第28話 大罪人たち
私たちは宝の山をなんとか持って帰る事ができた。
なかなか重かったけれど、良い旅だったは間違いない。
そしてギルドまで戻り、生存報告やらダンジョンの仕組みやらを報告すると。
「……トニー様の内容と、一致しませんね」
「はぁ?」
私たちは一斉にハテナマークを浮かべた。
トニー、という名前の人物と報告内容が違う。だから何なのだろう。そもそも誰で、今どこにいるのかすら分からないのだけれど。
「その、トニー? ってやつは何て言ってたんだ?」
ティオは問いかける。
「特別クエストのダンジョンに潜った際、アラフニの大群が襲ってきて仲間はみんな死んでしまった、と」
「……いやいや、ちょっと待って。同じじゃないの?」
受付の女性は、何か意味のわからないことを言っているようだ。
殺してしまっても構わないだろうか。
「トニーってどんなお方なの?」
「金髪で、鎧を着たB級冒険者様です」
私たちは思い返してみる。
金髪で、鎧を纏った、胡散臭い……。
「……あいつ?」
「ああ、アイツだな」
「絶対にアイツだろうな」
「あの人ね……」
私たちは顔を合わせ、渋い顔を浮かべる。
ハッキリと想起されるあの胡散臭い彼が、一体どうしたというのだろう。
特別クエストの報酬を貰うためにここに赴いたのに、問題を起こされてしまうとは。
「私たちは別行動してたんだよ。だからアラフニの襲撃に遭わずに済んだ。それどころか、私は超デカいアラフニを倒してきたんだ。それで見つけたお宝が、これ。わかったでしょ?」
みんなで手分けしてお宝をバラし、大きめの布で包んで背負って帰ってきた私たち。
帰ってくるのに3日かかったので、私たちはクタクタなのだ。イライラもしている。
ゆえに強気で応答を続け、報酬を貰おうとしているのである。
「なら逆に! 逆に何が問題なの! 言ってみろよ!」
私はバンバンと受付の机を叩き、ストレスを少しだけ物にぶつける。
「……特別クエストを、あなた達が本当に攻略したという証拠をお願いします」
「だーかーらー! この後ろの宝石だってば! 分かる? お前の目は節穴なの? 飾りなの?!」
私は大きくため息を零す。
もしも私が竜種だったならば、今のため息でこの女を焼き殺していただろう。まったく、感謝して欲しいくらいなのだが。
「まあ、フォティノー……フォティ。もういいじゃねえか」
オゥスに肩に手をポンと置かれ、冷静るよう促される。
「オゥスは黙ってて。いい? あのダンジョンは私たちが攻略したの。なら! 攻略していない証拠は? この後ろのおっもたい宝石たちは?」
「ギルドの者が昨日、亡くなった冒険者様を回収しに向かいました。ですが彼らは皆、身ぐるみを剥がされていました」
「「「絶対あいつじゃん!!」」」
私たち3人の考えは同じであったらしく、重なって発言していた。
ベルはというと、フードを深く被りながら首を横に振っていた。もう無理だとでも言いたいのだろう。
だが私は諦めない。諦めてたまるものか。
「いい? もう一度言ってやる。私たちはあいつらとは別行動だった。私の仲間が消えて、探すために私たちの方が先に進んでたの。その冒険者たちが死んでたことなんか今知ったし、興味すらないの! わかった?」
「……ですがあなた達には疑いがあります。なので、報酬は渡せません。それと、事情聴取も行いますので大人しく連行されてください」
その言葉が放たれたすぐ後、私たちの体に巻き付けられたのは縄。
それも、魔法の縄だ。
「ぐっ、なんだっ!」
「離せ! 俺らじゃねぇって!」
彼らは私たちの必死の訴えを一切聞き入れず、拘束までするという馬鹿な真似をしやがる。
そしてだんだんと、私の瞼が重くなってゆく。
「このわた……しを……なんて……おろ、か……」
その言葉を吐いたのを最後に、私は眠りにつく。
溜まった疲れも相まってか、私は抵抗もせずあっさりと熟睡してしまったらしい。
あ、でも、宝にだけは触るなよ!
♦♦♦
「うぅん……はっ! この──ああ、もう!」
目覚めるとそこは暗い牢獄。
牢獄の中にいるにも関わらず、拘束は未だ解けてはいなかった。
そのことに気づかず暴れようとするが、縄のおかげでやる気はとことん失せた。
「……誰かー? この縄を解いてくれなーい?」
大きめの声で、私は縄の解除を求めた。
黒く、汚らしいこの空間に、私の声が反響する。ただ反響するだけで、誰かが反応してくれるわけではなかったらしい。
「おーい。全員殺されたいのー?」
反応無し。
無視されるというのは、なかなか辛いものだ。
それにこの縄、なんだか魔力を使えなくしているような。
「……ベルは? ティオに、オゥスも! おーい! 彼らはどこに──」
「おい! うるさいぞ!」
突然どこからか男性の怒号が飛んできた。
これではなんだか、本当に囚人みたいだ。
「最近の魔法技術は発達してるね。私たちがいた頃と比べて、結構良くなってる。この縄とかも、魔力の流れを乱れさせてるよね。まったく、一体こんなのを誰が発明したのかなー?」
誰かと会話を誘ってみるも、返事はなし。
こんな嫌われようじゃ、もう何を言っても通じないだろう。
私は諦めて、今座っている固いベッドに横になる。
ベルたち、大丈夫だろうか。
「おや、そんな寝転んでいる余裕があるとは。流石ですね」
鉄格子の前に現れたのは、かなり背丈の高そうな青年。
緑の髪をひとつに結い、にこにこしながらやってきた。
「余裕なんてない。だからこの縄を解け」
「そう焦らなくても」
監視官に鍵を借り、彼は扉を開ける。
私は起き上がり、鋭い視線を寄越す。
「……仕方ないですね。全身は可哀想ですから」
彼はそう言うと、私を巻いていた縄を魔法で消し、代わりに手枷をつけやがった。
手枷が後ろにあるのでなかなか不便だが、まだマシだろう。
「それで、何の用? 解放してくれる気がないのなら、早く目の前から失せてくれると助かるんだけど」
「ですから、そう焦らないでください。僕はただ、貴方を迎えにきただけですから」
青年は人差し指で宙に円を描く。
すると後ろで縛っている魔法の縄が、私の手首をよりキツく絞めてきた。
「っ! ねえ、痛いんだけど」
「すぐ慣れますよ」
何を話すにしても他人事なこの男。
今すぐ首を撥ねてやりたいところだが、今は魔力を手に送ることができない。
ああ、だからよりキツく絞めるのか。私に魔法を使わせないために。
「……小癪な」
「それはどうも。さて、それでは移動するとしましょうか」
「どこに」
「さあ?」
今にも爆発しそうな怒りを、唇を噛むことでなんとか抑える。
私は殺気だけでこの男を臆させようとするも、こいつは何も気にしない素振りを見せる。
常人ならこれだけで震え上がるはずが、なぜこいつには効かない?
まあいい。他に殺せる方法はいくらでもある。
私は考えを巡らせながら、彼の後におとなしく続く。
「それで、どこに行くの」
「……貴方の罪状は、強盗殺人と誘拐。故意に数十名を殺害し、仲間と共に金品を盗んだ。それに加えて、ヴォールス帝国の王女様まで」
暗く、汚れた廊下を通れば、地上に出る階段が見える。
「……もう、お分かりなのでは?」
地上に近づけば近づくほどに、人々のざわめく声が聞こえてくる。
昼間特有の明るさに思わず目を瞑ってしまったが、またすぐ目を開く。
「貴方達の、処刑場ですよ」
深緑の結ばれた髪を後ろで揺らし、軍服姿が日光のおかげでよく映えた。
そうして完全に地上に上がれば、横一列に並べられた断頭台が。
「……私だけ、じゃない?」
不吉な予感が心臓を打つ。
そして向かいから同じく上がってきたのは。
「ティオ、オウス!」
目隠しをつけられた、私の仲間たちだった。




