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ワンコな婚約者は今日も私にだけ懐く

作者: 下菊みこと

「ねえ、貴方。どうして泣いているの?」


「お父様が、僕をこの家の女の子の婿にするって言うんだ」


「…嫌なの?」


「んーと、んと、女の子が嫌なんじゃないんだ。まだ会ったこともないから、よくわからないし。ただ…今日、その子の誕生日なんだ。なんか…」


「誕生日プレゼントとして、貢がれるみたいな気がするのね」


彼は頷く。私は彼に理解を示した。


「そうよね。モノ扱いされたら誰だって嫌だわ。だから、パーティーを抜け出してこんなところで泣いていたのね」


「うん…」


「大人達は貴方を叱るだろうけれど、私は貴方はむしろよく頑張ったと思うわ」


「え?」


「大人への抵抗。そうだったのよね?でも、こんなところで癇癪を起こすわけにいかなかったのよね。うん、よく我慢して耐えたわ。偉い」


私は彼の頭を撫でる。彼はそんな私に対して、少し安心した様子。そしてその瞳には、私に対する好意が見て取れた。


「…もし、結婚するなら。君みたいな、優しい人がいいな」


「そう?なら好都合ね」


「え?」


「私はサラ。今日から貴方の婚約者になる公爵家の娘よ」


私の突然の告白に、一瞬彼は戸惑ったようだった。しかし、その直後嬉しそうに笑った。


「君が…サラが僕の婚約者!?わあ、嬉しいな!」


「あら、単純なのね」


「だって、君とても優しくて綺麗なんだもの!」


「貴方だって、とても素敵だわ。ルックスもそうだけれど、嫌なことがあっても私の誕生日パーティーを壊さないよう色々考えてくれたみたいで嬉しかった。私が優しいのは、貴方が優しいからよ」


「そ、そうかなぁ。えへへ。あ、親から聞いているなら知ってると思うけど…僕はノエ。辺境伯家の次男だよ。君に婿入りする予定だね!よろしくね」


どちらからともなく手を差し伸べたノエと私は、握手と抱擁を交わした。

















「ノエ、貴方また遊びに来たの?」


「だって、サラに会いたくて」


それ以降、彼は私に毎日のように会いに来るようになった。


彼は、他の子供と比べて成長が早かった。勉強は少し教えればすぐ覚えるし、体格も子供にしてはそれなり。体術や剣術の稽古も得意だった。


だからこそ、私の婿に選ばれたのだから。


だから、私のところに遊びに来る分には誰かに叱られるということはない。すでに優秀なのだから。


むしろ、私と仲良く遊ぶノエは大人達から褒められるくらいだ。


「まあ、私も暇だからいいけれど」


「ふふ、でしょう?僕もサラも、しんどうだもんね」


「神童、ね…」


私も、非常に優秀だと思われてしまっている。実際はただのチート能力なのだけど。


公爵家の次期後継者でもある私は色々と教え込まれていて、知識の面では大人顔負けの能力を持つ。


身体を動かすこともまあまあ得意で、ダンスは人一倍上手い。


特に家庭教師も教えることがなく、暇すぎて楽器の演奏や絵を描くこと、刺繍や詩や料理などにも手を出すが、何をやってもすぐに大人に追いついてしまうのだ。


「おーい、サラ」


前世の記憶で知識チートがある上に、この体は最後に立ちはだかる悪役令嬢としてのチート能力なのかどんな分野においても学習スピードがすごく早い。たしかに、神童と呼ばれても仕方がないレベルだ。


そんなことを考えて、でも口には出さない私。私は、テンプレよろしく前世の記憶を引き継いだ悪役令嬢だ。前世は普通のOLだったが、事故に遭い気付いた時には生まれ変わっていた。


私は、このままだと将来ノエに断罪される。このファンタジー世界はよく読んでいた恋愛モノの小説の世界と似ている。…私は、悪役令嬢に転生してしまった。やがて私は、貴族の子女の通う学園に入学する。そして、ヒロインを虐めて…。


「サーラー?」


私は、自らが破滅する未来を考えて気分が悪くなる。


ヒロインと共に私に向かい合うノエに断罪されて、実はヒロインが聖女だったこともそこで明かされる。私は修道院に送られて、その送りの馬車が事故に遭い生死不明の行方不明となる。家族は、そんな私の分まで責任を負うことになる。


「…うーん、サラ、そろそろ構ってくれないかな?」


私は、前世の両親はもちろん恋しいが今世の両親も愛している。


自分のために両親が肩身の狭い思いをするなど、私は許せない。


回避する方法として思いつくのは、そもそも貴族学園に行かないこと。なにかと理由をつけて、貴族学園から離れる必要がある。


なにか、出来ることは…。


そこで、私はノエに呼ばれたのに気付く。


「サラ、大丈夫?また考え事?」


「あ…ええ、大丈夫よ」


「そう…?俺が付いてるから、大丈夫だよ」


ノエに微笑まれて、私は少しだけ気分が落ち着いた。


「ええ。貴方とならきっと大丈夫ね」


「そうだよ!元気出して!」


そうして今日も、神童と呼ばれる私達は戯れ合う。私達の仲睦まじい様子に、周りは微笑ましげに見守ってくれている。
















やがて、ノエと私は貴族学園に入学する年齢になった。


だが、私はノエに宣言する。


「え?貴族学園ではなく、魔法学園に行くの?」


「ええ。今まで出来る限り色々なことを身につけてきたつもり。貴族学園で教わるレベルの学習は終わったわ。でも、そんな中で魔法だけはまだまだ未熟だと思うの。だから魔法学園の方が得るものは大きいわ」


なお、私は色々なものに手を出して学んできた中で魔法だけは本格的には学ばなかった。その理由は当然魔法学園に入学するため。出来すぎてしまうと、逆に入学出来ない可能性もあるから。飛び級してしまい、そのまま宮廷魔術師にされることもある。


貴族学園も箔がつくが、魔法学園も卒業できたらそれなりのステータスになる。


両親にも相談したが、特に反対されることはなかった。


「でも、魔法学園には入学試験もあるよ?」


「ええ、貴族学園と違って魔法学園は入学するのが大変だと聞いたわ。でも、一応魔法学園に入れるだけの特訓はしてあるの。本格的には、やってないけれど。魔法学園の入学試験なら、このくらいで十分よ」


「ふーん…一緒に通うの、楽しみにしてたのに」


「ふふ、ごめんあそばせ」


ノエは残念そうな様子だったが、サラの望みを邪魔できないと受け入れた。


もしかしたら、ノエはヒロインと学園内で恋に落ちるかもしれない。そうなった場合、私はノエの幸せのためにも応援してあげたい。


だから、物理的に距離を置いてノエの好きにさせてあげたい。多分、目の前で浮気されたら流石に辛いから…。


私は、ノエの幸せを願う。婚約したあの日から今日に至るまで、すごく仲良くしてくれたノエ。そんな人だから、大切で愛おしくて、傷つけたくなかった。いつか、ヒロインと結ばれるならば。大人しく身を引くつもりでいる。


















私達がそれぞれ、貴族学園と魔法学園に入ってから数ヶ月。


ある日ノエが言った。


「…貴族学園でさ、聖女候補である男爵令嬢がなんだか纏わり付いてくるんだ」


「纏わり付いてくる?」


「そう。婚約者がいるって言ってもアピールしてきて、いい加減しつこい」


あら、靡かないとは予想外だ。


「貴方はその子が嫌いなの?」


「んー…正直、好きじゃないな」


「そう…」


まあ、それならそれでいい。いいのだが、ヒロインが可哀想な気がする。


「その子、聖女候補なんでしょう?いいの?」


「僕はサラがいい」


真っ直ぐに見つめられて、私はなんだかむず痒い気持ちになる。


「そ、そう?それならいいけど」


「うん。ずっとそばにいてね」


「貴方が心からそう望むなら、いいわよ」


私の答えに、ノエは満足そうに笑った。














「それで、用件は?」


「貴族学園に転入してください!」


ある日、聖女候補で男爵令嬢のクロエ…つまりはヒロインに魔法学園の帰りに出会ってしまった。帰りの馬車を特定して、待ち伏せされていたらしい。


「どうして?」


「貴女がいないから、ノエ様がなかなか靡いてくれないんです!私はストーリーを進めるため、貴女に虐められないといけないんです!」


なるほど、この子も転生者か。


「自ら敵地に飛び込むような真似、するわけないでしょう」


「私はヒロインなんですよ!?貴女は…言ってもわからないとは思うけど、悪役令嬢なんです!」


いや、私も転生者だからわかるよ、うん。


「国のためにって、毎日お祈りさせられて…治癒もして、加護も与えて。せめて、好きな人と一緒になるくらいは良いじゃないですか!」


まあ、それは可哀想だけど。


「…でも、私が悪役扱いされたら家族にまで迷惑がかかるわ。よって無理」


「もう!この分からず屋!」


彼女はみっともなく喚く。まあねえ…良いようにこき使われて、惨めになる気持ちはわかるけど。


「…うーん。じゃあ、ノエがちょうど貴女の後ろにいるしどうしたいか聞いてみましょうか」


「え?」


彼女が後ろを振り返ると、怒りの形相になったノエ。


「…あのさ、付き纏うのやめてって言ったよね?どうしてそれで、僕の愛する婚約者に喧嘩売ってるの?」


「えっと、あの…」


「しかも悪役だのなんだのと訳の分からないことを言って、サラを貶すなんて」


ああ、ノエが激おこだ。


「そんなに僕を怒らせたいの?」


もう怒ってる。


「…ご、ごめんなさい!」


ノエの迫力に負けて、クロエは逃げ帰った。


「ごめんね、サラ。怖かったでしょう?」


「ええ、まあ」


貴方の怒った顔が怖かったです。


「でもね、サラ」


「なに?」


「俺がサラに一途だって、伝わった?」


思わぬ質問に、一瞬間を置いて笑ってしまった。


「そんなこと聞く?」


「なんだか今まで、伝わってなかった気がして」


それに関しては大正解。ヒロインに靡くと思っていた。


でも、ノエは私を尊重してくれた。優先してくれた。私に一途でいてくれた。ヒロインも撃退してくれた。


…この調子なら、素直になっても大丈夫かな。


「伝わったわ。だから一つご褒美をあげる」


私の言葉に、首を傾げる彼。その頬に、口付けをした。


「…え!?」


「好きよ、愛してるわ」


「あ、ありがとう…!初めてのほっぺチュー…すっごく嬉しい!僕も愛してる!」


こうして私達は、婚約者兼恋人同士になった。


その後、彼が気付いた頃にはクロエは他の貴公子にちょっかいを出して強制退学させられたらしい。


ちょっとだけざまぁみろと思ったのは内緒だ。人の婚約者に手を出すからこうなる。


「ノエ、結婚式は卒業後すぐにしましょう。はやく結婚したいわ」


「僕も同じこと考えてた!」


ワンコな彼氏が今日も可愛い。私はそれだけで幸せだ。

【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話


という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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