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第4話 階席会議

 会議室は、やはり以前と変わらず絢爛豪華だった。蝋燭は灯り、威厳のあるドラゴンの首の剥製は壁に飾られていた。


「よく集まってくれたな。ではこれより会議を始める。早速だが、魔王を決めようと思う」


 今司会をしているのは、アサナシアという男の魔族。私の師匠であり、最強の魔族だ。髪は銀髪、鮮血の瞳、黒を基調としていて、スーツに少し豪華な装飾を施したような服装をしている。

 かなり単刀直入に議題を持ち込んだアサナシアは、だいたい答えはわかっているだろう。今から誰が、何を言うかは予想済みであると思う。私だって分かってしまうのだから。


「はーい、アサナシアでいいと思いまーす。会議終わりー、かいさーん」


 ほらみたことか。

 今発言したのは、怠そうな態度を取るカターラだ。カターラというのは、階席第5位の女性だ。紫の髪をしており、後ろに長い三つ編みが成されている。私よりも貧相な体を隠すためだろうか、真っ黒のローブをを来ていて、その中の服はここからではよく見えなかった。でも普段は薄っぺらい胸を隠すためだけの黒い布と、黒いパンツだけ。きっと彼女は最低限隠れれば良い、なんて思っているのだろう。ハレンチ女め。


「私もアサナシアでいいと思う。前に魔王様のお世話もしていたし、きっと1番信頼できるひとだったと思う」


 私もカターラに同意し、意見を述べる。きっとこの円卓に座る階席たちは皆同じ意見だと思う。イスキオスも首を縦に振ってくれているし。


「……俺は、魔王になんてなりたくない」


「はぁぁぁぁぁ?!」


 先程まで大人しかったカターラが、急に大声をあげる。まさか嫌だとは思わなかったが、そこまで驚く必要も無いだろう。


「どうしてよ! アンタが魔王にならないんだったら、誰が魔王になるわけ?」


 それはごもっともな意見である。

 カターラの特徴的なつり目は、アサナシアに向けられている。それもより一層キツくなっている気がする。


「じゃあ、イスキオスがなればいいんじゃない? 階席2位でしょ?」


「わ、私? そうねぇ、魔王とかはちょっと……」


 私の意見は優しく否定された。

 困ったことに、王様が決まらないと国が成り立たない。どうにかしなければならないのは、アサナシアがいちばんよく分かっているだろう。


「……あの方は偉大すぎた。俺なんかに、勤まる筈がないんだ」


 アサナシアの一言によって、盛り上がっていた会議は一気に冷め、どんよりとした空気に包まれた。それぞれが失われた思い出を脳内で再生しているのがよく理解出来る。それほどまでに、私たちは皆を愛していたのだ。


「ま、まあ。とりあえずどうするかだけ決めない?」


 私は沈黙を打ち破り、脱線した話を戻した。


「いいや、僕はアサナシアがなるべきだと思うよ。アサナシアは強いし、僕ら階席や国民達を大切にしている気持ちは誰よりもある。そうだろう?」


「そうね! 私も賛成よ!」


「賛成。アンタが王になるべき」


「うん。私も賛成」


 アサナシアはクールな男だが、こればかりはクールになりきなかったらしい。アサナシアは優しく微笑み、一言お礼の言葉を放つ。


「ありがとう。だが、もしも魔王に相応しい者が現れた場合、俺はそのひとに席を譲りたいと考えている」


「勿論。相応しい者こそが王になるべきだ。僕らは君の意見を否定しないよ、新しい魔王様」


 イスキオスとエクリーポ、カターラと私。皆席を立ち上がり、跪く。アサナシアに心からの忠誠を誓い、仕える事を行動ひとつで約束した。

 これにて、階席会議は終了。新しい魔王も決定し、あとは彼の方針に従うのみだ。ここからどのように変わっていくのか、楽しみだ。きっとこれからアサナシアは、目まぐるしい日々を追うことになるだろう。魔王様の近くにいたとはいえ、仕事量は尋常ではない。これでもう修行してくれなくなるのだと思うと、ほんの少しだけ寂しい気がする。私の師匠が、皆の魔王様になるのだから、仕方がないのだけど。



 そして数日後、私は師匠改め魔王様に、訓練場に呼ばれた。訓練場に呼ばれるということは、まだ師匠でいてくれるという事だろうか。私は動きやすい服装に着替え、早速訓練場へと出向いた。


「遅かったな、フォティノース」


「ごめん、魔王さ……師匠」


 何も言われないということは、今なら師匠でいいということだろう。


「ところで師匠、お仕事はいいの?」


「ああ。終わらせてきた。お前との勝負に集中する為にな」


「勝負?」

 

 私は首をかしげ、師匠の言葉を復唱した。


「お前がどれだけ成長したのか、確かめるためにな」


「そういう事。ふふん、きっと師匠、びっくりするよ?」


 剣術や魔法を教えられて、はや数百年。とても厳しい修行だったが、どれもこれも身についたはずだ。今この場で、私は教えられた全てを発揮する時だ。


「魔法は禁止。剣だけだ」


 師匠は私に1本剣を投げる。何の変哲もないただの剣で、いつの間にか魔法が使えないように結界も張られていた。なんと入念な。


「範囲は結界まで。お前が持つ全ての力で挑みに来い」


「了解、頑張るね」


 私は剣を構える。だが師匠は何故か構えを取らない。それほど舐められているのだろうか。

 この静寂は、いわゆる嵐の前の静けさ、というやつであろう。どちらかがぴくりと動けば、戦闘は開始する。それまで両者睨み合いだ。けれど師匠は、お前から来い、と言っているような気がするので、私はそれに甘えてみることにする。


「……覚悟してね、師匠!」


 私はこのあと、想像を絶するような負けを味わうなんて、思ってもいなかった。

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