表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/38

第10話 初めての


 魔王城を出発してから、私は焼け焦げた町に来た。最後に様子を見たかったからである。


「……フォティノース様? ですか?」


 この前、宿を勧めてくれたひとだ。よかった、生きてたんだ。


「どうも。無事でよかった。他のみんなは?」


「はい、無事の者も居ます。ですが残念ながら殺された者も……」


 怒りと悲しみに溢れた彼の感情を、私は簡単に察した。

 なら、こんなところで世間話なんてしてる場合では無い。


「ねえ、あなたの名前を教えてくれる?」


「私の名前、ですか? あ、アナクーフィシです。ですがこんな下民の名を覚えるなど、無駄でしかないでしょう……」


「いい名前だね。アナクーフィシ。うん。素敵な名前だ」


 私は彼に握手を求めた。アナクーフィシは戸惑いつつも、私の手を握ってくれた。

 彼のためにも、みんなのためにも、頑張らなければ。きっとこの出来事は、何年経っても忘れないだろう。

 なぜならこれは、私が覚悟を決めた瞬間だから。


♦♦♦


 飛行魔法というのはあまりにも楽であり、あっという間に魔王城が見えなくなるどころか、魔族国内から出る事ができた。それは寂しいような、楽しみなような、複雑な気持ちだった。


 魔族国には、陽の光がない。真っ暗で、星がまたたき、月が輝くだけ。その光景が、私は大好きで神秘的で、手離したくない風景であった。けれども今、私が見ているのは


「……太陽、だ」


 私の瞳に映る景色は、綺麗な草原と、朝を知らせる太陽。カターラの話は本当だったのだ。思わず飛ぶのをやめて、草原を足で感じてみたいと思った。靴は履いているので、それをそれを脱いでみたり。地に足つけて、私は自然を体感する。しばらく地下に居たのだし、こうやって大好きな自然に触れ合えるのは嬉しいことなのだ。魔族国の景色とはまた違うが、これも手放すのは惜しい景色である。

 この調子で、人間が居るところまで行こう。折角だし、このままで。




 歩き始めて、幾らか時間が過ぎて行った。顔を少ししか出していなかったはずの太陽は、もう私の真上に来てしまっていた。

 そして私は、ようやく人間に会えた。人間の村、旅に出てから初めての村だ。さてと、アサナシアの


「おや? 朝早くに見知らぬ人だ。旅人さんかな?」


 後ろから男の老人の声がした。私がせっかくいい気分になっている所を妨げるとは、なかなかに度胸がある人間だ。


「黙れ。年若い人間はどこ?」


 私は振り返るまでもなく、男に向かってそう問いかけた。


「な、なんだ? お嬢さん、もしかしてエルフかい?」


「発言を許可した覚えは無い。エルフでもないし、人間でもない。なんだと思う? おじいちゃん」


 話しづらいので振り返り、指先に魔力を込めながら老人に向ける。人差し指の先には、魔力が込められた証としてぴかりと光っている。

 彼個人に恨みはないけれど、人間みな平等。殺してあげなきゃ可哀想だ。それに、旅の中での殺人第1号ということは、名誉あることなので。


「ひ、ひぃ! 今日は、孫の誕生日なんじゃ! お願いだから、命だけは、命だけは助けてくれ!」


 私は魔力弾を放つ。指先に溜めていた魔力はもう、老人の心臓に向かって飛ばされていた。


「が、はっ……!」


 吐血しながら倒れる老人を、私はただ眺めるだけ。


「あ、あ、いやぁぁぁぁぁぁあ!」


 その現場を目撃した若い女性は、甲高い悲鳴をあげる。そしてその悲鳴を聞いた村人がざわざわとし、何事かと様子を見に来た人たちも悲鳴をあげ、と。これこそ地獄絵図である。人々の阿鼻叫喚を聞くために旅を始めた訳では無いのだけど。


「ゼロ、まだダメ。今はまだその時じゃない。君にはもっと、いい舞台を用意してあげるから」


 私は連れてきたペットにそう語り掛ける。今はローブのポケットに隠れているのだが、そのうち晴れ舞台を用意してあげるつもりだ。いつになるかは分からないが。


「おじい、ちゃん? おじいちゃん、おじいちゃん!!」


 女の子は、先程撃ち殺した老人の元に駆け寄り、泣き叫ぶ。血まみれの服に、小さな手を乗せ、懸命に呼びかけ、体を揺すって起こそうとしている。


「それはもう死んでるよ。お前も死にたくないなら、彼らみたいに逃げたらどう?」


 彼ら、というのは、逃げ惑う村人たちのことを指している。さすがにそろそろ鼓膜が破れてしまいそうだ。静けさが恋しい。


「……嫌だ。どうして、どうしてこんな事するの!」


「どうしてって、分からない?」


 女の子は大粒の涙を流し、震えながら私の答えを待つ。先程と同じように指で銃を表し、女の子のこめかみに指を突きつける。身長が小さいので、わざわざ屈んであげながら。


「君たちに、同じことをされたんだよ」

 

 魔力を練り、放とうとする。

 が、それはやめておいた。なんてったって子供だもの。どんな種族であれ、子どもは見逃さねばならない。


「早く逃げな。友達も連れて、遠くへ」


 私は仕方なく、逃げる時間を与えてあげた。

 立ち上がり、私は逃げ惑う大人たちを次々に殺していく。指先に魔力を込め、放つ、込めては放つの繰り返しである。


「こうも一方的だと、ちょっとつまらないかも」


 そうだ。魔物を召喚してみてはどうだろう。私は召喚術を授かったのだし、それを今見せてやる。ふふん、いい考えだろう。


「……あー、太陽。そっか、ここは人間界なのか」


 私は太陽を直視する。眩しすぎる陽の光に、私の瞳が謎の刺激を受ける。そのおかげで失明、なんてことは起こらないので別に良いのだけど。

 太陽の光は、魔物を殺す。なので魔物は夜か日陰でしか生存できない。なのでここで魔物を召喚したところで、人1人殺せず死んでしまうだろう。どうしたものか。


「まあ、うーん。いっか。ぼーん!」


 考えた結果、私は家々に火をつける。指先に魔力を込め、火の形を生成する。よく狙って、ぽんと放つ。魔力弾と何ら変わらない。

 悲鳴はただの背景。バックミュージックであり、それ以上でもそれ以下でもない。


「こんな昼間からごめんねえ。じゃあ、ばいばーい」


 もう用済みだ。放置すれば、いつの間にか滅びているだろうから。終わりが目の前にある物に、時間をかけていられないので。

 次の町は、抵抗してくれるといいなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ