(とある国の歴史)
かつてこの国は十二王政でした。
十二人の王様はそれぞれの頭文字を取って、イ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、ヲと呼ばれていました。
それぞれに仕える貴族たちが居て、またそれぞれに五つの爵位が与えられました。
貴族だけで六十の身分があり、貴族たちは王の人気や爵位の上下で互いを比べました。
しかし、流行り病がこの国を襲いました。
イは死にゆく民に心を痛め、自らの命を絶ってしまいました。
ロは民に自ら手を差し伸べ看病をして周り、流行り病にかかってしまいました。
ハは宗教の力に頼りきりになり、祈祷を続けるために籠ってしまいました。
ニは狂を発してしまいました。
ホは世を儚んで色に走り、妻に刺し殺されてしまいました。
ヘは特効薬を探す旅に出て、二度と戻ってきませんでした。
トは半狂乱になった民に襲われ、命を落としてしまいました。
チ、リ、ヌ、ルは流行り病を抑える政策を幾つも考えましたが、仲たがいをして、互いを毒で殺してしまいました。
渡り蝶が去り、流行り病は沈静化しましたが、国はボロボロになっていました。
まだ幼い王子たちは困り果てています。
残ったヲは決断しました。
「王政を廃止します」
その時に貴族制度も解体されるはずでしたか、大きな反発によってなぜか残ってしまいました。
ヲは十二の王室を解体した後、ひっそりと余生を過ごしました。
改革の混乱と飢餓、そして貴族たちの不安から、侵略戦争がはじまり、この国は周囲の国を取り込んで大きくなっていきました。
多くの犠牲を伴って。
正シー教会からも多くの殉教者が出ました。
教会は安息日を制定し、貴族たちの心を癒し、戦争をやめるように呼びかけました。
戦争は終わりました。
貴族の階級は形骸化し、彼らは残された国家を運営するために持ち回りで治世を行っています。
今でもこの国の民たちは、かつての戦争を反省しています。
その証拠に、この歴史は毎年のお祭りの歌に残っています。