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ロレア  作者: M3
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プロローグ

あの日の自分は陽の落ちた小さな村に荷車を引いて帰還した。人ひとりで動かせているのが不思議なくらいの大きな大きな荷車で、その上には縄でグルグル巻きにされた大型の魔獣が横たわっている。



「おお…!今日も見事な成果ですな。さすが雷光の勇者、ロレア殿」

「”元”ですよ。今はしがないハンターです」

「若い男手の少ないこの村の力仕事をいつも率先して請け負ってくださり、何とお礼申し上げてよいか」

「自分の生まれた村ですから、当然のことをやってるだけですよ、村長」

「ほんに有難いことで。いやいや貴方様にこんな仕事をやらせてしまうなんて…」

「今はもうただのいち村人ですよ。本当に気を使わないでください」

そんな話をしながら二人がかりで荷車を転がし、調理場の方角へ向かう。台上の魔獣は程よく脂の乗ったやわらかい肉質で有名な種。今夜はとびきりのご馳走だ。




「働いたあとの食事は美味いし酒も美味いですな、ロレア殿」

「いやいや、上質な肉にはやはり葡萄酒ですな、村長」

美味い肉に美味い酒を嗜みながらほろ酔い気分で村長と上機嫌に言葉を交わす。

「まるで新鮮な生き血のように綺麗な赤色ですな……む、食事中にこれは失礼を…」

「いえいえ、お気になさらずですよ?しかしこんな話をしていると思い出しますね。当時話しかけてきた謎の老人が美味だ何だとと噓を付いて勧めてきた、大鷲の生き血なんぞを飲んでみたんですが、もうそれがマズ過ぎるの何のって。とんでもない悪戯されましたよ、ハハハ」


「ほっほ、ロレア殿は意外と人が好過ぎるところがありますからな。騙されやすいというか素直というか。あとは好奇心も大変旺盛で。そこが良いところなのですがな、ウハハハハ」

「いえいえ、恥ずかしいかぎりです。今思えば怪しさ満点の風貌、そして口ぶりでしたしね。あんなのに騙されるのがどうかしてますよ。まったく本当に、こんな至らぬ自分が魔王討伐を成しとげただなんていまだに信じられません」


という他愛もない話をしながらふと見上げた夜空には赤い月が浮かんでいた。それこそ葡萄酒やあの時飲んだ生き血の色、そして今夜もすっかり出来上がった村長の顔を彷彿とさせる程に、とにかく赤い赤い月…


なんてことを思いながら視線を戻すと彼は卓上にぐったりと倒れ込んでいた。

酒に酔いつぶれてしまったのか?いやはやまったく仕方のない老人である。



………いや違う。あたりを見渡すと他の村人たちも皆、気を失っていた。酒飲みも下戸も関係なくだ。そして村の中心部が薄紫色の霧に覆われている。その中には人影があり、大きな二本の角も確認出来た。


あれは魔族だ、間違いなく。

酒に酔っていて村に侵入されたことに気が付かなかったのか?いやそんなはずはない。これでも元勇者なのだ。上手くオーラを隠されたのだろう。となれば…この魔族、相当な上位種だ……

と判断するや否や、グラスを卓に置いて立ち上がり武器を構えた。


ゆっくりとこちらに近づいてくるのは魔族特有の大きな二本の曲角を生やし、目鼻立ちの整った長髪の青年。すっかり酔いの冷めた頭で色々と思考を張り巡らせていると次の瞬間、肩と肩が触れ合う距離まで間を詰められていた。

魔族の青年が耳元で囁く。

「お前……ロレアだね?」

それが”声”だと、言葉だと認識したのと同時に襲ってきたのは生暖かい感覚…そしてそれは骨まで燃え尽くすかのような灼熱の苦しみに代わってゆく。

今、何が起こったのか、起こっているのか、全く思考が追い付かない!


「ククク……口ほどにもない、いとも容易い………」


何も見えない、身体に力が入らない、頭がぼんやりする。ゆっくり、ゆっくりと意識が遠のいてゆく。どちらが上なのか下なのか、それすらも分からない。誰かに頭を強く揺すられ続けているような感覚。永遠に続くのかと思えるこの苦痛、不快な耳鳴り、嗚咽するような気持ち悪さが続いている。




…………もうどれだけの時間経ったのだろう。


ゆっくりと意識が戻ってきたので瞼を開いてみると綺麗な青い空が広がっていた。

どれくらいの時が過ぎたのだろう、数時間、いや数日寝込んでしまっていたかもしれない。村の被害状況は?村長は?

なんてことを考えながらゆっくりと身体を起こした。




ーーー目前には見渡す限りの綺麗な大草原が広がっていた。

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