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第24話 はじめてのクエスト

 ギルドに貼ってある紙の中で見つけた、奇妙な1枚。

 そこには私の部下の似顔絵と、大きな文字が描かれていた。


「べ、べべべ、ベル!! こ、これ! なんて書いてあるの?!」


「ベラ、よ。お姉ちゃん。私はベラ」


「そ、そんなのどうでも良いって! とにかく、これこれ!」


 私はピンで下げられていた紙を剥がし、見やすいようにとベルの顔の前まで持っていく。


「どれどれ……。『S級冒険者専用! 魔族討伐クエスト』 ですってよ」


 これはもしや、イウースリのピンチなのでは!

 このクエストとやらは、一体どこで受けられるのだろうか。

 イウースリが人間に殺されてしまう前に、私が守ってあげないと。


「どうやって!」


「何がよ」


「どうやってこれを受けるの!」


 私はベルを問い詰める。

 若干引きながら、ベルはこう答える。


「お姉ちゃんはまだ受けられないわ。S級、A級以前にカードを持っていないじゃない。それがどうかしたの?」


「私の部下、この子私の部下なんだよ! こんなところに貼られてたら、私の可愛い部下が討伐されちゃう!」


 どこで何の状況下に置かれているのかは一切分からない。それにエクリーポやカターラなんかよりも、何故イウースリをでかでかと描いているのか、まったくもって分からない。

 けれどひとつ分かるのは、今はただの冒険者の的だという事くらいだろう。


「あら、それは大変。でもお姉ちゃん、少し声のボリュームを落とした方が良いかもね。もしここでお姉ちゃんが魔族だとバレたら、ここにいる冒険者達の特別クエストになっちゃうわよ」

 

「わ、わかった。少し落ち着くよ。こほん。それで、どうしたらイウースリに会える?」


「知らないわよ。受付のお姉さんに聞いてみてはどう? ギルドは全ての情報を把握した上でクエストを出しているのだし」

 

 なるほど。無闇矢鱈に国じゅうを探し回るよりも、情報を集めるのが手っ取り早い手段であるらしい。それも、人間どもの方がよく知っているのだろう。気に食わない。

 するとそこに、ようやくふたりの男が戻って来た。


「よぉ、待たせたな。嬢ちゃん達」


「ダンジョンまでは転移魔法で移動するらしい。他の冒険者と一緒に転移するからしばらく待て、だってよ」


 で、また待つらしい。

 私は大きく溜息を零せば、暇つぶし程度に男たちに同じ質問してみる。


「ねえ、オゥス」

 

「なんだ?」


 オゥスという名前に応じたのは、この坊主頭だった。

 ということは、この軽装備で茶髪の男がティオだろう。

 私は話を続ける。


「このクエスト、知らない?」


 私は先刻の貼り紙を見せ、問いかける。


「んー……。あー、コイツあれだ。魔族だ。あれ、お前知らねぇの?」


「この子は知ってるけど、なんでこんな事に?」


 するとティオが割って入ってきた。


「この魔族、ヴォールス帝国に侵略した魔族だろ? もうクエストできてんのかよ! やっぱ本部は早ぇーな」


 ヴォールスに侵略した魔族?

 イウースリが?! どうしてイウースリが?

 階席のみんなはどうしたのだろう。乗っ取る話は聞いていたけど、誰になるかは知らなかったし、てっきりカターラが領主をやるのかと思っていた。

 まあいいや。これもきっと、良いことなのだろう。意外だけど、知れてよかった。

 遠くからだけど、応援しておこう。


「ヴォールス帝国はそれで、どうなったのですか?」


「嬢ちゃん、それは言わずもがなってヤツだぜ。中の状況は分かんねえが、多分魔族に乗っ取られちまってる。この国にも来なけりゃ良いんだがなぁ」


「そう、ですよね……」


 ティオは腕を組みながら答えていた。

 いやあ、ごめんね。魔族はもうこのリムダル国で酒まで飲んでるんだ。

 と、言いたいところだがやめておこう。もしかしたら昨日酔ってぽろりと言ってしまったかもしれないけれど、私は記憶が無いので大丈夫。いや、大丈夫なのかな。

 まあそれはそれとして、ここで冒険者を体験した後に王城に出向いて、ヴォールスみたいに滅ぼしてやろう、みたいな予定を頭の中で組んでみたり。

 そんなこんなで数十分、受付嬢に呼ばれて裏の部屋まで連れていかれる。転移魔法専用部屋なのだろう。地面には大きな魔法陣が。


「こんなに沢山の人が来るのね。それもひとつのダンジョンに」


「ああ。協力して開拓しろって事だろうな」


 ダンジョン攻略は初めてだ。

 入った事はあるけれど、攻略する側ではなかったから。

 これは貴重な体験になるだろう。


「では皆様、どうかお気を付けて!」


 受付の女性がそう言い放った瞬間、下の大きな魔法陣が発動した。

 感じるに、あまり上手な魔法陣ではない。魔力が少し乱れてる気がする。ずっと使用しているからだろうか、それとも製作者の魔法陣が下手なのか。


「……っ、痛っ」


 突如として、私は鋭い頭痛に襲われる。

 まるで脳を槍で貫かれたような、そんな痛み。

 私は歯を食いしばり、転移魔法の眩しい光に目を瞑る。

 そしてすぐ、痛みが治まったかと思えば土の匂いが鼻を刺激する。

 目を開ければそこは、大きな洞窟の入口だった。

 

「──みんな、聞いてくれ! このダンジョンは未開の地。ここは一致団結した方がいいと思うんだ!」


 到着してすぐ、大声を張り上げた男がいた。

 整えられた金髪に、しっかりとした装備をし、他の者とは違ったカリスマを放っていた。

 どうも胡散臭い男だが、彼は信頼されているようなので、そこそこの数の冒険者たちは異論なく彼の言葉を聞き入れていた。


「では、僕達は最後尾に位置しよう。順番に中に入ってくれ。背後は僕達に任せて欲しい。安心して進むといい!」


 その言葉を信じ、私たちはダンジョンの中へと進む。

 やがて太陽の光すら差し込まなくなったところで、背後から悲鳴が上がった。


「うわぁぁあ!」


「みんな、注意してくれ! 魔物が現れたぞ!」


 蜘蛛の魔物、通称アラフニが現れたらしい。

 魔物を倒す義理はないので、私は端の方で観戦といこう。

 熟練された訳でもない戦闘技術を観察しながら、心にある謎の違和感を消すための納得いく何かを探した。

 オゥスとティオはアラフニを頑張って倒そうとしていて、何も疑問はない。あの胡散臭い金髪冒険者も然り。だが、何か足りないような……。


「……ベル」


 ローブを纏い、徹底的に顔が分からないようにフードを深く被っている小さい女の子が見当たらない。

 隣にいるはずの、あのうるさい少女が消えていた。


「っ! ティオ、オゥス!」


 私は彼らを呼ぶ。


「なんだ! 今こっちは忙しいんだよっ!」


「ベルが……じゃなくて、ベラ消えた!」


「なんだとっ!」


「本当か?!」


 ふたりはアラフニを一旦倒すと、私の元へと駆け寄る。

 私も何が起こっているのか分からないので、まずは状況を把握しよう。


「……わかんない。とにかくベラが消えたんだよ!」


「そういえばあの嬢ちゃん、俺も見てねぇぜ」


 オゥスは記憶を掘り返しながらそう話した。

 私も何か思い出そうとするのだが、やはりいつから消えたのか分からない。


「……奥に行ってみるしか、ねぇようだぜ?」


「ああ、だな」


 そうと決まれば、私はダンジョンの奥まで駆ける。

 ふたりは私の後を追う。もう背後から胡散臭い彼の声は聞こえないくらい進んでいた。

 

 

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