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第6話 襲撃


 イウースリにもらった紅茶を、本を読みながら優雅に飲んでいる今日という優雅な日。本日はちょうど新月であり、星が主役の日だった。


「うん。いい日だ。ゆっくりで、落ち着いていて」


 それに修行もないし、ゆったりと時間は流れていく。

 すると突如大きな爆発音が轟き、衝撃波によって部屋具がカタカタと揺れた。


「……まさか、ね」


 そう、これは私の気の所為であり勘違いである。お願いだからそうであって欲しい。

 地下にて発動されたあの魔法とは違う流れだが、あの日と同じ胸騒ぎがした。

 私は引き続き読書を続けようと思ったが、胸騒ぎがして集中できない。そして不幸な事に、城内が騒がしかった。


「フォティノス様──!」


「分かった。今すぐ行く」


 意外にも私は冷静さを保てていた。

 私は本を机に置き、椅子から立ち上がる。ドアを勢いよく開けたイウースリの方へと歩くが、なんだかイウースリの様子が変だ。


「今の爆発によって、魔族国のほとんどの町が被害を受けました。そして魔王様の命により、カターラ様が向かわれました」


「了解。君は民たちを避難させてきて」


「はい!」


 イウースリは転移魔法を使い、すぐさま村に向かってもらった。イウースリの実力は、並大抵の人間でも瞬殺できる程であり、魔族の中では優秀な方である。

 私はアサナシアに報告せねばと、玉座の間に走った。




「魔王様。先程の爆発は一体?」


「人間達の襲撃だ。今カターラを向かわせた。お前もメイドを向かわせただろうから、もう増援は要らない」


「魔王様、私も向かってよろしいですか?」


「……俺は援護しないぞ。勝手にしろ」


「ありがとうございます」


 ピリついた玉座の間の空気を、何とか生き抜けた。

 私は何故行きたいと思ったのか分からないが、何となくという幼稚な理由しかない。

 兎にも角にも、私は目にも見えぬ速さで現場へと飛んだ。


☆☆☆



「オラァァァ!!」


 聴覚を壊されるような金属音が、耳に強く響く。

 魔族を傷つけた人間達を殺し、傷つけ、首を狩る。

 アタシが最初に来た時、もう既に町は崩壊状態になってた。燃え盛る火は止めれるはず無いし、皆きっと逃げてるだろうから、やりすぎても問題は無いだろう。

 大きな鎌を振り回し、大人数で襲ってきた害虫を駆除する。

 こんな快感は久しぶりだ。何か心の奥底に眠るものが、湧き出てくるのを感じる。


「ふふふ、あはははははは!」




☆☆☆




 私が到着した頃には、もうカターラが人間の軍をほとんど全滅させていた頃だった。とりあえずカターラがこれ以上暴走する前に、落ち着かせないと。

 私は横たわる人間の死体を避けながら、血の海の真ん中に立つカターラを窘める。


「ちょっとカターラ! 落ち着いて!」


「あはははは! ……あ? って、フォティノースか。ねえ、ふふふ、見てよ! アタシ、久しぶりにこんな人を殺したわ!」


「そうだね。でも全員殺したら情報を集められないじゃん」


「あー……。クソ、それは考えてなかった。でもアンタんとこのメイドが、1人連れてったのを見た気がする」


「ふぅ、良かった。じゃあ一旦帰ろう」


「そうね。服も汚いし、帰ってシャワーでも浴びるわ」


 そうしてひと段落着いたところで、突然魔力を感知した。一体何故、どこからなのか。

 私たちは周りを見渡す、だがあるのは衰えを知らない火の手だけ。

 その時、カターラは私の肩を両手で強く押してきた。短刀が私に命中する寸前に。


「フォティノース、危ない!」


 カターラは私を庇い、飛んできた短刀が腕に当たってしまった。その短刀には魔力が込められており、通常時の倍の痛みを伴うだろう。


「ぐっ……!」


「カターラ!!」


 私はしりもちをついたまま、彼女の名前を叫んだ。目の前で起こった事の衝撃が大きいと、体は動かなくなるというものだ。


「ちっ、外したか。魔族なんかが生きてていいわけねぇのによぉ、仲良しごっこは目に余るぜぇ?」


 その時、短刀が投げられた方角から声がした。

 燃え盛る炎の中から出てきたのは、ガタイのいい長身の人間。身長は2mほどあるだろう。髪の色は黒色で、肌は日焼けにより茶色くなっている。服装は至って簡単に済ませているようで、上半身は何も着用せず、下半身はアラビアを象徴させるズボンだけである。だが、ほぼ生身の状態でどうして炎の中に留まれたのか。

 私はカターラの隣に立ち、共闘すると行動で示した。


「フォティノース、アタシは1人で大丈夫。さっきの傷も治癒したし、今のアタシは絶好調だから」


 カターラは彼女専用の特殊な大鎌を構え、相手が動くのを待つ。その鎌は鋭く輝き、月をも切り裂きそうな刃である。

 私はカターラを信用し、1歩後ろに下がる。言われた通り、特別席で観戦でもしておこう。


「アンタ、この町を破壊しようとしたのね。誰の命令?」


「人間サマにその口の利き方はねぇだろがよ。本当に魔族が生きてるとは思わなかったがな」


 男は彼の身長と同じくらいの大剣を肩に乗せると、カターラを挑発し始める。自分に自信がとてつもなくあるようだ。


「人間くんは、どうしてこんな所にいるワケ? アタシ達に喧嘩を売るとか、ジサツ行為にも程があると思うけど?」


「俺様が死ぬとでも思うか? ネズミの相手なんか、この剣1本で充分だ」


 2人は舌戦を繰り広げているが、いつ殺し合いに突入するか分からない。いや、とっととこいつを殺して欲しいところだ。

 暖かい風が吹く。生臭く、不愉快な風。私はそれらに当たりながら、男の首が落とされるシーンを想像している。

 そしていつの間にか、カターラは隣に居なかった。

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