表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/38

第29話 処刑

 そこはどこかの処刑場。

 ギロチンなるものが横に綺麗に並べられており、民衆は距離を置きながらそれらを見守っていた。


「……ティオ、オゥス!!」


「その声は、フォティ!」


 目隠しをされたオゥスは、声だけで私と判断する。

 ティオもオゥスの後ろに続き、声のする方に顔を向けていた。


「おい、お前。ティオとオゥスは関係ない! 処刑するなら私だけに──」


「彼らは以前から冒険者ギルド内、いえ、このリムダル国内を騒がせている盗賊です。同情の余地は、とうにありません」


 何故、そこまでする必要がどこにある?

 何を盗んでいたのか、どれほどの罪の重さかは分からない。けれど私と共に、この私の隣で処刑するなんて。

 とても、それは可哀想だ。

 魔族の私でも、分かること。


「……ベル、ベルはどこだ!」


 私は緑の髪の彼に問う。


「王女様なら、もうこの国を発っているでしょう。ヴォールスは魔王軍により滅ぼされ、行くあてが同盟国のパンゴズミア帝国しかありませんから」


 なんて、なんて酷い話なのだろう。

 こちらの言い分も聞かずして、私たちを殺そうとするなんて。

 仲間が、私のせいで殺される。


「──」


 だが、その仲間は人間だ。

 助ける義理なんかない。そもそも滅ぼすため来たのだから。

 けれど彼らは、私に信頼を寄せていた。

 魔族だと分かっていながら、数日しか共にしていない仲間だとしても、彼らは私たちを頼りにしていた。

 そして何よりも、私は彼らを気に入っていた。

 人間でありながら、私という魔族を信じていたから。


「……私たちは、ダンジョン内で殺された者たちのことなんか知らない。だがお前たちがどうしてもというのなら、私は容赦しない」


「何が、言いたいのですか?」


 魔力を手以外の全身に巡らせ、感覚を研ぎ澄ます。


「ティオとオゥスを、解放しろ」


「……それは、出来ないでしょう。ここだけの話、たとえ今回の事件に彼らが関与していなかったとしても、僕達としては都合が良い。なんせこちらも迷惑していましたから」


 軍服姿の青年は、振り返り私の耳元でそう言った。

 怒りは既に爆発寸前。人間相手にムキになるのは恥ずべき事だが、それ以前に私はその人間のために怒ってしまっている。

 魔族でありながら、私はいつの間にか、人間に情を持ってしまっていたのだ。


「彼らを前へ!」


 青年の一声で、私たちはギロチンの横に立たされる。

 ティオとオゥスは目隠しを外されると、横にあるギロチンを見て悲鳴をあげた。


「この者たちは、同胞である冒険者を殺し、彼らの物を盗んだ! それに加え、ヴォールス帝国の王女様をも誘拐し加担させた! よって、この者たちを、死刑に処す!」


 民衆は非難の声を上げる。

 それと同時に、喜びの目を向ける。

 私はまるで、見世物のような、そんな気がした。


「そうか。ああ、私たちは、こんなにも──」


 汚らしい、ざまあみろ。

 ひとつの死を目前としながら、民はみな、重く深く捉えていない。

 ティオやオゥスたちと、同じ種族ではないらしい。


「何か言い残すことは?」


「──魔王階席第6位、我が名はフォティノース! お前たち人間を滅ぼしにやってきた、魔族国からの使者である!!」


 続けて私はこう言い放った。


「処刑する、と言ったな? 翠の! 出来るものならやってみるがいい!!」


 昼間の明るさは、とうに消えうせた。

 雲が太陽を覆い、雷が鳴る。


「フォティ! やめろ!」


「貴様ら人間どもは、この我が処刑してやる!!」


 私は体内に巡らせた魔力を、外に一気に出す。

 魔力放出により、周りの人間や物は見えない何かに衝撃を受けた。

 その不意な衝撃により、手首の縄は一瞬緩む。その隙を狙い、私は手に魔力を込めた。


「顕現せよ! そして、殺せ! 『失意の(エクレテウ・)断頭台(ファンタズム)』!!」


 上空に現れるは、不思議な木製の扉。

 闇のオーラは扉の隙間から溢れ、内側から扉をガタガタ鳴らして開扉を試みる何者かがいた。

 そしてそれらの勢いは、増すばかりである。


「……さあ。ティオ、オゥス。君たちとはここでお別れだ。いつかまた、必ず会おう!」


 私は彼らの方を向いて、微笑みながらそう告げた。


「……ああ、そうだな! そっちも気をつけろよ!」


「感謝するぜ、フォティ!」


 ふたりはそう言うと、近くにいた兵士を足で蹴飛ばし、公開処刑のための台から飛び降りた。

 そうして当然、彼らの追っ手もいるわけで。


「現世を絶望に染め上げろ、エクレテウ! それと、彼らを逃す手助けをしてやれ」


 バン! と強く扉が開かれると、そこから亡霊たちの幾百の腕が伸びていく。

 腕だけではない。骸骨の兵士、怨霊、そしてグールなども。

 骸骨は案の定、上から落ちて骨がバラバラになってしまっていたが。まあいずれ自分で再び組み立てるだろう。

 人間どもは阿鼻叫喚。突如訪れる魔物の群れに、理解が追いついていないようだ。

 まあ理解する前に、死ぬだろうが。


「ふふふ、ふははははははははは!!」


 思わず私は笑いが溢れてしまった。

 それはなぜか。

 人間があまりにも道化すぎるからだ!


「……それで、処刑するって? 誰が、この私を殺してくれるのか!」

 

 台から見下ろす景色はまさに絶景。

 私の配下たちが、待ち望んでいたことであろう。


「あの男2人は絶対に殺すな。触れることも許さない。いいな」


 私の指示を聞きにきた亡霊たちにそう伝えると、彼女らは頷き去っていった。

 ああ、これは私が思い描いていた情景とそっくりだ。美しい。

 そして、もうほとんど役割を果たしていないこの手縄を力づくで千切り、私は制御されていない力を発揮できるようになる。


「……ふぅ。さて、と。今日の処刑は多くなりそうだな。魔力も潤っている。それならば、召喚してみても良いだろう」


 私は指先に魔力を込める。

 すると空中にそこそこの大きさの魔法陣が浮かび上がった。

 召喚魔法の魔法陣である。


「我の呼び声に応えよ。そして、この世に絶望を与えるがいい!」


 魔法陣は激しく発光しだす。

 そしてその魔法陣から召喚されたのは、コラキの大群だった。

 コラキというのは、魔物のカラスの名称のことだ。

 コラキは死体の肉を好んで食べる。特に好物なのは生き物の眼球だ。彼らは眼球を食べようと、目をクチバシで突いてくる超厄介な魔物だ。

 それに加え、コラキは炭の粒子で出来ている。故にいつでも塵となって消えることが出来たりするので、攻撃がまともに通用しないのだ。

 けれどもコラキは、太陽の光に当たると燃え尽きて死ぬ。

 そんな彼らを、私は大量に召喚する。

 カラスが飛び立っていくと思えば、彼らは人間どもの眼球を目掛けて攻撃する。

 

「……はっ。ふふふ。流石人間だな。戦いを知らず、のうのうと生きてきたのが丸わかりだ」


 混沌を眺めながら、私はただ笑っていた。

 懐かしいこの感覚、光景をしっかり体に染み込ませる。

 平和な広場が、ひとりの魔族によって崩壊させられる。

 この事実が、堪らなく興奮する。

 だが、いずれこれも制圧されてしまうだろう。だからその前に、私はこの場から姿を消す。

 それにここは、冒険者が沢山いるだろうから。私ひとりではおそらく無理だ。


「引き上げろ、エクレテウ」


 私の命令に従い、上の扉から私を迎えに来るのは包帯の巻かれた亡霊の腕。

 人を容易に握れるほどの大きさだが、握られるのは嫌いなので手のひらに乗せてもらう。

 そして彼らの混沌とした様を見ながら、エクレテウの中へと入っていく。

 さてと、ここからどうするべきか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ