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第9話 幕開け(いろんな意味で)


 アサナシアに頼まれた魔法陣は、神をも召喚させることが可能な規模のものを作らなければならない。だとすると、魔力が随分足りなさすぎる。


「ふぅ、どうしようかな……」


 魔王城の中では流石に危ないだろうから、魔族国の少し奥の方にて行っている。この場所は岩だらけで何も無いけど、この先真っ直ぐ行けば人間界である。魔族国と人間界の明確な違いはないが、カターラによると、夜が明けるらしい。

 とりあえずこの魔法陣が見つからないように、認識阻害魔法を掛けておこう。


「……すぅ、はぁ」


 私は深呼吸をして、魔法陣作成を開始する。手のひらに魔力を込め、魔法陣の形をイメージする。どれくらいの大きさかは詳しく教えられていないが、とりあえず、半径50mくらいで良いだろう。


「む、む、このくらい? ちょっとデカすぎ?」


 私は目を瞑り、脳内のイメージをもう少し膨らませる。そもそも何を召喚したいのか分からないので、想像しづらい。とりあえず作ればいいか。


「……こう、して、こう?」


 手のひらを地面と垂直にし、練り終えた魔力を魔法陣の形に成形する。外側から順番に、内側に向かって成形される。このデカさは流石に初めてで難しいが、魔王様から頂いた能力を舐めてもらっては困る。


「うぅぅ……で、きた!」


 魔力量は無いに等しいが、形だけは完璧だ。

 魔法陣は光を放ち、魔力をもっとよこせと私に語り掛けてくる。

 この形を形成するだけでも魔力が減るのに、ここに注ぐ魔力量なんて考えたくない。今日の分はこれでいいとして、2週間で足りるだろうか。無理な気がしてきた。いや、魔法石を砕けば何とかなるか。


「それじゃ、また明日!」


 私は魔法陣に向かって挨拶をすると、魔王城へと歩いて帰る。飛行魔法用の魔力も注いでしまったので、手段は徒歩しかない。たまにはこういうのも良いだろう。



♦♦♦



 魔法陣作成から2週間後。

 私の日々の全魔力を注ぎ込まれた魔法陣は、お腹がはち切れそうだと言わんばかりの魔力量になった。認識阻害を掛けていても、多分見つかってしまうだろう。


「魔王様、魔法陣の作成が完了しました。私とあなた様以外は使えないようになっていますので、そこはご安心を。それ以外は、普通の召喚魔法と何ら変わりはありませんので」


「分かった。ありがとう」


 私はアサナシアに報告だけ済ませて、玉座の間から出ていこうとする。

 さてと、これからようやく人間退治が始まるのだが、持ち物は何がいるのだろう。


「ああ、そうだフォティノース。ちょっと待て」


「はい、なんでしょうか」


 アサナシアが私を呼び止めるなんて、珍しいこともあるものだ。とりあえず私は、先刻まで跪いていた場所まで戻る。


「人間界に行くのは、本気なのか?」


「ええ、本気ですよ」


 アサナシアは、前私が言ったことを覚えてくれいたようで、そのことについての質問が飛んできた。


「お前が人間界へ行くというのに、俺達が手助けをしないはずがないだろう」


「……手助けなんて、いらないよ。私は人間が嫌いだけど、人間たちが築き上げた文明は好きだから」


「では何故人間界に行く? 俺ら階席全員で行けば、ある程度の人間は殺せるだろう。だがお前は1人で行くことを選んだ。それはどうしてだ?」


 確かに、私は誰にも着いてきてもらおうとしていない。なぜなら自分だけで出来ると証明したいからであると同時に、1人旅に興味があるから。

 以前、だれかの冒険譚を読んだ時、私もやりたいと思った。1人というのは孤独であり、頼れる仲間が誰もいない。旅の中で生まれる友情や、恋愛感情などもなく、ただ素の自分との対話をするだけ。でも私は、それが寂しいとは思わない。だから今、その夢を叶えようとしているだけ。


「正直に言うなら、やってみたいから。自分勝手だと思うけど、魔族国もずっと居たら退屈だし、人間たちにも復讐できるし、悪くない考えだと思う」


「ほう、それで?」


 アサナシアは真摯に私の話を聞いてくれていた。こんなおかしな話を、魔王の椅子に座り、真剣に聞いてくれていることが少し嬉しかった。


「だから、私は、旅に出たい」


 顔色ひとつ変えずに話を聞くアサナシアに、私は考えを言葉に乗せる。もちろんどんな事を言われたって、この意志は曲げるつもりはない。


「お前は、人間界を遊び感覚で旅しようとしている。お前の力は成長したかもしれないが、今の人間は昔みたいに貧弱ではない。もっと言うと、お前は死ぬかもしれない」


 それでもひとりで行きたいのか、と。

 答えは変わらない。勿論イエス。私からしたら当たり前のこと。


「魔王様、いえ、アサナシア。心配しなくても、私は大丈夫だから。お願い」


 これではまるで外出許可を出して貰えない子供のようだ。私に両親は居ないが。


「……そうか。全く、可愛い子には旅をさせよとはこういうことか」


 納得してくれたようだ。これで自由気ままに旅ができる。目的が無いと言っても過言ではないような、自分勝手な旅が。ていうか可愛いとか言われたら照れちゃうじゃないか。


「ただし、お前にはやってもらいたい事がある」


 なんだ、条件付きじゃないか。

 私はアサナシアが言う、やってもらいたい事を聞く。なかなか難しいものではあるが、やり甲斐はありそうだ。




♦♦♦



「さてと、階席の仕事はイウースリに任せるとして……うん、いけるね。今日中に出よう」


 私が身を隠すためのフード付きのローブや、持っていきたい物などを厳選し、長旅とはいえ、小さな斜めがけのバッグの中に詰めていった。

 そのとき、軽快な足音が段々と大きくなっていることに気がついた。


「フォティノース、居るかい?」


 ドアをこんこん、とノックする音が響いた。と同時に、聞き馴染みのある少年の声が。


「エクリーポ、入っていいよ」


「お邪魔するね……って、何をしているんだい?」


「旅支度? ってやつかな」


「ええっと、君が言っていることが理解できないんだけど」


 私は手を止めずに彼と話していたが、ようやく手を止め、彼の目を見て話す。

 ローブを着こなし、かっこよくなったところで、話に集中することとする。


「私は人間界を壊す。魔王様の……いや、魔族が幸せに暮らせる為に」


 冗談ではなく、真剣に。

 エクリーポはさぞ驚いただろう、残念だと言うのだろう。昔からずっと一緒だったのだ、寂しいのも無理は無い。


「エクリーポ、泣いても無駄だよ。私は人間界を旅する──」


「僕も一緒に行くよ。君が1人で旅をするなんて、とても心配だ」


 彼は私の話を遮って、そう意見を述べた。だが彼の意見を通す訳にはいかない。


「いいや、だめ。子供扱いしないでくれるかな。私は1人で大丈夫」


 本当の事を言えば、彼に着いてきて欲しい。だけどそれは甘えだ。もしも共にするとなれば、彼に全てを任せてしまう。

 誰にも進路を決められない自由な旅と、アサナシアの命令を果たす旅。何年かかるかは分からないが、必ず帰ってくる。彼らと会える時はきっと、世界が平和になっているだろう。


「だからお願い。私は1人で大丈夫」


「じゃあフォティノース、1つ約束してくれるかい?」


 そう言えば、エクリーポは私に片膝をつけて跪いた。そうして私の手を取り、そっと甲にキスをした。


「ずっと隠していたけど、君のことが好きみたいだ」


 驚きで声が出ない。今ので頭が真っ白になり、何も考えられなくなってしまった。身体はがちがちになり、凍ってしまったようだ。


「次会った時に、返事をくれるかい?」


 じゃあね、と彼は私の部屋から出ていった。

 突然すぎて発声ができない。それに、話したことを全て忘れてしまった。

 嵐のように現れて、嵐のように去っていく。

 いやちょっと待て、ようやく落ち着いてきて意味 も理解できるようになってきたが。


「え、え、えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 その声を聞いたエクリーポは、嬉しそうに廊下を歩いていたそうな。

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