森の精霊
彼は、木漏れ日に照らされていた。
ふと目を覚ますと、そこは森だった。
彼は思い出した。
この森で彷徨う者の前に現れ、数千年の命を与える代わりに願いを聞いて欲しいという存在ーー
森の精霊に、彼は出会ったのだ。
彼は精霊に願いを聞いた。精霊は言った。
「この森を護り続けたい、樹々を減らしたくない」
流した涙は、陽射しのように優しく輝いていた。
彼は受け入れた。
精霊は目を輝かせ、彼の手を引き森の奥へと進んだ。
どのくらい経っただろう。
精霊は歩みを止めた。
数千年の命がやっと手に入るのだと、彼は胸を躍らせた。自分が何をするのかなんて、どうでもよかった。
「目を閉じて」
そう言った精霊は、彼に口づけをした。
そこで、彼は眠りに落ちた。
迂闊だった。精霊の願いは叶ってしまった。
数千年の命を手に入れた彼は、ただ次の訪問者を見下ろし、涙を注ぐことしか出来なかった。
基本的には読んでくださった方の感性に委ねたいところですが、一応私の想定みたいなやつを載せておきます。
まず、この文章は主人公「彼」の過去回想から始まります。第一段落で目を覚ましたのが現在で、続く段落より回想に入ります。
森の精霊と出会い、交換条件を聞き入れた彼は、精霊と共に森の奥へ進みます。
しばらく歩いた後、精霊がやっと行動を起こしたことに歓喜する彼。言われたまま目を瞑ると精霊がキスをしてきて彼は眠りについてしまう。
ここで過去回想から現在へと場面が移ります。先述した第一段落へ飛び、彼は眠りから目を覚まします。
そして続く段落で彼はいきなり後悔していることが窺えます。精霊の願いが叶って"しまった"、と。
しかし主人公は目的通り数千年の命を手にしています。
そして涙を流した、という風に文章が終わっていきます。
ここから伏線並びに私の想定について述べていきます。
最終段落『数千年の命』について、これは大樹の所謂「樹齢」にあたるものであり、彼は木の精霊により樹木へと姿を変えられてしまったことを指します。木になってしまったため、彼は動くことや話すことなどが一切出来なくなってしまいます。
では何故精霊は彼を樹木にしてしまったのか。それは精霊の願いである『森を護る、木を減らさない』にあります。森へ訪れた人々を木々に変えていくことで森を繁らせていこう、というのが木の精霊の本当の思惑だったのです。
そのため、精霊の思惑に気がついた主人公は後悔することとなったのでした。
まずここまでが一点目の伏線、解釈的なものとなります。
続いて少し深めな点について。
この文章において、同じものを違う言葉で表現しているものがあります。
『木漏れ日』と『涙』です。
精霊が願いを述べた時に流した涙。『陽射しのように優しい』という表現を用いています。
そして最終段落『ただ次の~出来なかった』についてですが、この時主人公は樹木となってしまっているため、泣くことも当然出来ません。ですが、『訪問者を見下ろす』という表現から俯瞰的な視点をもっていることがわかります。深い森の空は基本的に葉で覆われているため、主人公は葉のあたりから見下ろしている、ということがわかります。そこから『涙を注』いでいます。葉で覆われた空から注ぐもの、つまりそれは『木漏れ日』なのです。
彼は涙として木漏れ日を注ぎ悲しみや嘆きの気持ち、訪問者に「行ってはいけない」という気持ちを表現していたのです。
木の精霊が『陽射しのよう』な涙を流していたのは森を司る者故だったのでしょうか。
以上『木漏れ日』と『涙』の繋がりという深めの伏線的なものの説明でした。中々言葉に起こして説明するのは難しいですね笑
最後になりますが、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。恥ずかしながら私はまだ高校生ということもあり執筆技術や語彙、文章力などかなり拙いものとなってしまい、大変読みづらい文章で申し訳ないです。差し支えなければ今後の参考とさせて頂きたいためご意見・ご感想の程頂けると大変嬉しく思います。また機会があれば気ままに執筆して投稿したいなと考えております。その時は、私春椿をよろしくお願い致します。
ところで、本文初頭『木漏れ日』という言葉があります。
彼も森に入った時、『木漏れ日』に照らされていたようですね。