第13話 開戦
苦戦していないどころか、余裕で城を破壊しまくる私のペット。なんだか、それはそれでつまらない。
「撃てぇ!!」
そう声のした直後、火炎魔法が蜘蛛の魔物目掛けて飛んでゆく。
「──!!」
魔物は痛みに喘ぐ。
私は魔力のする方を向き、すぐさま標的を捉えた。
「ゼロ、一旦ストップ」
止めるよう指示すると、ゼロは大人しく腕を下ろした。
人間の軍の前に立ち、殺気を放ちながら私は言葉を発した。
「こんにちは。もしかして増援?」
私はひとまず、友好的な態度をとってみた。
ゼロに攻撃を当てたことは許してないけど。
「そうだ。そこの魔物、アラフニを倒しに来た。退け」
鎧を纏った男は、威圧感のある低い声でそう私に命じた。
「お前たちが? ははっ、無理じゃないかなあ」
後ろの軍隊は魔法使いか。
それにしても、舐められたものだ。
数千の人間を用意するならまだしも、たったの数十人とは。
彼らは真っ黒のローブに、フードを深く被っているおかげで、女性が男性か区別がつけられないような格好。まあそんなことはどうでもいい。
残念だけど、この人間たちはここでおしまいのようだ。
「さあ、それはどうかな。白髪の女、貴様が魔物を王城内で放ち、遂には殺人までした凶悪な犯罪者であり、反逆罪にあたる行為である。よってそこのアラフニと共に、ここで処刑することとする!」
「へえ、そう。逃がしてはくれない?」
「駄目だ。ここで貴様の首を刎ねる」
無謀な挑戦をする彼らには同情してあげよう。
この私が可愛がって育てたゼロちゃんに、勝てるわけがないのに。
ちなみに、ゼロはオスだ。
「俺とやるか? 魔女め」
男は私に剣を向ける。
「そんなに言うんだから、楽しませてくれるんだよね?」
私は魔力を練る。
「今回の任務は、アラフニ退治と反逆者の処刑だ。総員、構え」
後ろの魔法使いたちは、持っている大きな杖に魔力を込めた。
「ゼロ、いくよ!」
「攻撃開始!!」
玉座の間にて、ゼロのデビュー戦が始まった。
「──!!」
巨大蜘蛛の咆哮が轟く。
巨大蜘蛛は、魔法使いの群れに突っ込んでゆく。
それはまるで、プログラムされた殺戮マシーンのように。
だがあちらも負けず劣らず、距離を取り体勢を立て直す者や、魔法を放ち威嚇する者もいた。
「はぁっ!!」
よそ見をしていたら、騎士の男はいつの間にやら私のすぐそばにいた。
剣が縦に振り下ろされるも、私は間一髪のところで横に回避。
そして1歩大きく後ろに下がる。
「ちょっと、邪魔しないでよ」
練っていた魔力も消えてしまったし、また1から練り直さなければ。
「ちゃんと防いでみせて、騎士さん」
私は魔弾を幾らか飛ばす。ギリギリ防ぎきれるかどうか、見ものである。
だがそれは、あまりにも容易に弾かれた。
洗練された剣さばきにより、魔弾は全て相殺されたらしい。
「……へえ、やるじゃん。いいね、そうじゃないと」
ちょこっとだけ悔しいので、もっとやってやろう。
「ふっ!」
男がこちらに突撃してくる。そして剣を振るう。
そして私が避けて、避けて、また避ける。
かすりもしない攻撃に、私はただ呆れるばかり。
「……当てなよ、何してるの? つまんないんだけど」
せっかくこちらが攻撃を封じてあげているというのに、傷ひとつ与えられないとは何事でしょうか。
必死に剣を振るう男を見ると、少し笑えてくるのは内緒。
「クリス様! 準備が整いました!」
「っ! 了解した。すぐ行く!」
魔法使いのひと声で、男は剣を下ろし、私に背を向け魔法使いの元へと戻った。
どういうことか分からないまま私は取り残され、ゼロの戦いを見るしかなくなった。
おそらく撤退するのだろうが、それにしても急すぎないかな。
「神よ、我らに力を与え給え。悪しき魔を滅し、民を救いへと導き給え──!」
男は剣を構え、そう呪文を唱える。
すると剣は、失明してしまうような輝きを放ち始める。
「……がっ! この力、もしかして……!」
突如、心臓が締め付けられるような痛みが走る。
この気配、この力、もしかしなくとも、魔を滅ぼすための魔法だろう。
背筋に走る悪寒は、私の体を硬直させる。
踏み出せ、踏み出すんだ、私。
「『浄化せし聖なる剣』!!」
男はゼロを越えてしまいそうな程の高さまで飛び上がると、剣をそのまま下に。
このままだと、ゼロが真っ二つにされてしまう。
「チッ、させるかよっ」
私は身体強化を施した脚を駆使し、瞬足で彼の元まで向かう。
男の攻撃を拾った剣で防ぐことに成功した。空中にて防いでいるため、魔力が少しずつ減っていくのを感じた。
男の攻撃威力は凄まじかったらしく、きぃん、という金属同士が擦れる音がしたすぐあと、爆風が私たちを襲った。
「はあぁぁっ!」
「ぐぅ……重、いっ……!」
何の変哲もない剣じゃ厳しいかもな、なんて思っていると、強さがどんどん増していくのを感じた。
案外強いことに驚きつつも、魔族であるこの私が負けるはずもなく。
「どおりゃぁっ!」
私は男の剣を力ずくで跳ね返す。だが直ぐに反撃がきてしまった。
彼は空中で私の腹部を蹴ってみせたのだ。こいつ、魔法使いに強化されてるな。
「ぐはぁっ!」
奥の壁まで飛ばされる私。
それを見たゼロは怒り、もっと暴れてしまった。
「……ま、ちょっとは強くなったんじゃない? アイツと比べたらまだまだ、だけどね」
私は人間に感心しつつも、すぐに立ち上がり体勢を整えた。
すぐにゼロを援護しなければと様子を伺っていたその時。
「──!!」
ゼロは、あまりの痛みに泣き叫ぶ。
足が、あの聖剣によって2本も斬られてしまったから。
「……っ。このぉっ!」
落ち着け自分、とりあえず魔力を練って落ち着くんだ。
まだチャンスはある。ゼロの足も治るはず。
だから、まだ大丈夫だ。
「……クソっ。やっぱりあれ、聖剣かよ」
1対1で戦った時、あの剣が私に触れでもしたら、致命傷を負ってしまっていたのだろうか。
ああ、よかった。私強くて。
「ふっ!」
力強く地を蹴り、聖剣を使う男の元へと飛んでいく。
そして勢いよく、剣で斬りかかった。
「はぁっ!」
「はぁぁあっ!」
押して押して、押しまくる。
だが相手も、そうはさせるかと剣で防ぎ、対抗する。
「私のゼロを傷つけたって事はさあ、死ぬ覚悟が出来てるってことだよねえ? 人間のくせにぃ!」
もういい、ムカつく。
私は剣を交えながら、魔力を外に出す準備をした。
魔力を全身で練る。そして、練った魔力を外にぶっ放す。これを魔力爆発という。魔法ではなく、魔力で爆発を起こしているから。
熱くもないし、痛くもない。とてつもない衝撃波が襲うだけ。
その衝撃波で、城の天井から上がすべて吹き飛んだ。
どごぉん! と大きな音がすると、真上には影をつくることも許さないような太陽が待ち構えていた。
「これでのびのびやれるね。さ、いくよ!」
私は剣をどこかに投げ捨てると、男の腕を掴み、上に勢いよく投げた。
さて、第2ラウンドの始まりだ。




