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第11話 睡眠


「はい、ぼーん!」


 爆破魔法、これも爆破魔法、あっちも。


「きゃぁぁぁ! 助け──」


 はいそこ、騒がない。


「いやあ、夜だと目立たなくていいね。あ、そうだ。あんまり家は壊さないようにしなくちゃいけないんだった」


 人間たちの家に、変なお宝がある可能性が無きにしも非ずということ。気をつけてはいるんだけど、もう全焼しちゃってる家もあるし、この村に期待しない方がいいだろう。


「……ま、いっか。次から気を付けよう」


 もう爆発させるものがなくなったところで、次の町に移動しよう。

 移動手段が徒歩か飛行しかないのが難点だ。馬車か何かがあればいいのにな。


「いいや。人間界の自然、好きだし」


 人間は嫌い。だけど、彼らの織り成す営みは好き。それよりも、手の加えられていない自然を感じるのはもっと好きだ。歴史を刻んだ木々や、何千年と動じない岩。それらに触れて、膨大な時間を感じるのが好きなのだ。

 何度も言うけど、人間は嫌い。変な進化を遂げた挙句、上等生物である魔族に歯向かってくるのだから。図々しいにも程があると思うけど。

 とりあえず歩く。目的地はないけど、次の町が見えるまで、ゆっくりと歩いていこう。

 太陽が照りつける中、燃え盛る家々と真っ黒になった死体を背景にして、私は気ままに歩いた。

 

♦♦♦



 いくらか町を同じようにした後、かなりの都市にたどり着いた。

 大きな門に囲われていて、城らしき建物は上に高く伸びている。少し離れた位置からも見ることができるのは、目印としてはいい仕事をしている。

 私はその都市を見ながらひと眠り。自然に囲まれながら、人々の営みの結晶を見て、爽やかな風に当たる。

 そんな時間を過ごし、軽い眠りから覚めた夕刻。

 木にもたれかかっていた上半身はなんともないが、なんとも脚に違和感がある。荷物はあまりないし、どうせゼロが甘えているだけか、木が倒れてきたのだろうと何も考えていなかったが、どうにも気になる。なので視線を下ろして、太ももに目をやる。


「ふぁぁ……」


 艶のある黒髪、壊れそうな小さな体、上質な服装。

 なんだこれ、どういうことだよ。

 何故私は、幼い女の子を膝枕なんかしているのだ。

 よし、これは夢だ。ただの、悪い、夢。


「……ふわぁっ、もうこんな時間……?」


 平然と起き上がる少女。

 ここをベッドの上だとでも勘違いしているのだろう。

 今からでも殺してしまおうとも考えたが、彼女は子供だ。

 はてさて、どうすべきか。


「……誰?」


 私は寝起きの幼子に聞いてみる。


「誰でもいいじゃない、そんなの。寝起きなの、静かにしてちょうだいな」


 むか。

 なんて酷い態度の餓鬼なんだ。やっぱり今すぐここで殺してしまおう。そうしよう。それが私のためであり、魔族のためである。


「死にたいの? お前」


 少女は言う。


「なんで? 嫌よ。どうして死ななくちゃならないの?」


 眼を手の甲でこすりながら、あしらうような態度を取る少女。

 もういい。むかつくので、殺してしまうことにした。

 指先に魔力を込め、ゆっくりと練る。

 どうせなら、精度の高い魔弾で殺してやろうと思うからだ。


「最後に聞いておいてあげる。なんでこんな命知らずなことをしたの?」


 少女は答えた。


「んー? だってあなた、気持ちよさそうに寝ていたもの。私もなんだか眠くなって、気がついたらあなたと一緒に寝ていたってだけよ」


 なんとも意外な返答に、集中力が切れてしまった。

 練っていた魔力が自然と体内に戻る。

 

「……意味わかんない。お前、馬鹿すぎない?」


「どうしてそうなるのよ! というか、こんなところで寝ていたってことは、もしかしてお姉ちゃん、お家ないの?」


 何だこの小娘、急に私に喧嘩を売り始めたぞ。

 乗らないのが大人というやつだが、こういう生意気な奴には社会の恐ろしさを知らせなければならない。いや、社会というよりも、魔族の恐ろしさを教えてやろう。


「よく言ったね、クソガキ。私は旅の途中なのさ。か弱い人間と遊びながら、何となくでここにたどり着いただけ」


 私は素人でも分かるような殺気を放ちながら、続けてこうも言ってやった。


「どうやって遊んでたか、教えてあげようか? お前の体で、ね」


 渾身の台詞が入ったところで、私は魔力を練り始める。

 先程失敗してしまったので、リベンジというやつだ。


「……ふぅん? お姉ちゃん、旅をしてるんだ。じゃあさ、私のお城に泊まっていく? どうせ行く宿なんて、今探したところでないわよ?」


 そういえば、もう日が沈みそうだということを忘れていた。

 仮眠は取ったし、魔力も充分回復した。なので今からでもあの都市を破壊してもいいのだけれど。


「……いいの? お前の家、どうせ小さいだろうけど。でも、行ってあげないこともないよ」


 私はそう返事をした。

 人間の営みを観察してやろうと思った。


「本当?! やったあ! 嬉しいわ! やっと楽しそうなお客様がいらっしゃった! なら早速行きましょう! ついてきてちょうだいな!」


 少女は立ち上がり、服に付いた砂やら草やらを払う。

 なんとも可愛らしいワンピースを着飾った少女は、あの大きな城を目指して森を駆けた。

 早くしろと急かされるものの、私は自分のペースでゆっくりと歩いた。


 そうして少しの時間歩き、なんやかんやあって少女の家に辿り着いた。

 家、というよりも、城だ。あの目印にしていた、大きくて高いだけの城だった。


「……これ、お前の家なの?」


「そうよ! あれ、言わなかったっけ? ふふん、私はこの国の王女様なのよ! もちろん、ひれ伏すことを許すわ!」


 なんだ、そうだったのか。

 それならそうと言ってくれれば、さっき殺してやったのに。過去の私は判断ミスをしたらしい。


「……で? 早く中に入ろうよ」


「そんなに焦らないで。急な来客は本当はいけないの。だから、裏口から入りましょう。衛兵さんに見つからないように、そーっとついてくるのよ!」


 人間のためにコソコソなんて動き回りたくない。

 なので私は、魔法で解決してやることにした。


「透明になれえっ」

 

 透明になる魔法を使い、私は少女の後に続いた。

 声は聞こえてしまうので、静かにいかなければ。



 そうしてようやく少女の部屋に到着した。

 城の中は、魔王城よりも明るくて華やかに飾られていた。

 少女の部屋も、暗黒を許さないほどの明るさで、失明するところだった。


「今日はここで寝るといいわ。というか、もう透明じゃなくてもいいわ。はやく姿を見せてくれないかしら?」


 私は言われた通り、透明化魔法を解除した。


「……それで、お前はどこで寝るの? 私があのベッドで寝たら、場所がなくなっちゃうよ?」


「ふふっ、何言ってるの? お姉ちゃん。今日は一緒に寝るのよ?」


 あれ、もしかして私、めんどくさい奴に着いてきたのかも?

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