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第34話 アレクの初戦

 私たちは森を歩き、次の国に向かう。

 森の中には魔物が沸いているので、駆除するついでに戦いの基礎を教えながら進んでいた。

 

「ふぅ。それで、こっち?」


「そうだ。看板の文字を読めばわかるだろ」


 こいつについて、数日共にしてきて分かったことがある。

 こいつ、いや、アレクは一言余計だ。何においても、嫌味たらしく言ってくる。

 命の手綱を握っているのはこちらのはずだが。


「私文字読めないし。ねえ、アレク。提案だ。私は戦い方を教えてあげるから、お前は人間界の役立つ事を教えて」

 

「魔族が知る必要はない」


「……そっかあ。ははは、お前ムカつく」


 笑顔を保ちながらそう言葉を吐く。

 ほら、こいつ超ムカつくのわかるでしょ。


「……アレク、お前いつもそうなの?」


「なわけないだろ。話し相手が魔族だと、皆こうになる」


「私には名前がちゃんとある。フォティノースだ。わかる? フォ・ティ・ノー・ス。魔族はそうだけど、ちゃんと名前で呼んで」


 アレクは一向に名前で呼んでくれない。

 嫌という訳じゃないけれど、魔族と一括りにして呼ばれるのはあまり良い気分ではないだろう。


「……そうか。気をつける」


「よろしい。ではアレク、ここで問題。今周りにどんな魔物が、何体いるでしょうか?」


 私は立ち止まり、横を歩むアレクに問いかけた。

 反応は数体。個体差はある。この気配からして、猪の魔物であるカプロスだろう。

 鋭い毒性の牙を持ち、性格は猛獣のよう。対象定めて猛進してくるまさに魔物。

 それにカプロスはなかなか大きいし、硬い。けれど脳は小さい。


「魔物っ?! 何処に──」


「動かない方がいいよ。1歩でも動けば、彼らはお前に向かって猛突進してくる。それと、私が答えを言ったら上に大きくジャンプして」


 さりげなくヒントを与えつつ、警告もしておいた。

 アレクは拳を握り、体重を足先に集中させた。準備は万全のようだ。


「数は……5体、か? 魔物は……アラフニ?」


「残念、違うよ。正解は7体、種族は……カプロスっ!」


 私たちは上に大きく跳ねる。すると思った通り即座に突進してくるカプロス。私たちを囲む数は予想通り7体、考えもせず突っ込んできた。

 だが私たちは上にジャンプしたゆえに、四方八方から襲いかかってくるカプロスたちは互いとぶつかり合い、一瞬にして退治できてしまった。


「っと。はい、おしまい。惜しかったね、アレク。アラフニはここには沸かない。薄暗く、湿ったところに生息するのがアラフニ。分かった?」


 円を描いたかのように跳ね返り倒れたカプロスたちの中央に着地した私たち。

 アレクは無事着地できたものの、最終的によろめいて尻もちをついていたけれど。


「今回はたまたま頭脳が低いカプロスだったけど、もちろん頭のいい個体もいる。全部が全部こうやって倒せるわけじゃない。わかった?」


「ってて……。あ、ああ。わかった。覚えておこう」


 アレクは砂の着いた服を手で払い、顔を少し歪ませながら立ち上がる。

 死体のカプロスは、太陽の光で焼け焦げたように灰になり、空気に混じえて消えた。


「ああでも、お前のジャンプは悪くない。人間にしては、なかなかセンスがある。前に鍛えたりしてたの?」


「体は多少鍛えたりしたが、ジャンプの練習はしてない。それに、あれは身体強化を使ったからだろ」

 

 なるほど。興味深い。

 この人間は才能があるだろう。魔力の乱れを全く感じなかった。

 呼吸するかのように、自然な魔法だった。

 もしもエクリーポやアサナシアが魔法使いとして育てたら、おそらく上級どころか世界一になれるだろう。まあ、今の人間の状況は分からないが。


「へえ、そう。お前、才能あるよ。剣士かどうかは分からないけど、魔法に関してはセンスがある」


「……本当か?」


 アレクは必死に隠そうとしているが、嬉しさが滲み出ている。瞳が先程よりも輝きを放っているから。

 

「うん、本当だよ。なんなら今から手合わせしてみる? お前の欠点が分かるかもだ」


「ああ。ついでにお前を殺す」


 アレクは腰の鞘から剣を抜いて構えた。


「は、早いな。まあ、うん。どこからでも来てい──」


「はぁっ!!」


「早ぁっ!?」


 言い終わる前に、アレクは私に攻撃する。

 こいつ、もしかしてこの機会を待ってたな。

 だがそれに負けるはずもなく、私は容易に避けてみせた。

 だがアレクは負けじと次の攻撃に。私は武器を一切持っていないので、ただ避けるだけだ。

 剣はされるがままに振り回される。縦に、横に、斜めに振るも、私に当たる気配が一切ない。

 

「ほら、頑張れよ。当たる前に日が暮れちゃうよ?」


「ふっ、はぁっ!」


 彼は一心不乱に振り続ける。

 これではまるで、盲目のようだ。


「……ねえ、ストップ。お前、もしかして実戦経験がなかったりする?」


「うるさいっ!」


 私は後ろに手を組みながら、続けて来る攻撃を簡単に躱していた。

 時には動かなかったりしてみたが、なかなか当ててくれない。


「だから待ってって。お前、その調子じゃベルを守るどころかベルに負けるんじゃない?」


「……王女様に?」


 ようやく剣を下ろしたアレク。

 私は続けて。


「うん、お前のベル王女様にね。お前の魔力量は少ないけど、少ない割に上手くやれてるんだ。剣士じゃなくて、魔法使いを目指したらどう?」


 正直言って、彼の剣の技術は最悪。

 良くいえば伸びしろがある。悪く言えば超絶素人。おそらく赤子の方が剣を扱うのが上手なくらい。


「……余計なお世話だ」


 アレクは再び剣を構え始めた。

 

「ちょっと、ま、ごめんって! 分かった、わかった。剣の使い方を教えてあげるよ、だからもうやめて!」


 もう彼の初心者攻撃をお見舞されるのはゴメンだ。

 まるで昔の自分を見ているようであり、だけどあまりにも下手すぎて本気で攻撃しそうになる。

 凄く、なんかこう、いやだ。


「……そうか。仕方ない。もう少しだったのに」


 全然もう少しじゃないけどね……。


「ま、まあ。まだまだ時間はたっぷりあるんだ。ああ、そうだ。次の街に着いたら、その人で練習してみたら?」


 私はそう提案してみて。

 だがアレクは顔を顰めて、私を睨みつけた。


「俺に、人を殺せと言うのか……?」


「戦場に出たら、それすらも邪魔だよ。本気で戦いたいのなら、まずは人の命を奪うことに抵抗が無くなるようにしなくちゃ。もしもそれが出来ないのなら、お前はベルの前から失せればいい。それだけさ」


 彼は顔を伏せ、剣を強く握りしめる。

 行き場のない怒りを拳に込め、ただひたすらに強く当たるアレク。

 まあ、私の言ってる事は適当な事なんだけどね。

 これを真に受けてしまえば、きっと将来は残虐な殺戮者となるだろう。けれど、アレクをそう育ててやるのも悪くない。

 騎士をめざしていた純朴な若者が、将来は残酷に生きてしまった。そんな物語も、読者は唆るというもの。

 

「……だが、それをしてしまえば、俺は……」

 

「殺人鬼か? まったく、お前は恐れるものが多くて困る。殺生を恐れ、死を恐れ、魔物のような未知なるものに恐れを抱く。けど、克服することも大事だぜ?」


 腕を組み、私はアレクに殺しを唆す。

 無実な人を殺してしまった時、どんな反応をするのだろうか。

 絶望してしまうのだろうか、新たな快感に侵されるだうか。どちらでも構わない。

 はやく、その反応が見たい。


「とにかく、先に進もう。ベルが待ってるよ」


「………………」


 アレクは剣を鞘に納める。

 そして黙ったまま、私の後に続いた。

 次の村に到着するまで、彼は何も発さなかった

 

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