第14話 ヴォールス城戦 その1
「そーれっ!」
私は落下している男を掴み、まだ壊されていない城の屋根を目掛けて勢いよく投げ飛ばした。
男は打ちつけられるも、図太い精神力ゆえか、ボロボロながらも立ち上がっていた。
「ほほう、やるね。今ので死なないのなら、私も楽しみ甲斐がありそうかも」
宙に浮いている私と、そうでない騎士の男。どちらが有利かは明白だ。
それなのに、彼は戦いを続行しようとしている。馬鹿なのだろうか。
「ところでさ、王様はどこ? さっきから見てないんだけど」
「……っ、陛下はもう、避難された」
「へえ、そう。どこに?」
「教えるわけ、ないだろう……!」
男は聖剣を私に向ける。なんだ、やる気かよ。
「あっそ。まあいいや。お前が教えてくれなくたって、国中を破壊して回ればいつかは顔を出すでしょ」
「……そんな事、この俺がさせるものか」
どこから湧いてくる自信なのか。
輝きを放つ聖剣から目を逸らしながら、私は会話を続行した。
「あ、そうだ。私の名前、言ってなかったね。フォティノース。魔王階席6位の、魔族フォティノースだ。よろしくね、人間」
「……クリス・ロンジェットだ。だがまあ、まさか本当に魔族だったとはな……」
騎士の名はクリス。
その名前が、記憶に刻まれるような戦いができることを望むばかりだ。
「……これじゃ不公平かな。でも、魔法を使えないお前が悪いよね。仕方ないから手加減してあげる。どれくらいなら持ち堪えれそう?」
「さあな。だがまあ、お手柔らかに頼む」
私は指先に魔力を込め、クリスに向けた。
些か遠いのはあるが、絶対命中させてやるという強い意志はある。
とりあえず、まずは足からかな。
「善処するよ」
私は魔弾を放つ。
1発ずつ、丁寧に狙う。
だが避けられたうえに、魔弾を相殺された。
もっと魔力を込めて、威力を高くしてみよう。
「はぁっ!」
私はなかなか大きめの弾を放った。
それは例えるならば、林檎くらいだろう。
私はそれを、クリスに向けて放つ。
「ふっ! はぁっ!」
聖剣で弾いてきたりもして。
私は弾かれた魔弾を空中で大きく避ければ、また指先から魔弾を放つ。
ただその繰り返しなので、つまらなくなってきた。
「もーつまんない。私が直々に相手してやるよ。魔弾相手じゃお前もつまらないでしょ?」
「……いいや、魔法と戦っている方がまだマシだ」
「そんなこと言わないでよ。悲しいじゃんか」
悲しいだなんて、言ってみただけだけどね。
私は城の屋根の上に降りる。
肉弾戦に持ち込むつもりだからだ。
「かかって来いよ。素手で殺ってやる」
私は顔の前に腕を構え、戦闘態勢を執る。
するとクリスは魔力を剣に込め、それにより剣から光が増して輝きだした。
「そうか。ならその言葉に甘えよう!」
私が動く前に、クリスはもう既に消えていた。
一瞬にして間合いまで近づかれるも、クリスに振られる剣を咄嗟に避け、腹部に拳を入れた。
「ごふっ!」
勢いが強すぎて、またしてもクリスは上に飛んでいた。
力加減を気をつけないと、すぐに勝負がついてしまいかねない。気をつけなければ。
そんなことを考えるよりも、体を動かすのが先だ。私はクリスよりも若干高く飛び上がり、踵を落として地面に墜落させる。
彼はされるがままに地に落ちた。
「っぐ、貴様……なんという……」
「早く立ちな。お前はそんなもんじゃないでしょ?」
私は彼の頭を、素足でぐりぐりと踏みつけた。
するとクリスは、手に持っていた剣を振り、私の足首を斬り落とそうとする。安易に斬られてしまったが、私の足はすぐに元に戻るので大丈夫だ。
「──あれ?」
おかしい。再生速度が落ちている?
血は滴れ、体のバランスが上手く取れない。
それになんだかじんじんと熱くなってきて、痛みさえ出てきた。
「……お前、ちゃんとぶっ殺してやるよ」
クソ、盲点だった。
こいつの使っている剣は、ただの剣ではない。聖剣という、特殊な剣だ。私たち魔族にとって聖剣や神聖力というのは最大の弱点であり、言葉を聞くだけでも背筋が凍ってしまうくらいである。
そんな聖剣に足首を切断されては、治癒が遅くなるどころかしばらくは生えてこないだろう。
片足のまま戦うのは難しいだろうが、なかなか新鮮な体験だ。こんなの、そうそうないだろうからね。
私は一度距離を取り、足の治癒に意識を向けつつ体勢を立て直す。
「おぉっと。意外とふらつくな、これ」
これはバランス感覚が大事らしい。あまり体幹と鍛えてこなかったし、それが仇となっているのかもしれない。
こんなことなら、もう片足も失くしてやろうか。その方がバランスも取れるし。
いや、やっぱ痛そうだからやめよ。
「うぉわっ!」
私がバランス調整をしている間、クリスは私に突っ込んできた。
ぎりぎり躱すも、また攻撃が飛んでくる。
私は片足をうまく使いこなしながら、攻撃をひたすらに躱している。
たまに倒れそうになりながらも、体を均一な感覚に戻すために腕をバタバタと振ったりして。
待てよ、こんな事せずに飛べば良くないか?
なんて天才なのだろう私は!
そして私は浮遊魔法を使い、宙に逃げる。
「はっは! 魔族っていうのは頭が良くってな。機転が利くような戦いもできちゃうのさ!」
私は高笑いをしながら、クリスに魔弾をいくつもぶつけた。
それにしても、とんでもなく足が痛い。聖剣の力、恐るべし。




