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第12話 街

 一夜明けて。

 私は少女が起きて喚く前に、城を出て街を探索した。

 石造りの道や、レンガと木を組み合わせた家。

 朝のパンのいい匂いにつられながら、日が登る最中の街を歩く。

 今、とてつもなく気分がいい。

 この調子が続けば、今日中にここを破壊できるだろう。

 この気分が乗れば、の話だが。


「……パンでも食べようかな」


 私は小麦のいい匂いがする方へと足を運ぶ。

 商店街はだんだんと賑わい始めて、人も多くなってゆく。


「やあ、いらっしゃい。アンタ、初めて見る顔だね」


「私がいたのは、お前たちの時代じゃないからね。それよりも、ここのいちばん美味いパンをちょうだい」


「ああ勿論。銀貨1枚だよ」


「銀貨……?」


 この世界には、物々交換という制度があるらしい。

 丸型の薄っぺらい宝石を女の店主に見せられるも、私は首を傾げるしかなかった。


「そんなのは持ってない。ああ、そうだ。かわりにこれならどうかな」


 私はポケットから魔石を取り出す。

 紫の小さな宝石だが、それなりに価値はあるはず。

 魔力切れが怒ったらいけないと思い、いくらか持ってきておいて正解だった。


「……っ! ああ、いいさ! ウチのパン、全部持っていきな!!」


「え、そんなにいらな」


「いいのさ! ソイツをくれるなら、どんなものだってあげるよ!」


 私の言葉を遮る女店主。

 興奮状態にある女に魔石を渡し、私は欲しいだけパンを貰った。

 私は長細いパンを一口かじってみる。

 中はホカホカだけど、少しパサパサしてる気がする。

 でも、これはこれでいい。魔族国になかった味だ。


 さてと。

 腹も満たした事だし、お城を襲撃しに行こうかな。

 日も顔を出して、ようやく朝を実感した。

 朝どころか、ふらふらと歩いていたらいつの間にか昼時になってしまっていたらしい。



 私は昨日も来たこのお城の正面に立つ。

 そして堂々と、門を通る。


「おい、そこの! 止まれ!」


 ローブを靡かせながら優雅に歩く私に、怒声を浴びせる者がいる。

 通り過ぎる前に止められてしまったので、私は大人しく門番の前で足を止める。


「見ない顔だが……何用でここに来た?」


「何用って、まずお城からと思っただけ。好きな物は最初に食べるタイプなんだ」


 後ろから、もう1人やってきた。

 眉をひそめながら、私を見下ろすように。


「おい、何してるんだ。子供は早く家に帰らせろ」


「……今、誰のことを子供だって?」


「誰って、お前しかいないだろう? なあ?」


 後から来た門番は、先に私に話しかけてきた門番に賛同を迫った。


「ああ、まあ、な」


 男は首肯する。


「……いいだろう。お前たちに、どちらが本当に子供かを思い知らせてあげる」


 私は指先に魔力を込め、男の頭に狙いを定める。

 そして、練った魔力を的確に放った。


「ぐぁっ!」


 私を子供だと言った男に、命中させた。

 鎧など、容易に貫通できた。


「ひ、ひぃっ! お前、なんてこと──」


 片方も、殺してあげた。

 もう邪魔はいないようだし、お城の中へと入ろう。

 私は大きな扉を押し開けて、中へと足を踏み入れた。


「おい! 止まれ!」


 またしても足止めをくらった。

 剣をこちらに向け、数人が目の前に立ち塞がった。

 

「やめてよ、そんなに酷いことしなくてもいいじゃんか」


「何が酷いの? お姉ちゃん」


 中央の階段からゆっくりと降りてきたのは、昨日の少女だった。

 少女は手すりに体重をかけ、身を乗り出して私を見る。

 

「……で、私はなんにもしてないんだから、剣くらい下ろしてもよくない? ね、私と寝たの忘れたの?」


 私は少女に問いかける。


「ね、ねねねね、寝てないわよ! いや、たしかに寝たかもだけど……もう! 連れて行って!」


 少女は顔を赤らめて、鎧を被った騎士に命令した。

 すると私は腕を捕まれ、抵抗できないようにと手首に縄を巻き付けられた。


「うわ、ちょっと、痛いのはやめてよ」


「大人しくしろ! 王女様、この者を地下牢まで連れていきます」


「……いえ、お父様に見せてあげるのがいいと思うわ。そうしたらあなたたち、昇格できるかもね」


 こんな状況で、よくもまあそんな事が言えるな、と魔族ながら思ってしまった。

 だが騎士たちは、少女の言葉にまんまとつられてしまう。


「……こいつを陛下に見せてやろう!」


 私は担がれて、どこかに連れて行かれる。

 ちょうどいい、まずは王様から殺してやろう。

 暴れるのは、その後からだ。




「陛下! 兵を殺し、王城に侵入した重罪人を捕らえました!」


 私を雑に床に投げ、腹から声を出す騎士。

 絶対お前から殺す。


「……ふむ。それで、言い訳はあるか?」


 小太りな王様は、豪華な椅子に座りながら私に問いかける。


「言い訳? ないよそんなの。というか、それを聞きたいのは私の方なんだけど」


 私のローブの内ポケットから出て、腕を伝って手首まで移動するゼロ。8本の足が皮膚を渡るのはくすぐったいが、我慢しよう。


「なんだと? 話が通じない狂人だったか。もういい、明日処刑しよう。以上だ、下がれ」


 王様は、つまらなさそうにそう語る。


「危機感がないね、王様。この私を前にして、そんな態度を取れるのは褒めるべきことだね」

 

「ほう? では、名前を聞いておこう」


「……フォティノースという魔族はご存知?」


 縛る縄が解け、私は手首をプラプラと前後に動かす。

 

「フォティノース? あの魔族のか?」


「ああ、そうだよ。知ってくれているなんて、嬉しいな」


 私は立ち上がり、驚きのあまり声も発せていない騎士たちを見てやる。

 

「……貴様がその本人とでも言いたいのか?」


「ご名答。私は魔王階席6位、フォティノースだ!!」


 かっこよく自己紹介が決まったところで、破壊開始といこう。


「その魔族を殺せ! 今すぐ!」


 突進してくる人間を前に、私が何もしないのはなぜか。

 そう、それは──


「ぐはぁっ!」


 愛するペットである、ゼロちゃんが殺してくれるからである!

 ゼロとは、私のペットの名前である。

 私のペットは蜘蛛の魔物で、普通の蜘蛛とは違う。魔に堕ちた動物は別の名称で呼ばれており、蜘蛛の魔物はアラフニと呼ばれている。

 アラフニの能力は糸を出すだけではなく、大きくなったり小さくなったりできる。最高で高さ30mの高さにもなる事が出来るとか。とりあえずとても大きい、とだけ。

 そんな子が今、城内にて暴れている。


「陛下を守れ! 早くアラフニを殺すんだ!!」


 必死になって剣を振る人間を、前足でぶぉんと払う。

 そんな中、私はゼロの邪魔にならないように空中に移動した。

 普段は豚くらいの大きさになって甘えてくるくせに、戦闘時はものすごい大きさで戦うゼロにギャップ萌えとやらをしている私。彼は自慢のペットすぎるよ。


「うぁぁ! 誰か助け──」


 人間の情けない姿を笑いながら見ていると、奥から魔力を感じた。

 こちらに向かってきているらしく、どんどん魔力が分かりやすくなってきた。


「……まあいいや。ゼロー! 頑張れー!」

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