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第8話 休息


 へとへとになっているカターラをおんぶしながら帰ってきた私。おかげでこちらまでへとへとである。

 とりあえずアサナシアに報告を。そういえば、イウースリは大丈夫だろうか。そう考え事をしている間に、玉座の間に通じる扉の前まで到着していた。


「フォティノース、も、もう大丈夫……ここからは、自分、で、歩ける……」


「そう? じゃあ降ろすね」


 カターラが降りやすいようにしゃがんで、地に足を着いたのを確認してから私は膝を伸ばす。

 脚をふらふらとさせるカターラを心配しつつも、こっちも疲れたのでここから自力で歩いて欲しいという願いもあったのでちょうど良かった。


「開けて」


 私が一言門番に伝えるだけで、彼らは大きな扉を開けてくれた。


「どうも」


 私たちは玉座までゆっくり歩く。

 見せつけるため、とかではなくてただ単純に疲れているから。

 私たちは魔王の前に跪き、生存報告をする。


「帰ったか。遅かったな」


「そうですか? でも凄いことになっていたので」


「ある程度の情報は、フォティノースのとこのメイドから報告してもらった」


「魔王様。人間達が襲ってきたということは、魔王様の存在もアタシ達の存在もバレているという事。早いところ対処した方が良いでしょう」


 ふむ、とアサナシアは考える所作をした。顎に手を当てて、下を向く。これはアサナシアの癖で、1人で考える時によくやるのだ。しかも私たちに何を考えているのか教えてくれないので、私たちからするとこの時間はただの無駄と言うわけだ。長くなるのだろうかと、うとうとしてた時、案外早く声を発した。


「フォティノース。お前に頼みたい事がある」


「はい、魔王様。なんなりと」


「休息が取れた後、再び玉座の間に姿を現せ」


「分かりました」


 急にどうしたのだろう。修行となれば、こんな言い方しないだろうし。まあ、いいや。


「では、失礼します」


 私とカターラ、2人同時に返事をすれば、立ち上がってその場を後にする。

 男の首はアサナシアに渡されたらしい。これでようやくゆっくり休める。なんて幸せなのだろうか。

 もうすぐ新月が終わろうとしており、既朔になろうとしている。

 カターラは玉座の間を出てすぐに、膝から崩れ落ちて倒れた。


「フォティノース、アタシを部屋まで運んでくれないかな……」


 あー、もう。嘘だと言って。


♦♦♦



「はぁぁぁ、疲れた……」


 久しぶりにこんなに働いた気がする。いや、カターラ程ではないか。

 あれから私はカターラを彼女の部屋に寝かせ、私はとぼとぼ自室へ戻った。人をおぶって魔王城を歩くのは、もう二度とゴメンである。


「フォティノース様。お疲れのところ申し訳ありません。イウースリでございます。捕まえた人間については、どう処理しましょうか?」


 考えたくない、足痛いよう。でも仕方ない。

 私はベッドに横たわっていたところを起き上がり、イウースリに中に入れとドア越しに告げた。


「失礼します。それで、人間の処理の方はどうしますか? 情報はある程度抜き出せましたので、不要となってしまいましたが……」


「そっか、ご苦労さま。たしか、エクリーポが欲しがってた気がするな」


「畏まりました。では、エクリーポ様にお渡ししてきます」


「うん。そうし……いや、待って! もしかしてだけどさ、その人間に何か危害を加えたりした?」


「いいえ、特には。肉体には傷つけてませんが、精神はどうでしょうか……」


「あ、ううん。それならいいの。じゃあエクリーポに渡してあげて」


「はい、畏まりました。お疲れのところ、申し訳ありませんでした。ゆっくりとお休み下さい」


「うん、ありがと。イウースリもね」


 ぱたん、と扉が閉まった音がした瞬間、私はベッドに引っ張られるように倒れた。

 瞼の上に象が乗っているようだ、とんでもなく眠たい。

 次起きたら、アサナシアの所に行かなきゃな。



♦♦♦



 玉座の間にて。


「魔王様。フォティノース、参りました」


 私は君臨する王に跪き、約束の頼み事を聞きに来た。


「来たか。早速だが、お前に頼みたいことがある」


「何なりと」


「召喚陣を作れ。それも超巨大な物だ。出来るか?」


「……や、やってみます」


 彼の言うことは私には到底理解できなかった。一体なぜ、何のためにだろう。

 とりあえず召喚陣を作るだけでいいのならば、数時間程度で終わるのだ。けれどめちゃくちゃ面倒臭いのが難点である。

 カターラが呪いを操ることが出来るように、階席の座を与えられた者には特別に、元ある能力とは別でひとつ能力が与えられる。その中で、私は召喚魔法を授けてもらったのだ。


「ですが魔王様、作るのは良いのですが、それをどうするのですか?」


「……お前には教えてやってもいいが、とにかく、何の生物も召喚できるような最大級の魔法陣を用意してくれ」


「分かりました」


 仕方ないなあと思いながら、私は彼の依頼を受けた。

 けどその代わりに、私からも言いたいことがある。


「魔王様。私からも1つ良いでしょうか?」


「……何だ?」


「私、人間を殺してきます!」


 前々から思っていたのだが、私は人間の存在する意味が分からない。繁殖能力は高いし、危ないし、自然が汚れてしまう。なのにそんな種族に滅ぼされかけて、挙句の果てに魔王様も殺された。だから殺す旅に出る。いつか魔族国の領地を拡大し、魔族が住みやすい場所を創る。そう、だからこの私、フォティノースの旅が始まるのだ。


「そうか、それは魔法陣を作り終えてからの話だ。完成はいつ頃になりそうだ?」


 なんだか本気だと捉えられていないみたい。仕方ない、こうなったらこっそり抜け出して、みんなを驚かせてやろう。


「……え、あ、何が?」


 質問を聞いていなかったので、聞き返してみる。


「はぁ……。魔法陣の話に決まっているだろう。いつなら完成させられる?」


「ざっと1週間くらい?」


「そんなに早いのか。まあいい。必要なものがあれば言え。手配させる」


 私は、はいと1つ返事をし、玉座の間を去る。

 いやはや、フォティノース冒険譚は今から始まるのか。なんだかとても楽しみでならない。いやいや、楽しむための旅じゃない。私がこれから行うのは、殺処分だ。うん。でもやっぱ、楽しみかも。

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