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第15話 ヴォールス城戦 その2

 片足失いながらも、善戦する私。

 善戦というか、雑に魔法を撃っているだけなのだけど。

 空も飛べない人間は、私の魔法を捌くので手一杯らしい。

 それでも聖剣を持つに相応しいと神は言うわけだから、よく分からない。


「あのさあ、たしかに私の戦い方がつまらないというのはあるかもしれないけど、守るのばっかりじゃそっちの方がつまらないじゃんか。いい加減飽きてきたよ」

 

 私は片足に走る激痛に耐え、平気な顔をしながら騎士にそう言い放った。

 騎士は、まだまだやれそうだと私を見上げる。

 こいつ、私を舐めているな? 片足斬ったくらいで、調子に乗るなよ雑魚め。

 私は眉を顰めながら、また乱雑に魔法をぶつけた。


「仕方があるまい。空を飛ぶことも出来なければ、魔法を使うことも出来ない弱小剣士なもんでな。彼女のように俺も何かしら使えたら良かったのだが……っと!」


 魔法を受け流しながら、クリスは私にそう言った。

 もういい、飽きた。つまらない。

 そうだ、いいことを思いついたぞ。こいつをゼロの餌にしてやろう。

 蜘蛛は人間を食べないけれど、それが魔物となれば話は別。人間なんか大好物である。

 そうと決まれば、私は城内で戦闘を続けているであろうゼロのところまで飛んでみる。

 距離は近いようで、言うなればすぐ真下であった。


「……そこだね。ゼロ! 大口開けといて!」


 私は下にいる飼い蜘蛛にそう言うと、ゼロはこちらを見上げて言われた通りに大きな口を開けた。

 クリスを持ち運ぶなんて簡単だ。またさっきみたいに、ぶおんと投げてしまえばいい。

 空中を軽く蹴り、クリスの剣を防ぎながら腕を掴む。


「っ! 離せっ!」


 剣を持っている方の腕を掴んでしまえば、剣は振るえないだろう。そう勝利を確信しながら、骨が折れるまで強く握った。

 そして何かが潰れた感覚がした後、男は痛みに喘いだ。


「ぐぁっ!!」


 片足失った私と、片腕を折られたクリス。

 これでようやく同じ土俵だ。なに、骨なんか直ぐに治るさ。

 私はその折れた腕を掴みながら空を飛ぶ。そうして私の飼い蜘蛛ちゃんを視界に入れ、狙いを定めて。


「とぉっ!」


 なかなか重いので、思ったほどは速く投げれなかった。

 だがまあ、私のゼロは丸呑みしてくれるだろう。

 待望の瞬間だ、と私は空から優雅に見下ろしていると。


「……もらった!」


 クリスは空中で体をひねり、剣を持ち替え、そのまま突っ込んでいく。

 そのおかげで、クリスは大口開いた蜘蛛を一刀両断。聖剣の光が放たれ、光は断ち切る力の後押しとなっていた。

 光は大きな蜘蛛を真っ二つに分けた。大きな蜘蛛は倒れ、残骸はバタンと音を立てて倒れた。

 そんな中、私はただ、上から見下ろしているだけで。


「……は?」


 思っていた状況と違う。

 ゼロが噛み砕いて、ぐちゃぐちゃにして、飲み込んでくれると思ってた。

 丸呑みして、胃の毒で溶かすかと思っていた。

 私の予想は大ハズレ。

 それどころか、クリスにゼロを倒す手助けをしてしまった感じもある。

 なにそれ、なにそれなにそれ。


「……お前、私の、大事な……ゼロを……!!」


 絶望、怒り。

 私の心をそれらの感情は埋めつくした。

 許さない。絶対にぶっ殺してやる。

 あの男に、惨い方法で。


「さあ、次は貴様だ。フォティノースとやら!」


 男は私に剣先を向ける。

 これは挑発と受け取って良いものなのだろうか。

 それなのだったら、容赦はしないけれど。


「お前は私の怒りを買った。ははは! やっぱり人間は人間だ! どうしてこんな奴らが世界を支配しているんだよ! いいよ。本気で殺ってやる。後悔するんだな!!」


 自分が持つ、最大の魔力を魂に込める。

 あの技を使えば一瞬で終わってしまうが、こうなってしまった以上仕方の無いことだ。面白いだとか、言ってられないだろう。


「絶望よ、全てを呑め! 憐れな魂を導いてみせよ!!」


 私の背後に、大きな木製の扉が現れる。

 古びていて、おぞましい。昼間とは思えないほどの暗闇を纏いながら、それは佇む。


「開け、斬首の門! 我が元に現界せよ! 『失意の(エクレテウ・)断頭台(ファンタズム)』!!」


 バンッ! と勢いよく開かれた古びた扉から、無数の腕が現れる。無数の腕たちは騎士を目指して伸びていく。まるでゴム製の腕のようだ。

 包帯がぐるぐると巻かれた腕たちは、持ち主の意志に従う。クリスを捕まえてやると意気込んでいる。

 そもそも『失意の断頭台』とは、私が持っている特別な魔法だ。異空間に扉を繋ぎ、現世の人間やら動物やらを異空間に連れ去ってしまう魔法である。

 これは確かに強力なだが、残念な事に魔力消費が激しすぎる。なのであまり頻繁に使用できず、尚且つ魔力が有り余っている時にしか使用できない。


「行け、亡霊ども! 久々の食事だ。たっぷり味わえよ」

 

「こ、これは……。聖剣よ、もう少し力を貸してくれ!」


 聖剣はまたしても彼の声に応えるように、一度光を強く放った。

 聖剣を使えば魔族なんかイチコロだと思っているのだろう。残念ながら間違いではないのだが。おかげで足も全然治らないし。このお礼は私の処刑場にてしてもらおう。

 腕たちはクリスを捕まえようとするのだが、聖剣の一太刀で一瞬で浄化されていた。

 質より量だ。開かれた扉からは、倍の量の腕が飛び出してきた。

 魔力の量も限られている。これを使ったからには、今すぐ仕留めなければ。

 魔族のみんなのために、ゼロのためにも、ここで負けるわけにはいかない。


「……ぐっ! こんな、はずじゃ……」


 だがそれももう、限界だ。

 久しぶりなのもあって、魔力の調節がうまくできない。

 全身の力が、だんだんなくなっていく。視界もぼやけてきた。

 たった人間一人に、こんな、屈辱……。


「がっ……!」


 突然クリスは、聖剣を手放した。

 それにより、腕たちは彼の腕やら肩やらを掴み、異空間へと連れていく。

 

「ぐっ、離せ!」

 

 私の前まで連れてこられたクリス。

 私は何もないかのように平然とした顔で、クリスにこう言った。


「ふん、何が起こったのか知らないが、お前の負けのようだな。さあ、クリス。楽しい処刑の時間だ!」


 私の後に続くように、腕たちはクリスを持ちながら扉の中に入っていく。

 一体何故急に剣を手放したのか、全くもって見当もつかないがまあ良しとしよう。

 終わりよければすべてよし、だからね。

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