表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/38

第23話 交流

 人間とは怖いものである。

 私が魔族とも知らないで、酒をグングン飲ませるんだ。


「それでぇ、私は魔王様にこう言ったんだ。『素手でやってやる』ってねぇ!」


 店内は大盛り上がり。

 いやあ、酒は気持ちいいものですな。気分も上がるし、疲れも吹っ飛んだ気がする。

 今なら何でも出来そうだ!


「よぅしお前たち! 今日はこの私、フォティノースが奢ってやる! 飲むぞー!」


「……お姉ちゃんってば」


 元気の無いベルを差し置いて、私は武勇伝を人間どもに言い聞かせた。勿論多少は盛ってあるが、真実なんて知る由もないので大丈夫。バレたところで殺せばいいし、私からしたらメリットしかない。


 と、そんなこんなで時間は過ぎ、あっという間に深夜になっていた。

 流石に眠気が限界な私は、宿がこの上の階だというのを聞いたので、そこに泊まらせてもらうことにした。

 ほとんどの食堂、酒場の上の階には宿屋が備わっているらしく、酒に潰れた後はそこで皆撃沈しているのだとか。

 私も例外ではない。ふかふかのベッドに死んだように眠る。まさに酒飲みの常識でもある行為だ。

 しかしながら、極度の頭痛により早朝に起床。二度寝すら許されない痛みに悶えながら、私は布団にただ包まるのみだった。


「あら、ふわぁ、早いわね。何してるのよ……」


 隣のベッドで寝ているベルは、体を起こし背伸びをする。

 まだ完全に開いていない瞳ながら、ベルは私の姿を見て質問してきた。


「何って……頭痛が酷いんだよ……」


「頭痛? ああ、二日酔いではなくて?」

 

 つまりお酒の飲みすぎだ、と。

 魔王階席たる私が、こんなくだらない飲み物に潰されるとは……。

 不覚、なんたる屈辱!


「うぅ、辛いよぅ……」


「あら、大丈夫かしら? それにしても、魔族も二日酔いなんかになるのね。待っていて、お水を貰ってくるから」


 そう言ってベルは部屋の扉を開け、どこかへ行ってしまった。

 魔族なのに、私魔族なのに……。


 すると数分、いや数十秒もしないうちに、ドアがノックされる音がした。

 私はそんな気分ではないので、居留守および無視をした。

 

「……あれ、いねぇのか?」


「さあな。まだ寝てんじゃねえか?」


 昨日一緒に飲んだ野郎たちの声がした。

 まあ仕方ない、これも何かの縁だ。

 私は木製のドアをゆっくり開け、だるそうな表情を作りながら男たちの前に立つ。


「よっ、フォティ! 今日ギルドで特別クエストが出るらしいが、一緒にどうだい?」

 

「オレたちのパーティに入るといいさ。あの小さい嬢ちゃんも一緒に、な。どうだい? いい案だろう?」


 クエストとは。

 なんだよそれ、人間の国に奉仕する仕事か? ならやらないぞ。

 私は大きく欠伸をし、今にも瞑ってしまいそうな目を擦る。

 興味無いから、断ってしまおう。


「悪いけど、私たち忙し──」


「おはようございます。ティオさん、オゥスさん。何かご用ですか?」


 丁度断ろうとしたその時、コップ一杯の水を手に持つ少女が私の言葉を遮った。

 というかコイツらの名前なんで知ってるの?

 どっちがティオで、どっちがオゥスか分かんないんだけど。


「おぉ、おはよーさん。嬢ちゃんも来るか? ギルドで特別クエストが出るらしくてな」


「ええ、是非! ねえ、お姉ちゃん? 私達ちょうどギルドに行こうと話をしていたんです。それにお金もあまり持ち合わせていませんし……」


 勝手に引き受けたベル。

 あの小さな紫の瞳の中に、満天の星が輝いていた。

 では私は部屋で引きこもるとしよう。


「あそ。じゃ、私は寝るから。楽しんで」


 私は扉を閉めようとする。

 するとベルが閉めようとする扉を急いで掴み、水を零しながらも私を引き留めようとする。


「おーねーがーいー。ぎーるーどーにーいーくーのーよー!」


 彼女の力は案外強く、私も壊さない程度に必死に閉めようとする。

 こいつ、片手でこんな力を出せるの?


「あー、もう! 我儘なガキめ。仕方ない。分かった! じゃあ行くよ! 朝ごはんを食べてからね!」


「やったー! と、言うことですので、ティオさんとオゥスさん達は待っていてくださいますか? そうですね……正午にここの入口で会いましょう」


「おう! じゃあまた後でなー」


 私は彼らに背を向けて、早速準備に取り掛かる。

 爆発している寝癖を整え、ローブを纏う。そしてフードを顔が分からないくらい深く被る。これで完璧だ。

 

「やったー! お姉ちゃん、ギルドよー! それに仲間もいるのだし、最高のスタートではなくて!」


 ベルはそう興奮気味に話す。

 私は興味が本当にないので、適当に相槌をしておく。

 というかふと、思い出したのだが。私たち、顔バレてない?





 正午。

 私たちは約束通り、店内の入口付近で待っていると。


「よぉ、さっきぶりだな。おいおい、そのフード取れよぉ。オレらの仲じゃねぇかよ」


 装備をしっかり備えた坊主の男はそう言った。

 けれど、隣に立つ金髪気味の男は軽装備。この差はなんだろう。弱いからだろうか。


「そうはいかないんです。ああ、それと。私達の顔や名前を、なるべく拡散しないでいただけますか?」


「お、おう。まあ、善処はするぜ。だがよ、お前ら一体何やらかしたんだよ」


 そう笑いながら言う男たち。

 所詮この者たちに知られたところでとは思うが、いつどこで見られても良いように、との事。私には必要ないが、ベルが必要大ありらしい。

 そうして雑談しながら向かう先は、ギルドという冒険者向けの役所らしい。それは今ようやく前方に見えた。

 今までの木骨造りとは打って変わって、あの建物は石やレンガなどで造られていた。

 その石積み建築は今までの街並みには似合わないからだろう。少し大きな石橋を渡った先に位置していた。

 そして元から開いてある大きな門を潜り、中に入る。


「わ、今日は人が多いわね」


「そりゃあ、滅多にない特別クエストだからな。今日のは報酬が弾むらしいぜ?」


 室内は極めて混雑しており、長蛇の列が成されていた。

 とりあえず、このふたりの男について行こう。私たちは何も分からないのだし。

 

「一旦貼り紙を見てみるか。もう終わってる可能性もあるしな」


「ああ、そうするか」


 男たちに着いていき、私たちは受付の隣に貼られている紙を見る。

 文字の読めない私は、ただ紙に描かれている絵を眺めるしか出来なかった。


「特別クエスト、特別クエスト……っと、これだな。ダンジョン攻略か。悪くねぇな」


「ダンジョン攻略? なあに? それ」


 私は坊主頭に聞いてみる。

 

「ダンジョン攻略ってのは、ダンジョンっつう洞窟を、オレら冒険者が調査しに行く、みてぇなもんだな」


 丁寧に説明してくれたおかげで、少しは解像度が上がったような、上がってないような。でもとにかく洞窟なのは確かなのだと思う。

 本音を言うとジメジメしたところはあまり好きじゃないので、なるべく帰りたい。


「それじゃあ、俺達は受付してくるから、そこら辺で待っててくれ」


「はい。ああ、けれど私達、冒険者カード持っていないわ。登録しなければなりませんよね?」


 また新しい単語だ。なんだそれは。

 冒険者カード、と言っているのだからおそらく、手帳のような物なのだろう。


「あー、いや。今回は特別クエストだから、必要ないぜ」


「そうなのね。なら、クエスト受理の手続きをお願いできるかしら?」


「おう、任せな」


 ティオとオゥスはそう言って、あの長い列に並び始めた。

 待つ時間も苦痛だが、まあいい。

 貼り紙でも見て待つとしよう。


「……ん? んー……?」


 すると私は見覚えのある顔に出会う。

 やけに上手な絵だから、嫌でもわかってしまった。


「い、いいい、イウースリ?!!!?」


 そこに描かれていたのは、魔族国で私の部下であり頼もしい人物、イウースリが謎の文字と共に貼り出されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ