるのですから」


 ラウラは本当に楽しそうに、朗らかに笑う。

 彼女の抑圧された十年間が窺えるような笑顔だ。

 それに対してオレは案外と冷静だ。

 緊張や恐怖が無いとは言わないが、それでも待っていた機会が本当に来たのだという安心の方が強かった。


「貴女が加わってくれて良かった……敵の策略を個人の暴力で滅茶苦茶にする。こんなに悦を感じる瞬間はないと十年前に思いましたの」


 十年前とはつまり……アリナの事だろう。

 ノゥル公国がエルフと戦争をしていた時の事か。

 昔からこのような事をしていたのか、この公女様は。


「情報を集め、計画を立てるのは私の戦いですから、それまで貴女は平然と……あとアリナには言わないでくださいまし」


 心配ご無用だ、伝える手段が無いよ。


「貴女には使いを出して情報のやり取りを致しましょう。何か頼み事もあるやもしれませんので」


 ラウラはまるで悪戯を計画する子供のように楽しげだ。

 彼女の脳内にどんな計画があるのか、オレにはさっぱり分からないがこれで良い。

 オレは選んだのだ。

 彼女の計画に乗る事を、彼女を信じる事を。


 だから暫くは大人しく、いつも通りにエルフに従ってゴーレムを駆る。

 リシルの軍勢を追い返したり、逃げ帰ったり。

 戦場と公都を往復する日々の中で、偶に見知らぬ人から話しかけられる事があった。

 怪しげでもない、いたって普通の人々がオレにラウラの言葉を伝えて来るのだ。

 監視下にある彼女が情報を集めるには他人を使うしかないのだろうが、その伸ばした根の範囲の広さには驚かされる。

 なにせ、時折エルフすら使いに出してオレを呼び出すのだから。


「総督と話してみませんか?」


 と、呼び出されたある日に急に切り出された時には心臓が少し縮み上がった。


「この城には幾つか……聞き耳(・・・)が設置されていますの」

ヴア(盗聴器だろ)

「父は機械が好きでして。子供の頃から悪戯で城中に仕掛けたそれらが、まだ回収されずに残っています」


 彼女の情報網とはつまり盗聴と話術により相手から情報を引き出す事か。

 あのエルフは何かしらの弱みを握られたのかもしれない。


「あの総督がやって来る少し前から、公都の地下に何か大量の物資が運び込まれているのです。地下には鉄路が張り巡らされており、その全ては記録されているのですが件の物資は中身が分かりませんの」


 あのエルフの老女が考えている計画の為の物資なら、きっとロクでもない物なんだろうとは想像出来る。

 投与されると痛みと苦しみが襲い掛かる薬とか、骨を削るドリルとか。


「総督就任の日すら極秘扱いで暗殺を警戒する老獪なエルフですが、自らの作品を前にすれば多少は口が軽くなるかも。どうですか?」


 気は進まないが、それで計画とやらが明らかになるのならやる価値はあるだろう。

 オレの骨に穴を開けるその最中にも、あのエルフはずっと語りかけてきた。

 自分の世界に入り込み、色々と話す可能性はあるかもしれない。

 本当に気は進まないが……


「アー……」

「助かりましたわ。近々新総督の就任記念パーティーが開催されますの。そこで総督に貴女を引き合わせ、口が軽くなる事を期待しましょう」


 果たして上手くいくのだろうか……

 この上なく不安だが、やらなければならないのだから仕方がない。

 

◆◆◆


 城の大きなホールはエルフでいっぱいだ。

 広いのに暖かく、冬の終わりの寒さに凍える兵士が居る一方で随分と優雅なものだと言いたくなる。

 ただ一方で、全員綺麗で清潔な服装をしていて万が一何かを溢したらどうしようと杞憂が止まらない。

 ただ肩身の狭さは隣にラウラという確実な通行手形が居るので堂々と出来る。

 それに加えて……


「うひゃー緊張するわぁ」

「貴女でも緊張する事があるのねアリナ」

「こういうしっかりした場所はね。何度行っても慣れないわ」

「それは何度も抜け出して、まともに参加した事がないからでしょう?」


 ラウラはドレス、オレとアリナは軍服で。

 パーティーのドレスコードとしては間違っていない筈だ。

 アリナと同じ格好だし……


「だって退屈でしょ?今回だって……」

「新総督は学識の高い方と聞きましたわ。貴女と話す事はないでしょう。貴女は私の帯同者としてお澄まししていてくださいまし」

「なら狼ちゃんまで道連れにしたのは?」

「彼女に多くを経験してもらいたいからです。貴女が教える以外の事、学びの場へ連れ出したいと思いましたの」


 方便だ。

 オレだけを連れて行くのは不自然だから、アリナ伝いでオレを引っ張り出した。

 そういう事だろう。

 

「パーティーの抜け出し方なら幾らでも教えてあげられるからね……!」

「ウヴァ……」


 アリナは終始パーティーに対して後ろ向きだったが、そんなものを気にする事なくパーティーは進行する。

 優麗な音楽と共に新総督が現れて、耳障りの良い挨拶を披露して、偉い人達が歓談するような滞りのないもの。

 ラウラは慣れた様子で社交辞令を交わすが、アリナは消えたり現れたりを繰り返している。

 オレは全く落ち着かずに、ラウラの後ろで肩肘張って置物状態だ。

 それでも周囲を窺えば、肝心の新総督の姿が無い事に気が付いた。

 オレの目的は果たせるのかと不安に思い始めた頃に、ラウラの前へと歩いて来たエルフの軍人がオレ達を睥睨する。


「その強化兵を借りるぞ」

「この子になんの用?まずは私に──」


 オレを庇うように前へ出たアリナが食って掛かろうとし、更にそれをラウラが止める。

 恐らくこれが予定していた流れなのだろう。


「ちゃんと、返していただけますね?」

「ああ、来い……448号」

「ちょっとなんで──!」


 ラウラの次はエルフの背中を追って歩き、背後では顰めた言い争いが聞こえる。

 パーティー会場を横断し、華やかさを背に静かな廊下を進む。

 ラウラは言っていた。

 総督はこのような華やかなパーティーが好きな人ではない為、早々に部屋に篭るだろうと。

 そして総督の休憩の為に用意される部屋には盗聴器が仕掛けてあり……会話を聞いていると。


「余計な事はするなよ」


 短く発したその言葉だけで彼が緊張している事が分かる。

 果たしてどのような取引があったのやら。

 言われた通りに黙って着いて行き、やがて立ち止まった扉をエルフは丁寧にノックする。


「総督閣下、不躾ながら是非ともご挨拶させていただきたく参りました。私めは──」

「いいわ。入って」


 入室の文言を断ち切る許可に気勢を削がれつつ、エルフはドアノブに手を掛ける。


「失礼致します」

「あら、勇ましい坊ちゃんだこと」

「ぼ!?……ゴホン、私はこのノゥル地域にて将校として戦場を任された者。聞けば新型の強化兵とは総督閣下が手ずから作り出されたのだとか。この448号もその一人で──」


 息つく暇もない怒涛の喋りだったが、総督の手を叩く音でピタリと止まった。


「まあ、448号!覚えていますよ。もっとよく見せて」

「はっ!では──」

「貴方は帰ってよろしいですよ将校さん。ご苦労様」

「は、はぁ……」


 あっさりと、部屋にはオレと総督の二人。

 ……二人。

 相手は見た目の上では老婆だ。

 耳が長いという点がオレの知る一般的な老婆との違いだが、緩やかな動きから身体能力に違いは無いように思える。

 オレが今、彼女の首をへし折ろうとしたとして、成功するだろうか。

 エルフには魔法がある。

 その分が身体能力をどうカバーするか……


 いや、ここで総督殺しをしたところで意味は無い。

 また代わりの総督が送られて来るだけ。

 有効な一撃とは言えないだろう。


「448号……貴方の事は、いいえ。あの研究所で芽吹かせた全てのひこばえの事は覚えていますよ。まあまあ!大きくなって。研究所に居た頃のデータではここまで大きくなるとは思ってもいなかった。素晴らしいものですね」


 総督はまるで孫の成長を喜ぶ祖母のように、一切の邪心無くオレの前で笑顔を見せる。

 それが逆に不気味でたまらない。

 オレ達をただ苦痛に満ちた生に送り出したその人だとは到底思えない、優しげな姿だ。


「あぁ、そういえば……誕生日おめでとう448号、17歳ですね。今日会うと分かっていればプレゼントを持って来たのですが」


 正直、ゾッとした。

 オレは自分自身の年齢すら分かっていなかったのに、この人は何人も作り出した強化兵の事を事細かに記憶しているのだと、全てが掌の上なのではないかと、そんな恐怖。


「あら?魔力が随分と蓄積している……もっと長持ちするものとばかり思っていたのですが、これだと保って五年程度。やはり実戦では想定よりも損耗が激しいようですね」


 五年……それがオレの余命か?

 目の前の危機を乗り越える事ばかりを考えて来たから、今更余命を聞かされたところで動揺も無いな。

 むしろ五年もこの生活が続く可能性がある事に辟易する。

 そして、より一層の覚悟が決まった。

 これ以上待ったとしてもチャンスは来ないかもしれない。

 ラウラと手を組んだのは正解だった。

 

「やはり短命種とはこれが如何ともし難い。身体成長の速さは利点ですが劣化や老化と表裏一体。有効に活用するにはヤドリギ計画こそが……」


 完全に自分の世界に入り込み、ブツブツと何かを呟きながら思案を重ねる総督を前にオレはただ黙って話を聞く。

 より多くの情報を漏らさないかと期待しながら。


「ええ、ええ……貴女もまた、素晴らしき計画の礎──養分となったもの。貴女に施した挿し木はより発展し、遠からずより多くの劣等種に施す事が可能となり、より多くの劣等種が救われる事でしょう」


 起死回生の策とやらはオレ達のような強化兵の大量生産を行うという事か?

 それが悍ましいのは確かだが、有効かどうかは疑問が残る。

 そもそもの機体性能や個々の技術が足りなければ数を揃えても大した意味は無いだろうから。

 

「これから数多生まれるヤドリギ達を枝として、劣等種からゴーレムという無用の長物を没収します。貴女達はまさしく霊樹の枝なのですから移動式の霊樹として、その鉢植えとして我等エルフと共生出来る」


 聞いた感じ、それは共生と言うよりかは所有な気がする。

 そこにオレ達の意思が有るようには聞こえない。


「交感能力を霊樹で強化し、全てを包み込みましょう。戦場から敵味方の区別は消えて、エルフとヤドリギとこれからヤドリギとしての新生を受ける劣等種のみとなる」


 洗脳、なのだろうか。

 具体的に何をしようとしているのか分からないが、それでも嫌な予感が胸を満たす。

 この口からなら何を言っても恐ろしい計画には聞こえるだろうけど。


「私は貴女に知って欲しい……これこそが救いなのだと。劣等として産まれた貴女達を救う事こそ我が生涯の課題。何故エルフよりも劣っているのか、それを埋めるにはどうすれば良いのか。ずっと考えて来ました」


 オレの肩にしわがれた手を乗せて真摯に向き合うようにして語り掛ける老婆の、この諭すような口振りに心が揺れる。

 まるで自分が間違った考えを持っているような、そんな気にさせる悪意の無い善意のみの言葉が嫌に耳に残るのだ。


「ですがそれは単純な事、貴女達をエルフの一部とすれば良いのです。私という大樹と共生するヤドリギとして、劣等種たる貴女達を迎え入れます。意思も肉体も全てを共にして、エルフという共同体を支える木となるのです」


 それはつまりハイブマインドだとかそういった、個体の個性を薄めて一つの意識を共有するようなものだろうか。

 意思の薄弱さに関しては新型強化兵の子供達がまさにそんな感じだったが、この計画の前段階だったという事か。


「短き生を無為に消費するのではなく、限られた時間を有意義に過ごして次代へ繋ぐ。ヤドリギ計画は必ずや貴女の生も死をも糧として強く、逞しく育つでしょう。ヤドリギ達にはエルフと共生する美しい未来が待っているのですよ」


 何を言っているのかほとんど分からなかった。

 そもそもオレに人格を認めていないのだろうから、あれは理解させる為というよりかは独り言のようなもの。

 理解はラウラに任せよう。

 オレはこの計画とやらを挫きたいと思った、今はそれだけで良い。


「顔を見れて良かったわ448号。やはり貴女達を救わなければならないと、再び確信する事が出来ましたもの」


 オレの肩をくるりと回し、出口へ向けて軽く背を押す。

 これで終わりかと、そう思うと少しホッとする。

 あの人の言葉はどうにも善意が気持ち悪く纏わりついて落ち着かない。

 話の通じない──オレと常識を共有出来ない人の話を聞くのは心がざわつく。

 不自然にならないように、少し足早に部屋を出る。

 扉を閉める最後の瞬間まで、こちらに笑顔を向けていた事が裏表の無さを感じて恐ろしい。

 嫌悪を向けられた方がまだ理解出来るのだが。


「フゥ……」


 どっと疲れてしまった。

 戦闘ではこんな疲れ方はしないのだが、普段疲れない部分が疲れたような感じがする。

 早く帰りたい。

 ラウラとアリナの元へ帰ろうと、パーティの賑わう音に向かって歩みを進める。

 廊下の隅を歩いていると、不意に肩を叩かれた。

 油断しきっていた為に、心臓が縮み上がって慌てて振り返れば……先日見た顔。


「珍しい場所で会うものだな448号」


 今日は見慣れた軍服姿の教官だった。

 手にはグラスを持って、厳しい教官も酒で少しは赤くなっている。

 印象よりも少し柔らかな表情をしていた。


「お前も仕事か?私は見ての通りサボりだ」


 鬼教官のイメージからはかけ離れた事を言って、グラスを揺らす。

 関係が違えばこうもラフな人だったのか。


「暇なら来い。私はつまらんパーティでの護衛などする気が無い」


 なんとなく、教官の背を追う。

 戻っても多分ラウラの後ろで固くなるだけだろうから。

 グラス片手の教官は酒が入っていても凛とした姿で歩き、やがて辿り着いたバルコニーの欄干に身体を預けて息を吐く。

 なんだか退屈なパーティを抜け出さないかと誘われるシチュエーションみたいだ。

 その相手がまさか教官だとは思わなかったけど。


「お前の最近の活躍は調べたよ。よくやっているな」

ヴア……(それ程でも……)

「今のは謙遜か?お前は研究所に居た時から自我がはっきりしていたから、何を考えているのか分かりやすかったよ」


 軽く笑うその姿もオレを有る程度、兵士として認めてくれたから見せる姿なのだろうか。

 そうであれば、これは嬉しい事だ。


「お前が完成(・・)した後も、何十人かに戦い方を教えたが……お前程は手応えを感じなかった。やはり自我の無い兵士は私好みではないな。無私は美徳だが行き過ぎれば欠落だろう」


 思い返してみれば教官はオレ達に言葉を与えてくれた。

 単純な肯定と否定だけど、それが無かったらと考えると恐ろしくなる。

 それに加えて戦い方も。

 この人はオレ達……少なくともオレの今を作った人の一人だろう。

 そこに対する感謝はある。


「ん?どうした、そんな目で私を見て」


 だがオレはこの人の祖国に牙を剥くのだ。

 この人の生活を脅かす事をする。

 そう思うと、複雑な心境になってしまう。


「……ゴーレムに乗るのは好きか?」

「アー」

「私もだ」


 ゴーレムに乗る時は命が脅かされる。

 そうだとしても、やはりあの大きな機械を動かすのは楽しいと感じてしまう。

 教官に対する申し訳なさを感じつつ、総督殺しを行おうとする内心と近いものだ。

 その感情から逃れる事が出来ない。


「しかし私にエルフの人生は長過ぎる。小娘の頃はこれを生業にしようと思っていたんだがな……戦う事に飽きてしまった」


 飽きるとか、あるのだろうか。

 労働の一種と考えればあるのかもしれないが、そこで疲弊や恐怖ではなく飽きが来るところはやはりエルフといった感じだ。

 超然として、でも人間味があって……もしオレがエルフとして生を受けていたならどんな感じだったろうかと考える。

 もしかしたら教官や、キランと友人になったかもしれない。

 この人とどんな会話が出来ただろう。

 こんな事を考えるのは多分、総督と話して教官とも話したからだ。


「軍を辞めようかと思っていた時、研究所で強化兵に戦い方を教えてくれないかと頼まれた。受けたのは気まぐれだ。それに断りにくい相手でもあったからな」


 苦笑して、教官はグラスを傾けた。

 中身を空にし、名残惜しげに底を見つめる。


「時に人は自分の半生を語りたがる。そんな時に何も言わないお前は便利だな448号」


 オレの肩を軽く叩いて立ち去る教官の背中を見送る。


「人に戦い方を教えるのは楽しかったが、お前がピークだったよ。だから今もこうしてお前に楽しみを求めているのかもな」


 そう言い残して教官は去って行った。

 変わった人だと、そう思う。

 まるで普通の教師と教え子のような、その程度の立場のように振る舞っている。

 ……以前、あの人に褒められたのがとても嬉しかった事を思い出した。

 今も認められたようで嬉しかった。

 兵士として以上に、人として。


「何?随分と楽しそうじゃない」


 いつの間にかアリナが目の前に居た。

 楽しそうにしていたのか。

 にやけていただろうか。


「パーティを抜け出すにはまだ早いわねー狼ちゃんは!」


 アリナにがっしりと肩を組まれ、逃げ場を失い連行される。

 この人に内心を相談出来たなら何か解決出来たのだろうか。

 立場が違えばエルフと友人になれたかも、なんて話したところで仕方のない事だけど。

 それにアリナは絶対にノーを突き付けると思う。

 なら今のまま、曖昧に胸にしまっておくのが良いだろう。

 曖昧なままも良いだろうから。


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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます いつも楽しみにしています 教官のキャラ好きですわ 長生きしてほしいな…
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