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第7話 呪いの女王


 カターラは長身の男に飛びかかる。彼女の鎌が空気を裂く。すかさず彼も応戦し、彼の身長と同じくらいの大剣を振りかざした。その瞬間、カターラはその場から消えていた。大剣が振り下ろされた瞬間に、彼女は避けると同時に彼の背後に回っていたのだ。


「死ねぇ!」


 鎌の刃は、彼の首を目掛けて突撃していく。もう避けることのできない至近距離だ。


「……ふっ」


 男は怪しく笑う、その理由はすぐにわかった。カターラの攻撃は通っていない。首の近くで、あと少しというところで止まっている。カターラがどれだけ力を込めようと、刃が届くことは無かった。

 カターラは1度離れ、体勢を整え、追撃を開始する。くるくると手元で遊ばれる大鎌は、いつの間にやらどこかを切り裂いてしまいそうだ。

 男の体を真っ二つにしてやろうと上から刃を落とすが、やはり防御魔法を破ることは出来なかった。

 カターラは一旦、私の隣に帰ってきた。


「カターラ、あの男はきっと魔法の鎧を纏ってる。あの感じからすると、きっと神聖力を使ってるんだろうね」


「ふん、嫌な事してくれるわね。頭のてっぺんからつま先まで、ガードがっちがちじゃない!」


 はあ、とカターラは嘆息をこぼした。

 私も実際、あの防御魔法には呆れていた。私たちの対策として神聖力を使ってくるのだから、呆れるしかないのだ。おそらく彼自身は神聖力を使えないと思うが、人間界に神聖力を使える人間がうじゃうじゃいるとなると、今度こそ本当に魔族はおしまいかもしれない。

 神聖力というのは、魔法であり、魔法ではない。神の力を借りる事となるので、魔法よりも強力となる。そして魔族の苦手とするものでもある。あの神聖力より強い力でなければ、破ることは出来ない。

 頭の中で全ての糸が繋がった感じがして、納得いく結論に導けたのは良いと思うが、対処法をどうするか、だ。


「ねえアンタ、名前は? もしかしてだけど、スカーゾと言った?」


「あ? ちげーよ。それは俺のおじい様の名前だ。テメェら魔族に殺されちまったがなぁ!」


 カターラは、何かいい事を思いついたらしい。

 後から聞いたのだが、カターラは男の祖父を殺した張本人だったらしい。よく名前を覚えていたなと感心してしまった。

 男は言葉を発し終えると共に、カターラに向かって急発進した。男は大剣を相手にお見舞いしてやろうと全力で振り上げるが、カターラの行動の方が何倍も素早かった。あとは重力に任せて落とすだけだったが、カターラの蹴りが男の腹部に命中した。あんな華奢な体をしているのに、物理攻撃の威力は凄まじいのだ。

 男は、吐血しながら燃え続ける火の中に飛ばされた。カターラがヒールを履いていないだけマシである。


「あはははは! 折角だから、アンタのおじいちゃんと同じ方法で殺してやるよ!!」


 カターラに強い魔力の波動を感じる。紫色をした三つ編みの髪は、見えない魔力の渦によって浮き始める。それだけではない。風が吹いているわけでもないのに、彼女の羽織る黒いローブがパタパタと音を立てながら、強くなびいている。


「最後だから教えてあげる。アタシの名はカターラ! アンタ、名前は?」


「俺はフローガ。魔族を全員ぶっ殺して、英雄になる男だ!!」


 カターラの魔法が発動された。彼女の大鎌の刃が青紫に染まり、カターラの瞳は桃色から真っ黒に変色した。

 カターラは高く空を飛び、フローガと名乗った男を見下ろす。すると突然、後ろで起こっていた村の火災が止まった。燃え尽きた家屋を残して、スっと炎が消えたのだ。フローガは異変にすぐさま気付いたらしく、大剣を構え、どんな攻撃が来ても防げるように構えをとる。


「死に至る根源を、貴様に見せてやる。其れは海をも切り裂く冥界の刃。瞬きの合間に終わらせよう」


「来い! カターラ!!」


 そんな意気込みも乏しく、フローガの首は既にそこには無かった。ぼと、と首が落ちる音がしたすぐあとに、ばたっ、と胴体が倒れる音がした。

 カターラは空からフローガに向かって、目にも見えぬ速さで突撃し、首を狩り落としたらしい。いやはや、これは目が追いつかない。

 カターラが発動した魔法は、彼女特有の魔法である。カターラは呪いを操ることができるのだ。

呪いを一時的に彼女の鎌に集中させ、どんなものも切れてしまうという最強の切れ味を生み出すことが出来たのだ。それにより、あの男が纏っていたはずの神聖力の鎧さえも、サクッと斬れてしまった。


「覚えておいて。アタシはアンタ達より強いの」


 皆は避難したか殺されたか、でもきっとイウースリが対処してくれているだろう。かなりの損害はあったが、これにて害虫退治は一件落着。

 私は見ているだけだったけど、結構楽しめたかも。

 疲れからかぶっ倒れたカターラを、私はおんぶしてやる。


「イウースリ」


 私はメイドの名を呼ぶ。すると死体だらけの空間に、私たち以外の魔族が気配も出さずに現れた。私に跪いた状態で、顔を伏せ、指示を待っていた。


「お呼びでしょうか。フォティノース様」


「あそこにある男の首、持ち帰ってくれない? アサナ……魔王様に献上したいからさ」


「畏まりました。その、フォティノース様。カターラ様は大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だと思う。ちっさいクセにちょっと重いけど……いででで」


 気を失っていたはずのカターラに聞こえていたらしく、しがみついていた腕で首を絞められた。


「今、なんつった?」


「な、なんでもないいい」


 その力があるなら歩いて欲しいくらいなんだけど。


「とりあえず、イウースリは先に帰っていいよ。後処理は魔王軍にさせよう」


「畏まりました。では、お気をつけて」


 イウースリは落とされた男の髪を鷲掴みしながら、転移魔法で魔王城へと向かった。


「……私たちも帰ろっか」


「……」


 カターラは力尽きたのか、返事もしてくれなくなった。寂しいけれど、急ぎでもあるまいし、ゆっくり帰ろう。

 飛行魔法で空を飛び、緩めの速度で魔王城に向かった。

 

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