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帰り道
制服は、いつ返しにくればいいのかな。
自転車のスタンドを上げて、きみがふとこぼした言葉。
そんなたわいない言葉は覚えてるのに、
他には何を話したのか覚えていない。
バイト先のコンビニから、いつもの曲がり角までの数分間。
記憶に残らないくらい、なんでもないことばかり話していたのだろう。
僕にはたくさん話したいことがあって、
きみに伝えておきたい気持ちがあったのに。
自転車を押しながら歩くきみは、
いつもと変わらぬ様子で楽しそうに笑っていた。
少しでもそこに寂しさを感じたなら、
勇気をだして告白できていたのだろうか。
後ろ姿のきみが振り向いてくれたなら、
曲がり角の向こうまで一緒に行けたのだろうか。
妹の同級生だったきみと、お姉さんと同じ学年だった僕。
抱えている過去の意味を理解できたのに、
僕もそうだったと告げることができなかった。
世間話でもするかのようなふりをして、
きっと勇気をだして言ってくれたのに。
臆病な僕は、泣いているきみに声をかけることすらできなかった。
あの日の帰り道は、いまもずっと続いている。